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第175話 口蜥蜴

 大まかな変形の構想を決めた俺は演出の為に空中にゲートで裂け目を作った。

 いきなり巨大な化け物が現れても迫力に欠けるからな。


 俺はゲートを隠れ蓑にして変形をする。

 きっと兵士達からは黒い渦から悍ましい化け物が這い出てくるように見えているだろう。


 俺が変形したのは、馬鹿でかい蜥蜴のような姿だ。 この世界で言う、竜だな。 だが、竜は竜でも地竜が一番姿としては近いだろう。


 だが、顔面には巨大な口が開いているだけで他のパーツは何一つない。ちなみにこれでも視界は確保出来ている。 合計四本の足は、掌が無くて腕から直接指が生えているような形状で、背中には水掻きのついた掌のような翼。その翼の指先で例えられる部分にはそれぞれ口がついていた。 そして尻尾は伸縮自在で、尻尾の先端には猛毒が仕込まれている。

 


 ゲートから抜け出たように見せ掛けた俺は蜥蜴らしい、ヌルッとした動きで地面に足を着けた。


 結構距離が離れていると思うのだが、それでも兵士達の怒号やざわめきは聞こえてくる。


 いいぞいいぞ。 とても順調に恐怖を植え付けられている。


 強烈な恐怖はそれ以下の恐怖を打ち消し、大抵の事に動じない不動の心を生み出す。 ……少なくとも俺はそう思っている。


 それを踏まえて言う。


 異種族の出現に、今回のこの魔物の襲撃。

 これらがこれから起こる"何か"の前兆だとすれば、俺はこの先に控えているであろう困難に兵士達が立ち向かえるように恐怖を堪える特訓を強制的にさせているのだ。

 

 まぁ、こんなのは建前で本音は暴れたいだけだ。



 そんな事より早く喰らわないと。

 こうしている間にもクロカとシロカが魔物をどんどん殺していっている。

 俺が持つ【強奪】と言うスキルには、『俺が殺した』と言う条件がついているから二人が殺した魔物は使い物にならなくなってしまうのだ。 勿体無い。


 取り敢えず口のついた翼を伸ばして魔物を喰らう。


「ぬおっ! ……なんだアキか」

「……む。 ……ふむ……俄には信じがたいが、確かにあの怪物からはアキの気配がするのぅ」


 こんな姿なのにも関わらず俺の気配を感知して俺だと認識できるってどういう事だよ。


 ……まぁいいか。


 俺は思考を切り替え、猛毒の尻尾を伸ばして魔物を薙ぎ払う。

 それによって吹き飛び死体となった魔物を、胴体から新たに分岐させた、大きな口しかない頭で掃除するように喰らう。


 ……ん……? これいいな。


 俺は胴体から大きな口しかない頭を無数に生やして、魔物の大群の中に突撃し、駆け回る。 そしてその勢いのまま魔物共を喰らう。

 喰い損なった魔物を轢き飛ばしたり踏み潰しながら駆け回る。


 おぉ……おぉ……凄い凄い。

 

 砂利でも蹴飛ばしているかのように容易く魔物を蹴散らせる。


 俺はそこで止まってから振り返り、あちこちに散乱している魔物の死骸を地面ごと大胆に喰っていく。


「……あんな化け物が実は理性ある人間だとは誰も考えぬだろうな」

「全くじゃ」


 空中で羽搏きながら暢気にお喋りをする二人。

 俺がチラリと視線を向けると慌てて魔物を倒し始める。


 ちなみに魔物の行進はクロカとシロカの初撃で止まっている。

 今ではあんなに派手に暴れまわったからか、全ての魔物が俺かクロカかシロカを睨んでいる。


 次の瞬間、一匹の魔物が叫びながら俺に飛び掛かってきた。

 その叫びには言葉としての意味があったのだろうか。 それを皮切りにして俺を囲んでいる魔物達が一斉に襲い掛かってくる。


 俺は魔物の山に押し潰され、身動きが取れなくなった。 ステータスをフルに活用すれば簡単に蹴散らせるが、それではつまらないし、芸がないだろう。


 なので俺は地面に面している腹の部分に口を開けて地面を喰う。 【悪食】があるので躊躇いはない。


 魔物の山から地中へ移動した俺は他の口も使って地中を喰い続け、魔物がいない地上を目指す。


 地中まで追ってくる魔物は槍のように形を変えた猛毒の尻尾で串刺しにした。 地上に出てから喰おう。



 やがて俺が出たのは魔物達の後方。

 位置的には兵士達と魔物の向こう、つまり魔物の大群がやってきた方向だ。


 俺は伸ばした尻尾に突き刺さる魔物の死骸を、胴体から無数に伸びた頭部で喰らう。



 ……うーん……なんかもう……急激に飽きてきたし後はクロカとシロカの経験値にしてしまおうか。


 急に暴れたくなったり、急に飽きたりって……もしかして俺は情緒不安定なのかも知れない。

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