第167話 移ろい喫茶ミキ 1
甲高い物音、騒音で俺は目を覚ました。
───カンカンカンカン!
今日はそんな騒音が三重に重なって聞こえてくる。
いつもは二重か一重(?)かなのにだ。
俺は耳を塞ぎながら寝ぼけ眼で騒音の発生源を探す。
……クロカ、シロカ、クラエルだ。
一人二つ鍋を叩き合わせてカンカンと音を鳴らしている。合計六つのの鍋だ。
この屋敷は使用人などが沢山居るので鍋が六つあっても全くおかしことではない。
最近ではこの『目覚まし鍋』が俺を目覚めに誘っている。 今日からはクラエルも参加しているが。
なのでもう大して不快感もなければ煩わしいともさほど思わなくなってきている。
これが慣れか。
俺は全員の頭を本当に軽くチョップして朝食を食べに向かう。
食後フレイアに話し掛けられた。
「アキ、何時に出るの?」
……? ……あぁ……そう言えば今日は『移ろい喫茶ミキ』とやらに行く約束をしていたんだった。
計画とか何にも、一切練っていなかったな。
「そうだな……もう出るから準備しとけよ」
「分かったわ」
取り敢えず適当に言っておく。
さて、どうするか。
昼食は移ろい喫茶で済ませるとして、その前後はどうしよう。
まぁ、何とかなるか。
俺はさっさと着替えを済ませて玄関で待つ。
数分後
フレイアがやって来た。
何にも計画を練っていなかったからもっと時間をかけてくれてもよかったんだが、結構早かった。
「ごめんお待たせ」
「おう。じゃあ行こう」
その後はフレイアが、あのお店気になる、あれ見たい~等とフラフラしてくれたお陰でいい感じに時間を潰せた。
今は大道芸人の芸を群衆に混ざって楽しんでいる。
玉乗りしながらお手玉、火の輪潜り、糸の上を歩くやつ……などのサーカスではありきたりな物からだんだん過激になっていく大道芸。
「あっ……すみません」
「…………」
歩いてきた人が肩をぶつけてきて謝られるが、どうでもいいので無視する。
これはあれだろう。
自分の所属するサーカスの宣伝か何かの類いなのだろう。
大道芸(?)は続き、とうとうナイフを自分に突き刺して黒○げ危機一髪のような事をし始めた。
そのナイフを刺し終わると次はナイフを引き抜き始めた。 出血は一切無い。
あちこちから引き気味の声が漏れる。
そこで大道芸は終わった。
地面に置いてあった帽子を前に差し出しておひねり頂戴タイムが始まった。
素直に凄いと思ったので俺も渡す事にした。
ポケットに手を入れ、財布を取り出す……
……あれ……? 無い。 ……財布が無い。
自分の全身を触って確かめるが何処にもない。
……そうか……あの時……
多分さっきぶつかった時にスられたのだろう。
「どうしたのアキ?」
「財布が無い」
「えぇ!?」
「まぁいいか」
「いや、よくないわよ!?」
俺はアイテムボックスに保管してある全財産の一部を取り出す。
この世界にも銀行のような施設があるが、そこよりも格段に自分のアイテムボックスの方が安全なので俺は自分のアイテムボックスに全て保管している。
ちなみに他の時空間魔法が使える魔法使いも、全財産まではいかないまでも結構な額をアイテムボックスに保管しているらしい。
なぜ全財産預けないのかと言うと、MPが切れた時にお金の出し入れが出来なくなるからだ。
俺はMPの多さには自信があるので、完全に全財産保管している。
「あの、すみません」
「……ん? 俺?」
「そうです。 これ……スられてましたよ」
そう言って男が俺の財布を差し出してくる。
「あぁ……ありがとうございます」
俺は財布を受け取りながら今取り出した金をアイテムボックスに戻す。
「ちなみにこの人が犯人です」
そう言って差し出されたのは、針金と見紛う程しっかりした糸でグルグルに巻かれてボコボコにされたおっさんだった。
「あぁ……衛兵に突き出しておきます」
「僕も同行しますよ。 その人がスリだと言う証言もしないといけないですし」
「助かります」
なんていい人なんだ。 こんな善人には敬意を払って敬語だ。
その後は詰所に少し拘束されて時間がいい感じに潰れた。 だが、証言者がいるのが好影響を与えたのか、すんなり話が進んだ。
解放された俺達三人は歩きながら会話していた。
フレイアはなんか不満そうだったが。
何かこの男──トシヤからは見覚えのある懐かしさ…親近感を感じる。
日本人っぽい名前だからだろうか?
……そう言えばこの間もこんな気分になった事があった気がするな。 いつだったか。
……そうだ。 あの時だ。 フレイアと王都のテイネブリス教団の本拠地を壊滅させた時の帰りのレストランで見知らぬ家族を見た時に感じて以来だ。
その時と全く同じ懐かしさを感じる。
…………ん? てかこいつその時の懐かし家族じゃないか?




