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第164話 【看破】の脅威

 冒険者ギルドまで帰って来た俺達はクエストの達成報告と、素材の売却をしていた。


 今はギルド内の隅で今後の方針について話し合っていた。

 恐らくあのダンジョンには他にもクラエルと同格の存在が複数居る。

 そう思わせる理由は、他の通路の存在とクラエルがあの通路しか管理してなかった事からだ。


 俺達が話し合っていたのは、次にどの通路を攻略するかだ。


「名無しのパーティ1001の皆さん。 こちらに来て下さい」


 その時、別の別の受付嬢から呼び出しがかかった。 ……そう言えばパーティ名考えてなかったな。 まぁ、もう良いか。 面倒臭いし。


 俺達は話し合いを中断して呼び出した受付嬢がいる窓口まで向かう。


「ギルドマスターがお呼びです。 こちらへどうぞ」


 案内されたのはギルドマスターの執務室だ。


 書類に囲まれてテキパキ作業をしているルイスがいた。 ルイスは俺達に気付くと、お……来たか……と言って顔を上げた。


「今日呼び出したのは昇格についてだ」


 そう言えば近々昇格させるとか言ってたな。


「お前達の功績を吟味して他所のギルドマスターとも相談した結果、優秀な者達を埋もれさせるのは勿体ないと言う事で、お前達をBランクまで一気に飛ばす事になった」

「……それは本当なんですか……?」


 クルトが愕然とした表情で確認をとる。


「あぁ本当だ。 俺もこんな結果になるとは思わなかった……」


 ルイスがどこか疲れたような表情で言う。


「そうだ。 報告したい事があるんだが」

「……なんだ。 言ってみろ……」


 嫌な予感がする。 と言う雰囲気に包まれたルイスが頭を抱えながら発言を許可する。


「ダンジョンの一部を踏破した」

「……マジかよ……ん? 一部?」

「あぁ。 恐らくあのダンジョンには複数の……」


 俺は先程の話し合いで辿り着いた予想をルイスに話す。


「で、こいつがそこにいたダンジョンマスターだ」


 俺はクラエルを手で指す。


「……ダンジョンマスターは自分の管理するダンジョンから出られない筈だが、そこはもうややこしそうだから聞かねぇよ。 ……それにしてもダンジョンの踏破か……ダンジョンの一番最初の踏破は一発昇格を検討する案件なんだが、流石にこのペースでの昇格は他のギルドマスターにも報告して相談しねぇと……」


 確かにこのペースでの昇格は他所のギルドマスターや他の冒険者に不正を疑われてしまう。 それをなくす為に報告と相談が必要なのだろう。


「まぁ、とにもかくにもお前達は今からBランクだ。 ほら、ギルドカードを出せ」




 その後ギルドカードをBランクに更新して貰った後、俺達は解放されギルド内で少し話し合いをしてから解散した。


 ……それにしても不安だ。 無闇に所有物を増やす事、そろそろオリヴィアに注意されてもおかしくない。

 クドウ様もう今回で最後ですよ、なんて言われるかも知れない。


 まぁ大丈夫か。 働くなら構わないと言ったのはオリヴィアだしな。


 色々考えながらフレイアとクラエルと並んで歩く。


 流石にクラエルは目立つので、俺が以前買ったパーカーとズボンを着用させている。 マネキンのように白い体が見えないように上下共にダボダボだ。



「おかえりなさいませ」

「「ただいま」」

「……あの、そちらの方はどなたですか…?」

「あぁ……クロカ達と同じ感じの奴だ」

「あぁ…………なるほど。 お待ち下さい奥様を呼んで参りますので」

「分かりました」


 そう言って頭を下げてから奥へ消えていったメイドさんを見送りながら玄関でクラエルと待つ。

 フレイアはここに居てもしょうがないのでとっくに自分の部屋へ帰っていった。


 それから暫くして出迎えのメイドさんがオリヴィアを伴って帰って来た。


「あらあら……」


 またですか、と言う感じをほんの僅かに漂わせながらオリヴィアは一人呟く。


「あの……こいつ魔物なんですけど……」

「分かっております。 働いて下さるのであれば……と言っても、もうメイドは多すぎる程居ますからねぇ……」


 そうか。そうだよな。 流石に雇う量には限りがあるか。 ……そうなれば雇う事はできず、『働く』と言う条件が満たせなくなってしまう。

 しまったな……


 いや、待てよ。 メイドじゃなくても仕事はあるじゃないか。


「メイドが無理なら、屋敷の警備とかどうですか?」

「そちらの方は戦闘もできるのですか?」

「多分できますよ。 と言うかこいつの前の立場的に警備の仕事は適任だと思いますし」


 あんな様だったが一応あのダンジョンを守護するダンジョンマスターだからな。 人間の屋敷の一つぐらいは守れるだろう。


 ……こいつは俺達相手に生き残ろうと、見逃して貰おうとしていたから警備なんかが出来るか心配だが。


 ……まぁそれでも、あの場に辿り着いた手練れの冒険者から生き残る術を引き出しながら殺害するほどだし並大抵の強盗じゃ手も足もでないだろうと思う。


「そう言う事でしたら構いません。 では、この方の配備は……熟練の警備の者の側にしましょうか。 まだ力量も分かりませんし、警備の経験も分かりませんからね」

「ありがとうございます」


 これは本心だ。 赤の他人の我が儘を快く快諾してくれる聖人のような人間には素直に大切に対応しないといけない。


「……えっと……お顔などは拝見させて頂けないのですか?」

「あ、そうだった」


 俺はクラエルのフードを取る。


「なるほど。 ……あまり悪い方ではなさそうですね。 生きる為なら手段を選ばないと言うところがありそうですが、それ以外はとても純粋な……まさに子供のようですね」

「…………【看破】ってそんな詳細に分かるんですか……?」

「えぇ。 相手の目を覗けば覗く程、詳細に」

「そうなんですね……」


 怖すぎるだろ。 覗けば覗く程って…

 もしかしたら当人が気付いていない自分の本性にも届く……なんてのもあり得そうだ。


 ……オリヴィアはヤバい。


 オリヴィアの夫がどんな人物なのか分からないが、オリヴィアの尻に敷かれているのが目に見えるな。オリヴィアは鬼嫁だ。

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