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第162話 マネキンの名付け

 ……なるほどな。 勝ち目が無いから生き残ろうと四苦八苦してたと言うことか。


 と言うか、この通路を統べるって……それはもう噂に聞くダンジョンマスターとやらに似た立場の魔物なんだろうな。


 取り敢えず死体の真似をして動けないと言う事らしいから、この部分の記憶を消して……言葉は理解できるらしいから対話してみるか。


 俺はマネキンの頭に手を当てて【記憶消去】を発動させる。

 このスキルの使用は出来るだけ避けたいが、この場合やむを得ないだろう。


 ダンジョンマスターは面白いから側に置いておきたい…ってのもあるが、こいつの人を欺く技量は貴重だ。

 融通が利かなくてクソだが、それでも自分の記憶した物と寸分違わず再現できるのは凄い。


 ……こいつが再現してた吹っ飛ばされる魔物って、素であのギャグ漫画みたいなやられ方してたんだな……



 そんな事を考えている内に、記憶の消去が終わってマネキンが起き上がってくる。


 起き上がったマネキンは至近距離で俺の顔を見るなり、飛び退いて尻餅を付いたまま、後退りする。


「おい。 言葉は分かるんだろう?」


 俺が話し掛けると、怯えて抱えていた頭を離して、唖然とした様子で俺を見上げる。

 頭上に疑問符が可視化できそうだ。


「聞いてるのか?」


 マネキンは我に帰って激しく首を上下させる。


「お前は死にたくないんだよな?」


 またもマネキンは激しく首を上下させる。


「なら俺の所有物にならないか?」


 生き物に向かって所有物はあり得ないだろうが、気分的にも扱い方的にも所有物がピッタリだったのでそう称した。

 ちなみにクロカもシロカも所有物、ペットに近い感覚だ。



 マネキンは一瞬呆けたような感じになって思案し始めた。


「──────?」


 可聴域ギリギリの超音波で何かを問い掛けてくる。

 何を伝えたいのか理解出来ないので【思考読み】を使って頭を覗く。


 マネキンは一瞬ビクッとしたが、どのみち抵抗しても無駄だと思ったのか大人しく頭に手を翳されている。


『……殺さない……?』だそうだ。


 そこまで殺意に満ちた様相だったか? 俺は。


「あぁ。 俺に敵意を向けない限り殺さない」

『じゃあ、所有物になる!』

「そうか。 なら名前が必要だな」

『名前? くれるの?』

「あぁ」


 マネキンの思考越しの会話だ。

 取り敢えず所有物になるのは受け入れて貰えた。


「あの~クドウさん……?」


 クルトが躊躇いがちに話し掛けてくる。


「どうした?」

「どう言う状況なんですか……?」

「こいつを俺の物にした」

「……え……?」


 これだけで理解できる訳ないよな。 まぁ、あとでちゃんと説明しておこう。


 そんな事より名付けだ。


 クロカは黒い見た目から黒化……ニグレドって名前が思い付いたし、シロカの時は立場や色合い等を鑑みてクロカの対である白化……アルベドにしただけだから割りと簡単だった。


 だが、こいつはクロカの時のように一から考えないといけない。

 その上全く特徴がないし、白を冠する名前はシロカに付けたから避けたい。


 名前と言うのは大事な物だからちゃんと考えて付けてやりたい。

 その結果安易な物になったとしても、ちゃんと考えたと言う履歴があるから問題無い。


 さて、どうするか。


 大根役者から大根を取ってラディッシュ? ……微妙。 なら役者を取ってアクター? ……無きにしも非ず。


 マネキン……小人……侏儒……矮人……


 …………中々良い案が思い浮かばない。


 なら立ち振舞いや印象で考えて見るか。


 ……うーん……こいつの立ち振舞いは完全に人に笑いを届けるサーカスのピエロだ。


 ならば黒()と白()からの()繋がりで道化なんてどうだろう。


 ……うん……良いな。


 なら呼び方はクラウンか?

『おい、クラウン』…………いやないな。


 ……じゃあ、クラウンとピエロを合わせて、クラエロ……クラエル。


 …………良いなクラエル。


「よし……決まったぞ。 お前の名前」

『本当!?』

「クラエルだ。 ……どうだ? 俺にしては結構頑張った方だが……」

『クラエル……クラエル……気に入った! 私は今からクラエル……!』


 クラエルは何回も反芻し名前を噛み締め、復唱して何度も確認した。


「よろしくな。 クラエル」

『よろしく。 ……えっと……誰……?』

「秋だ」

『アキ……! よろしく!』


 俺とクラエルは握手をして微笑みあう。 ついでにそのまま地面に座り込んでいるクラエルを立たせた。

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