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第154話 人間馴れ

「ふむ。 やはり良いものだな」

「そうじゃのぅ……湖なんかとは大違いじゃ」


 広い浴室に反響する、クロカとシロカの声。


 俺は今、二人と風呂に入っている。

 二人が湯船に浸かり、俺が体を洗っている。


 なぜこうなったかと言うと、もうすぐ風呂の湯を抜く時間で、もう時間がないからまとめて風呂を済ますと言う事でこうなっている。


 別に多少遅れてもいいんじゃないかと思うが、もしこの事がバレたら凄く怒られてしまうそうだ。

 それはもう龍の逆鱗に触れたかのように。


「はぁ……もっと早くに人間の文化を知ってればのぅ……」

「アキよ。こんな素晴らしい文化に触れさせてくれた事、感謝するのだ」

「おう」


 適当に返事をして泡がついた頭を流す。


「我は今とても機嫌が良い。 だからメイドらしく主のお手伝いをするのだ」

「何を言っておるのだ。 こんな場所でなんの手伝いを……」


 困惑するシロカを他所に、湯船が波立つ音がする。

 そして、こっちへ向かう足音。


「さぁ、アキよ。 綺麗にしてやるのだ」

「おぉおぉお主! なな何を!?」


 クロカがそう言うと背中に掌の感触が。


「おい。 何してんだ」


 漸くクロカの行動を把握出来た振り返った。 と、同時に水と共に流れる泡が目に入った。 ので、前を向いてシャワーで流す。


「あまり暴れるではない。 洗いにくいのだ」

「いや、洗わなくて良いから」

「ほら、アルベドもやるのだ。メイドとして奉仕は大事だぞ?」

「お主のそれはただのメイドがやることではないわ!」


 少し落ち着いた俺は背中から触手を生やしてクロカを縛り上げ、湯船に放り込んでからクロカが再びやってくる前に急いで頭を流す。


「……はっ! すまぬのだ。 少しどうかしてたのだ」

「全くじゃ……」


 飛沫が収まり、浮かび上がってきたクロカ。


「なにゆえあのような事をしたのじゃ?」

「アキの背中を見ていたら、突然ムズムズしてきたのだ……」

「は? 何を意味不明な事を…………」


 シロカの言葉が途絶えると、ジーっと背中に視線を感じる。


「な、なるほどのぅ。これは抗い難いのじゃ……」

「分かるだろう? 我もそのような感覚になったのだ」


 波立つ音が聞こえ、足音が聞こえ、背中に掌の感触が。


 流石に二度目の対処は早く、俺はシロカを縛り上げ湯船に放り込む。


「ぷはぁっ! 危なかったのじゃ。 衝動に呑まれるところじゃった……」

「行動に移してる時点で呑まれてんだよ。 で? なんなんだよさっきから」


 これでは満足に体を洗えない。

 そう思った俺は二人がこうなった原因を探す事にした。


「アキを見ていると、なんかこう……全身が熱くなってきて、アキに触れていたいと言う衝動が抑えられなくなるのだ」

「……なんだそれ」

「わからぬのだ」


 そんな事しか手掛かりがないのなら原因を探すのは無理だろう。


「まぁいい。 次やったら風呂から上がるまで縛るからな」

「そんな……!」

「酷いのじゃ! この衝動は抑え難いと言うのに!」

「知るか」







 その後、再び俺に触れようとした二人は縛られながら湯船に浸かる事になった。

 しかし凄いな。 二人が小柄とは言え、三人が入っても余裕がある湯船とは。



 ちなみに二人が再び俺に触れてきた時に【思考読み】を使って分かったが、これは発情だった。

 龍の癖に人間に性的興奮を覚えるまでになるとか、人間慣れし過ぎではないだろうか。 よく、飼い犬、飼い猫に発情されると言う話は聞くが、これはそんな感じなのか?


 全裸で恥じらいを覚えていた時もそうだが、こいつらにとって悪影響なのか好影響なのかイマイチ判断がつかない。


 だが、なんとなく悪影響な気がする。

 二人がスナッチと対峙していた時もそうだったが、最初に出会った時、俺に向けられていた程の威圧感も殺気もなかった。


 これは人間に……いや、他の生物に対して甘くなった証拠だ。


 俺は時々……本当に時々自分の態度や振る舞いを振り返ったりして、自分を見つめ直しているのだが、その時に感じる俺の甘くなった態度や振る舞いで薄々勘づいてはいたが、この二人のように人と関わり、生活し、人間慣れすると以前までの鋭さが無くなり、鈍っていくようだ。


 そんな鈍りはいらない。

 俺が目指すのは自己中だ。

 人と暮らし協調性を高める事ではないのだ。


 どうやら俺は知らず知らずの内に、こいつらと同じく人間慣れしてしまっていたようだ。

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