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第153話 改心

「ひぃぃっ……!」


 二体の龍と灰色の女に囲まれたスナッチは二体の龍を交互に見比べるようにしながら、比較的安全そうな灰色の女へ後退りする。


 そこで白龍が口を開いた。


「童を殺したのは貴様らしいな」

「いえ……! その、功績が欲しかったと言いますか……!」


 斬っても傷付かない灰色の女や、二体の龍種が現れたという事ですっかり萎縮してしまっているスナッチ。


「白龍よ、取り敢えず我の寝床へ連れていくぞ。 ここでは目立ちすぎる」

「む。 確かにそうじゃ」


 そして二体の龍はどちらが人間を連れていくか口論を始めた。 格下の人間を自分の背に乗せるのが嫌なようだ。

 スナッチは二体の龍のそんな俗物的な光景にすら恐れを抱いていた。

 世間一般では存在するだけで恐れられる龍が目の前で威圧感のある声で口論しているのだ。 その矛先が自分に向く事に怯えるのは当然だ。


 そして二体の龍は一頻り言い合った後に灰色の女に目を向けた。


「そうだ。 灰龍に連れて来させたら良いのだ」

「確かにそうじゃ。頼んだのじゃ灰龍!」


 二体の龍はそう言うと王都の外、ティアネー森の方向へ飛び去った。


 残された灰色の女とスナッチは顔を見合わせる。


「行こうか」

「…………」


 灰色の女がそう言うが、上手く言葉が出なかったスナッチは無言で首を横に振った。

 が、そんなのお構い無しに灰色の女はスナッチを抱え 、背中に翼を生やして二体の龍を追い始めた。





 荒れ果てた黒龍の寝床にいる四つの生命体は、灰色の女、黒龍、白龍、スナッチだ。


「それで、どうするのじゃ? アk……灰龍よ」

「俺はもう屋敷を破壊してスッキリしてるから。 適当に片付けておけ」


 白龍が木に寄りかかって座っている灰色の女に話し掛ける。


「俺……?」


 スナッチは灰色の女の不可解な一人称に疑問を呈する。


「……なんかおかしいか? 女でも自分の事を俺って言う奴はいるぞ?」

「そ、そうですよね……すみません……」


 妙に威圧感がある口調でスナッチに言い放つ灰色の女に、スナッチは簡単に引き下がった。


「それでこの人間。 どうしてやろうか」

「ふむ。 取り敢えず殺しておくかのぅ」


 圧倒的強者の口から告げられる自分の処遇に青褪めて、捕縛されていないのをこれ幸いと逃げ出そうとするスナッチ。


 だが、そのスナッチを捕縛しようと、縄に形を変えた土が襲い掛かる。

 振り向いて確認したスナッチは襲い来る土縄を躱し続ける。避けても避けても延々と追い掛けてくる土縄を。


そうしていたスナッチは逃げるどころか、いつの間にか自分が元の場所に帰ってきているのに気付いた。


「……くっ! やられた……っ!」


 再び逃走しようとするスナッチに、黒龍から放たれる全てを焼き尽くす炎が迫っていた。

 魔物との戦闘を繰り返しBランク冒険者まで漕ぎ着けていたスナッチはそれを直感で危険と判断し、態勢を崩しながらも必死に回避した。



「ふっ……うっ!」


 地面を転がり、息を荒げるスナッチに続けて繰り出されるのは月光を反射する綺麗な結晶に包まれた白龍による、結晶の破片の放射だった。


 それは、物を完全に燃焼させる黒龍の業火と違い、避ける事が不可能な程散りばめられて放射された。

 スナッチは出来るだけ剣で防いだり避けたりしているが、それでもスナッチを掠める結晶により皮膚はだんだんと裂かれていった。



 そうして痛みにより、握力が無くなっていくスナッチはやがて剣を取り落としてしまった。

 そこで結晶の放射は止んだが、全身に裂傷と血を滲ませたスナッチは力尽きたように仰向けに倒れ込んだ。



「貴様は酷い奴だな、白龍。 態々あんな痛め付けるような攻撃をしおって」

「む。 そんなつもりは無かったのだがな」

「まぁ分かるぞその気持ち。 新しく発現した固有能力を試したくなるのは当然なのだ」


 そう、二体の龍が使っていたのは新しく取得した固有能力だ。


「お主のあの炎もいつもとは違うようだったが……」

「あれは【完全燃焼】と言って、全てを焼き尽くす事が出来るのだ」


 黒龍の焦熱の猛火は【完全燃焼】と言う固有能力で、秋に名付けられ発現した固有能力。

 効果は文字通り、完全に燃焼させること。 尚、燃焼するのは酸素などではなく、自分の魔力だ。

 つまり、魔力を注げば注ぐ程、効果範囲が広がったりする。 しかし一定時間のクールタイムがある。


「そう言う貴様こそなんじゃ? あれは」

「童のあれは【結晶化】と言うのじゃ。 自分を覆って身を守ったり、放出して攻撃にも使えるのじゃ」


 白龍の纏い放射する結晶は【結晶化】と言う固有能力で、こちらも秋に名付けられ発現した固有能力。

 効果は結晶を纏い、物防、魔防共に引き上げることができ、更にそれを放射して攻撃する事もできる。

 尚、結晶を出現させるにはそれに見合った魔力を消費する。



「ぐぅぅ……ぅ……ぅぅ……」


 呻くスナッチの声を聞き、二体の龍は話を中断する。


「……聞くのじゃ人間。 お主は生きたいのか?」


 頷くスナッチ。


「ふむ。 そうか」


 白龍がそう言うとスナッチは白く神々しい光に包まれた。


「貴様何をした?」

「いつの間にか発現していた【精神的浄化】と言う固有能力を使ってみたのじゃ。」

「それはどんな効果なのだ?」

「……大雑把に言うと悪人を改心させる、じゃな」

「なるほどなのだ」


 白い光に包まれたスナッチは自分の中にある邪念が消えていくのを感じていた。

 それと同時に自分が今までは犯した罪への後悔と、それによる被害を受けた人々に償いたいと言う気持ちが芽生えていた。

 横領や浮気、不当な政策等々…………


 光が収まると、スナッチは嘗て無い程悲壮に染まった表情をしていた。

 勿論自分の罪に対しての罪悪感に押し潰されてだ。


「これからはその罪を自覚しながら償いや善行に生きるのじゃ」

「はい……分かりました……」

「それと我らの事は誰にも言うのではないぞ」

「勿論です。 偉大な龍種の方々が、人前に姿を表したとなれば貴方方に迷惑が掛かってしまうかも知れませんので……」


 スナッチの態度の変わりようは気持ち悪い程に顕著だった。


「灰龍よ、終わったぞ」

「ん……そうか。 じゃあ帰ろうか」


 そう言うなり、灰色の女はスナッチへ手を翳した。

 すると、スナッチの足下には黒い渦が出現し、スナッチは自分の屋敷へ送られた。



「ほら、服着ろ」


 元の姿に戻った秋は、ニグレドとアルベドに服を投げ付けた。


 当の秋も、いつもの複製制服へ着替えを始めた。 パーカーにジーパンと言った、男性でも女性でも着ていてもおかしくない服装だが、気分的に着替えたかったのだろう。


「こら、アキ! 女子(おなご)の前じゃぞ!」

「……こう言うのも恥ずかしいのか?」

「そうじゃ! だから、止めんか!」

「まぁ、もう着替え始めちゃったし……もう今更だよな」

「ふはは! アキらしいのだ!」


 そう言う黒龍は人化して、秋に投げ渡され、地面に落ちていた服を拾い、パッパと叩いてから着替え始めた。

 そんな友の姿を見てか、白龍も納得行かない様子ながらも人化して着替え始めた。

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