第150話 アキちゃん人形
「それ美味しい?」
フレイアはルイスから貰った飴玉を舐めている俺に話し掛けてくる。
「微妙」
味はマスカットが近い。
不味い訳では無いが、生憎俺はそこまでマスカットが好きではない。
だから微妙なのだ。
「微妙なのね…………で、昨日何してたのよ」
「……っ! ごほっ! ごほっ!」
いきなり過ぎる話題転換に驚き、舐めていた飴玉が喉に詰まる。
てっきりもう忘れたものだと思っていたが、まだ気にしてたのか。
「ちょっと、大丈夫!?」
「だ、大丈夫だ」
詰まった飴玉喉を広げて上手く対処した俺は少し吃りながらも答える。
昨日の話だが、これだけ時間が立っても忘れてくれないんだからもう逃げられなさそうだ。
馬鹿にされる未来が手に取るように分かるが、もう諦めて潔く白状してしまおう。
「仕方ないな。 帰ったら教えてやる」
「本当ね?」
「あぁ」
それからフレイアの歩幅は大きくなり、俺は何度もフレイアに早く早く、と急かされた。
今、俺の部屋には俺とフレイア、クロカとシロカもいる。
クロカとシロカにはもうバラしてあるから追い出す理由もないので取り敢えず居させてる。
俺はフレイアに昨日の事を話した。
「……なーんだぁ。 …………夜遊びとかじゃ無かったのね」
「夜遊び?」
「い、いや……え、え? えっと…… け、怪我とかしてないの?」
「え? してないけど」
「ならいいのよ」
夜遊び? この世界に夜遊びなんかできる施設があるのか? 街灯もろくにないこの世界に?
……まぁそれはいいとして、予想していた反応と全く違う……
俺はてっきり気持ち悪がられると思っていたのに。
「で? 女の子に変形ってなによ?」
とか思ってホッと胸を撫で下ろしていると、ちゃんと触れてきた。
……できればそのまま触れないで欲しかった。
「俺が殺して喰った生物に変形できるのは知ってるよな。 それを使って俺ってバレないように女に変装──変形したんだよ」
「性別が違えばバレ難いって事ね」
「そうだ」
「ふーん。なるほどね。 で、どんな姿に変形したの?」
実際に変形してみろってか。いやだね。
「……俺からはかけ離れた姿だ」
「それじゃ分からないから実際にやってみせてよ」
「……嫌だ」
恥ずかしい。
クロカとシロカはペットのような扱いだからあまり恥ずかしくないんだけど、相手がペットではない普通人間だと考えるとあれは憚られる。
「二人は見たの?」
「見たぞ」
「見たのじゃ」
「ねぇ……アキ……二人はよくて…………私はダメなの………?」
目を潤ませて上目遣いで聞いてくるフレイア。
確実に演技だと分かっていてもなぜか罪悪感の湧いてくる表情だ。
…………はぁ……こんな事になるぐらいなら二人をここに居させなかったらよかった……
「……仕方ない……分かったよ」
俺は溜め息を吐き、渋々了承する。 まぁ一度恥を忍んで変形するだけで満足するなら別にいいだろう。
「やったぁ!」
何が嬉しいんだか……
「お、おぉぉぉ…………か、可愛いわね……ねぇ、それってアキのタイプなの?」
「まぁ、せっかくだから可愛くしようとは意識したな」
「……ふーん……」
どこか納得行かなそうな表情で頷くフレイア。
「ふむ。 相変わらず見た目はいいのだ」
「中身はあれじゃがな」
「……あ、そうだ! ちょっとまってて!」
すると突然フレイアが、何かを思い付いたように部屋を飛び出して行った。
……嫌な予感がする。
暫くしてフレイアが帰って来た。
その腕の中に沢山の衣服を抱えて。
自分の未来を悟り、冷や汗が背中を流れる。
「ねぇアキ、これ着てみてよ」
フレイアが差し出すのはフェルナリス魔法学校の制服だ。 女子の。
「嫌だ」
「一回だけ! お願い!」
両手を合わせて必死に嘆願するフレイア。
…………もういいか。 一々こうして逃げててもしょうがないし。 嫌な事はさっさと終わらせてしまおう。
……だが、俺もやられっぱなしでは終わらない。 いつか仕返ししてやるからな。
「…………仕方ないな」
……と言うか沢山持ってきておいて、一回だけ! は無いだろう。 ちなみにサイズがほんの少し違ったので俺が変形して合わせた。
「おー……これも結構似合ってるわね」
「アキ、お主……哀れじゃのう……」
「ぷっ……ぷぷっ……」
「…………もういいか?」
「もう一回だけ。 もう一回だけ」
「おい。 俺は着せ替え人形じゃないんだぞ」
結局、それはメイドさんが扉越しに夕飯が出来たと伝えに来るまで続いた。
ほのぼの




