第149話 ギルドマスターからの発表
音を立てずに殺した魔物の死骸をアイテムボックスに収納する。
「そろそろボス部屋覗こうよ」
アデルの一言に、思い出したように扉へ視線をやるフレイア達。
「…おっと。 忘れてたぜ」
全員で鉄扉を押す。
ハイ・ミノタウロスの鉄扉でさえ全員で開けたのだ。 それより重そうなこの門はもっと力を込める必要があった。
「オーガキングか……」
マーガレットの言う通り、中に居たのはオーガキングだった。
真っ赤な全身で、真っ黒に捻れた角を左右の頭部に生やした、赤鬼と呼ぶに相応しい容姿。
体は二メートルぐらいでハイ・ミノタウロスと比べると圧倒的に小さく、その大きさに見合った速度で移動する。その癖にその膂力はハイ・ミノタウロスよりほんの少し劣る程度だ。
つまりハイ・ミノタウロスより強敵だ。
ちなみに理性があり、肌が赤銅色で角が生えている以外は人間と変わらない姿をしているものは、鬼人と呼ばれていて、魔人ではないが魔人と同じ扱いようなを受けている。
目的のボス部屋覗きを達成した俺達は冒険者ギルドへやってきた。
そこでは人だかりが出来ていた。 全員が上を見上げている。 二階だ。
冒険者ギルドの二階には『憩いの場』と呼ばれるスペースがあり、そこで臨時のパーティーが集まるのを待ったり、今から行うクエストの計画を練ったりするのに使われている。
まぁ大抵、席は埋め尽くされているので俺達は噴水広場を憩いの場の代わりに使っている。
その憩いの場は一階を見下ろせるように造られているので、ギルドマスターの演説にも使われるようで、今がそうだ。 憩いの場からはルイスが一階を見下ろしている。
ちなみに階段は他の職員が塞いでいる。
「みんなに重要な報告がある」
ルイスが話を始める。
話の内容はカイネフール洞窟に右の通路──ダンジョンが出現した事だった。
左の通路は今まで通りのカイネフール洞窟らしい。
だからフレイアのチームは怪現象に遭遇しなかったのだろう。
まぁつまりダンジョンと融合したって事だな。
他の冒険者達は人気がない狩場に対しての衝撃の情報について驚愕していた。
カイネフール洞窟の人気が無いのは、ダンジョンが出現する前は殆ど一本道で、狩りの成果や効率が悪いからだ。
大体カイネフール洞窟に行っても浅いところの魔物が狩り尽くされていると言う事が多発したため、今では人っ子一人寄り付かないのだとか。
俺達のメンバーが一人も最初から今日までカイネフール洞窟に入った時に誰ともすれ違わなかったのはそう言う事なのだろう。
ルイスはダンジョンの事を説明して二階から姿を消した。
ルイスが去った後のギルドはしばし騒然としていた。
話題は勿論カイネフール洞窟だ。
明日からはダンジョンに、ランダムに出現する宝箱や、新ダンジョン踏破と言う功績などを狙った冒険者が殺到する事だろう。
ルイスは本当に厄介な事をしてくれたな。
すると、受付嬢が俺達を呼んだ。
「ギルドマスターから皆様に話があるそうです」
俺達は受付嬢連れられて応接室らしき場所に通される。
「よぉお前ら。 今回は手柄だったな。 あ、そうだ……これ、新ダンジョン発見の報酬な」
そう言って人数分の小袋を机に置く。
中からはジャラジャラ音が鳴っている。
「あ、アキには俺をダンジョンに案内した分の報酬がある」
そう言ってルイスがポケット手を突っ込み、何かを取り出して俺に渡す。
飴玉だ。
「…………」
その後はダンジョンに関しての話や、今までのクエスト達成率や、魔物買取や、ダンジョン発見と言う功績を吟味した結果、近々昇格させるなどの話をして解放された。
クエスト達成報告をしてから今日もギルドの裏でハイ・ミノタウロスを解体して買い取って貰い、ついでにオークキングも買い取って貰った。
俺がハイ・ミノタウロスのお陰で潤った財布をアイテムボックスに放り込んでいたら、ラモンが話を持ち出してきた。
「…なぁなぁ。 あのダンジョンは俺達が最初に見つけたんだし、他の奴らに先を越される前に踏破しちまおうぜ」
ラモンが意気揚々と言う
「当たり前ですわ」
「言われなくともそのつもりだったぞ。 私達は他の冒険者よりも早く長く探索していたんだ。 その癖に一番に踏破できないなんて情けないからな」
エリーゼとマーガレットの言葉にうんうんと頷くフレイア達。
「…考える事はみんな同じってか。 じゃあ気合いいれようぜ」
そう言って掌を上に向けて突き出すラモン。
その意味を真っ先に汲み取ったクルトがラモンの掌に自分の掌を重ねる。
釣られて、俺、フレイア、マーガレット、アデル、エリーゼも掌を重ねた。
「…それじゃあ……絶対に俺達が一番を取るぞ!」
『おー!』
視線を感じる。
ここは冒険者ギルドの中だ。 騒げば注目されるのは当たり前だろう。
視線に気付いた俺達はそそくさと冒険者ギルドを後にし、流れで解散した。




