第146話 後処理
地下へ戻ると、すぐ傍に敵がいた。
「な、戻って─」
言い切る前に剣を持っていた女性に斬り殺された。 結構大人しそうな顔付きなのに表情一つ変えずに、だ。
「ひゅぅ。 やるじゃんお姉さん」
「仕事柄、こんなのは日常茶飯事でね」
「そ、そうなんだ。 どんな仕事かは聞かないでおくよ」
「それが良いね」
まぁ、十中八九殺し屋とか暗殺者とかだろう。
今もこの人が敵を斬り殺さなければこの人の存在に気付きそうになかっただろう。 殺し屋だか暗殺者だかの精鋭なのだろうか。
暫く進んでいると、大部屋にでた。 いや大部屋と言うより大食堂か。
白い布が被された食卓には食材が乗っていない真っ白な清潔そうな皿や、透明なグラス、スプーン、フォークが置いてある。
その横にある白い布の中から刃物が飛んできた。 間一髪で避けるが、そのせいで隣にいた人の腕に刃物が刺さってしまった。
……これだから集団行動は嫌いなんだ。
「ふんっ!」
その人は豪快に刃物を引っこ抜き、白い布へ投げ帰した。 投擲後に逃げもしてなかった刃物の投擲者は、易々と刃物に貫かれたようで、断末魔が聞こえてきた。
それが合図のように、他の白い布が被せられた食卓の下から敵の大群が飛び出してきた。
さっきの殺し屋の女性や、引っこ抜きの男性と違ってこちらには素人に毛が生えた程度の人間もいる。
なので全員無傷とはいかなかった。
が、前述したような有力者達の奮闘の甲斐あって幸いにもこちらに死者は出なかった。
一応俺も目立たないようにサポートはした。
「一旦止まって治療をしましょう」
ところ変わらず大食堂でそう言うのはこの場に相応しくない町娘のような風貌の美人系の女性だ。
その女性がさっき怪我をした人達へ聖魔法を使って治療していた。
「ありがてぇ……」
「助かります」
治療された者達は口々にお礼を言う。その度にその女性は微笑みで答える。
その微笑みを受けた者の大半の様子がそわそわしだしたのは気のせいではないと思う。
ちなみに腕に刺さった刃物を投げ返した男は治療を受けていなかった。
一通り治療を済ませ、大食堂を抜けた先では待ち伏せをされていた。
上から斧が落とされる。
それに気付いた俺は前に出る事で斧を躱した。 そして流れるように天井に張り付いている奴を見もせず魔法を放って片付ける。
前にも敵がいるから目を向けられなかったのだ。
どうでも良いことだが、俺が今着ているドレスは物凄く動き難かった。ので、裾を適当に千切って動き易いように改良しておいた。
後、斧の落下を避け損なったのか、床には俺の金髪が散らばっていた。 慣れない髪型をしているから間合いを見誤ったようだ。
つまりこれで俺はショートヘアーになった。 多少ざんばらだが。
地下を徘徊していると、一際豪華な扉を発見した。
「ここに奴らのボスが居そうですね」
「そうですね」
この二人の言う通り中には偉そうに椅子に座って肘を付いて微動だにしない人物がいる。
恐らく威厳ある状態で俺達を出迎えようと頑張っているのだろう。 足を組んでいるがどこかぎこちない。 肘を付いているのもぎこちない。
バタンッ!
勢いよく扉を開いて突撃する。 俺は目立たないように後ろの方に控えている。
「私を殺しに来ましたか」
そう言うのは髪を角のように左右に固めた髪型をした中肉中背のおっさんだった。 この髪を水に濡らしたら落武者のようになる事だろう。
「……まずは小手調べです。精々死なない程度に耐えてくださいね?」
おっさんが俺達に手を翳す。
─っ!
直感でヤバいと悟った俺はおっさんの真横に転移しておっさんの手を叩いて横に逸らす。
その瞬間、おっさんの掌からは細いが、とてつもない貫通力を誇る光線が放たれた。
その光線は壁を一直線に貫通して、すぐに止まった。
龍種のブレスには及ばないが、それでも小手調べでこの威力はヤバい。
こいつはただのおっさんじゃない。
俺はすぐにおっさんを鑑定した。
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名前:リィダ
種族:魔人
Lv56
MP :1,037
物攻 :1,003
物防 :1,006
魔攻 :1,057
魔防 :1,043
敏捷 :1,026
固有能力
無し
能力
片手剣術Lv3 短剣術Lv5 拳闘術Lv3 蹴脚術Lv2 魔法Lv6 魔力操作Lv5 演技Lv6 鑑定Lv1
魔法
火魔法Lv2
水魔法Lv2
土魔法Lv3
風魔法Lv3
氷魔法Lv1
雷魔法Lv4
光魔法Lv6
闇魔法Lv2
無魔法Lv4
聖魔法Lv1
時空間魔法Lv3
称号
無し
__________________________
魔人か。 ステータスの数値はそれほど高くない。 そして魔法は光魔法が群を抜いて高い。他に目ぼしいのも見当たらないし、さっきの光線はこれを使ったものっぽい。 演技スキルも高いな。 恐らくさっきのぎこちなさはこれによる物なのだろう。
まぁ、あの光線に気を付けていれば余裕で勝てる相手だ。
「おっと、転移ですか。 厄介ですね。 ふっ!」
リィダが短剣を一瞬で取り出し、それを振るうのを避けてすぐにリィダの腹部に膝を突き刺す。
「ふぐぅ!? な、なぜこんな小娘に……!」
腹を押さえて踞るリィダの顔面を蹴りあげる。
光線が怖いからな。 相手が動けるのに呑気に様子見などしている場合じゃない。
「ぎがぁっ!」
仰け反って地面に踞るリィダ。 今度は顔面押さえている。
取り敢えず何も出来ないように四肢の骨を折っておこう。
「やめてください……ごめんなさい……」
最初の威勢をなくして動けないリィダの様子を暫く見ても、謝罪したり嫌々言うだけで特に何もしなかったので、みんなで地上まで運び出した。
光線を放って抵抗したりもせず、普通に縛られて運ばれるリィダ。
ちなみに四肢が折れていても魔法は使える。
魔法を使う時に手を翳したりするが、それは狙いを正確に定める為の行為だ。例えるなら照準が無い銃と、照準がある銃の違いのような物だ。
それにしても、腹を蹴って顔面蹴って四肢の骨を折っただけで魔法の放たず無抵抗になるとは思わなかった。
いや、普通はそれだけされれば恐怖に竦んで無抵抗になるものだが、曲がりなりにもこう言う仕事をやっているのだからそんな簡単に折れてしまったらダメだろう。最後まで意地汚く足掻くべきだろう。
まぁ、無抵抗なのに越した事はない。 有り難く運ばせて貰おう。
地上まで本当に無抵抗で運び出されたリィダを衛兵に引き渡して俺は屋敷まで帰る事にした。
あぁ、姿戻しておかないと。
リィダの威勢の良さは演技スキルによる物です。
本当はただの小者です。




