第140話 またボス部屋
「気を付けろ。 壁や天井の中に魔物が潜んでる」
俺の注意喚起を聞いた皆は頷く。
「…ならいっそ魔法で先制攻撃しちまうか?」
「無駄よ。 ダンジョンの地形を破壊したりできるのは魔物だけだもの」
「…そうなのか。 じゃあ慎重に進むしかないのかよ……俺こう言うの苦手なんだよな…」
フレイアの言う通りダンジョンの地形を破壊できるのはダンジョンで生まれた魔物だけだ。
あと、ダンジョンの破壊は不可能だが、ダンジョン内に建造物を建てる事は可能だ。 尤も、魔物が蔓延るダンジョンに建造物を建てるメリットは全く無いが。
精々魔物から逃げる為に魔法で通路を塞いだり、落とし穴などの罠に対処する時ぐらいだろう。
その時、水面から顔を出すようにして一体の魔物が天井から降ってきた。
その魔物は土竜のような見た目をしていた。
「……っ! ふっ!」
しかし哀れな事にその土竜は地面に降り立つ間も無くマーガレットに斬り捨てられた。
その土竜の出現を皮切りに至る所から魔物が這い出してきた。
さっきの土竜や、蟻、芋虫にゴーレム。
多種多様な姿をした魔物があっという間に俺達を囲んだ。
誰の指示を待つでもなく、俺達は一斉に魔物達への攻撃を開始した。
数分後
通路には魔物の死体だけが転がっていた。
色んな魔物の血液が混ざっていて酷い異臭を放っている。 その血溜まりは、緑色や紫色の虫系魔物の血液も混ざっており、カラフルだ。 目には悪いだろうな。
俺達は異臭に耐えながらそそくさと魔物の死体をアイテムボックス放り込んでいく。
「ぷはぁ……臭かったですね……」
血溜まりはアイテムボックスに入れられないので、少し移動したところでクルトが目一杯空気を吸い込みながら言う。
「そうですわね……あぁ……これでは服に臭いが染み着いてしまいますわ……」
エリーゼが魔物の返り血で濡れた服を見ながら残念そうに言う。
「…まぁ、もう汚れちまった物は仕方ねぇよ。 切り替えて行こうぜ」
ラモンはあの異臭に気分が沈む事なく、相変わらず見知らぬ街へ来た少年のように目を輝かせている。
「うん……そうだね……みんな行こう」
人知れず嘆いていたであろうアデルに続いてエリーゼやフレイアも顔を上げて返事をした。
「これって……またボス部屋……?」
俺達の眼前にあるのはコボルトキングの時の扉よりも荘厳な装飾が施された巨大な扉だった。
「取り敢えず開けてみるしかないだろうな」
そう言うマーガレットはカツカツと扉まで歩いて行き、扉に手を掛ける。
巨大な鉄扉はコボルトキングの時より重いようなので、俺達も一緒に扉を押す。
すると扉は簡単に開き、俺達は部屋の中に傾れ込む。
中にいたのは人間の姿をした牛──ミノタウロスだった。
途轍もなく発達した全身の筋肉。
丸太を握り潰せそうな程大きい掌で巨大な斧を掴んでその斧を担いでいる。
丸太を握り潰せそうな、と、ある通りミノタウロスはマンションのように大きかった。
「いてて…………っ! あれは……ミノタウロス!?」
「あいつは私が小さい頃見たものより遥かに大きい。 恐らく上位種だろうな。」
上位種であろうミノタウロスは俺達を見下ろす。
「ブモオオオオオォォォ!!」
ハイ・ミノタウロスは爆発音のような、轟く咆哮を上げた。




