第14話 逃げられない
秋は地面を這っていた。
暴力から逃げるために。
しかし、這いつくばりながら移動できる距離なんてたかが知れていて…
「全然移動できてないよ。秋君」
すぐに追い付かれ蹴り飛ばされる。
「くっ……かはっ……」
地面を転がる秋の様は酷いもので、至るところから血を流し転がるたびに血飛沫が舞っていた。
「おっとそろそろ治療してあげないと」
テントラはそう言い、秋に回復魔法を使う。
「うーん……適度に刺激を与えれば……と思ったんだけど、無意味だったみたいだね……」
傷が治った秋は立ち上がり、走り出す。
「まだ逃げるの? いい加減無駄だって気づいてよね」
また
……そう……傷つけては治療し…傷つけては治療し……この行為は既に数え切れない程繰り返されていた。
「秋君。これで終わりにしよう」
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」
体力の消費を厭わず、闇雲に走る秋はすぐに足を縺れさせて転ける。
やがて、秋に追い付いたテントラは無意味だと理解しながら秋を蹴り飛ばし始める。
テントラは仰向けになり、血を流す秋の掌を踏みつける。
「……ぐぅっ……ぅうぅ……」
「うーん……仕方ないね……」
そう言ったテントラの横に黒い渦が出現し、テントラはその黒い渦の中に手を入れると、まさぐるように手を動かし始める。
黒い渦から手を引き抜いたテントラの手には小さな箱が握られていた。
テントラが小さな箱を開けると中には黒い球体が入っていた。
「はぁ……できるだけ自分で気付いて欲しかったんだけどなぁ……」
テントラは黒い玉を見つめながら、そう言ってこの黒い玉が何なのか説明し始める。
「秋君。これは【追憶の宝玉】って言うんだ。これを使えば、今まで秋君が歩んできた人生を、産まれた瞬間から宝玉を使う瞬間まで振り返る事が出来るんだ。分かった? じゃあちゃんと自分と向き合ってきてね」
テントラはそう言い、丸い窪みのある台座を取り出してそれに【追憶の宝玉】を嵌め込み、自分が踏みつけていた秋の掌を宝玉に触れさせた。
明日は10時投稿です。