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第137話 無用な憂い

 コボルトキングには害意が無く、交渉がしたそうな雰囲気だったから傍観していたが……


 え、ガレットって女だったのか? マジで?


 俺はガレットのさらしから溢れる女性的で豊かな胸を見て驚きが隠せなかった。


 てかこの世界に来て人の性別を間違えるの三回目だな…… アデルにクロカにガレット。

 ……これは酷い。



 いや、それよりも流石にあのままじゃガレットが可哀想だ。 危ない状況では無いが融通を利かせて助けてやろうか。


 俺は手を振るい、時空間魔法でコボルトキングの腕を斬り落とす。

 この魔法を使うのは入学試験以来だな。 便利だからあまり使わないようにしていたが、仕方ない。


 俺は転移で落下するガレットを受け止め、もとの場所へ戻る。

 あぁ、そうだ鎧も回収しないと。 ついでにコボルトキングも殺しておこう。


 俺はもう一度転移して、手の切断面を見て手が切断されたのを受け入れられていないコボルトキングの首を刎ねてからガレットの鎧を回収する。



「……ほら。 回収してきたぞ。 早く着ろ」

「……く、クドウ………… ありがたいのだが、無理矢理剥がされたからひしゃげたりしていて使い物にならないんだ……」


 ペタンと座り込み、俺を見上げて申し訳なさそうに言うガレット。


「……あぁー……」


 なんとも言えない空気が流れる。

 誰かなんとかしてくれ。 と思いクルトを見るが、クルトは一応目を反らしながらも呆然としていて使い物にならなそうだ。


「……まぁ……これでも着とけ」


 俺はアイテムボックスから複製制服を取り出し投げ付ける。


「これは……? いいのか? クドウ」

「あぁ。 沢山もってるからな」

「助かる……絶対に後日洗って返す」

「別にいい。 黙って見守ってたお詫びだ」


 自慢じゃないが、あの制服は本職の人が作った物と同じぐらいクオリティが高い。 しかもこの世界では見られない日本の制服だ。

 お詫びにしては途轍もなくくだらないだろうが、今はそれぐらいしかしてやれないから仕方ない。


 今度ちゃんとお詫びしないとな。


「いや……! しかし……!」

「いいから、沢山持ってるって言っただろ」

「………………で、ではありがたく貰っておこう」

「あぁ」

「…………その……見られてると着替えられないのだが……」

「あぁ……すまん」


 布の擦れる音をクルトと共に背にして、クルトと共に気まずい空気を味わいながらガレット着替えを待つ。



「…………も、もういいぞ……」

「…………」

「…………」


 どうしよう気まずい。


「ど、どうしますか? 今日はもう帰ります?」


 クルトが勇気を振り絞ってそう言う。


「そうだな。 二人共、コボルトキングと戦って疲れてるだろうし帰ろうか」

「…………き、聞かないのか? わ、俺……いや、私? が男として振る舞っていた理由……」


 おい空気読めよ。 ガレット。 今クルトがこの空気を払拭しようと頑張ったところだろうが。


「……お前のその格好を見たらあいつらにも聞かれるだろうからその時教えてくれ」

「確かにその方がいいな……そうだな……分かった」

「……まぁ……何も心配する必要は無いと思うぞ。 絶対受け入れて貰えるだろうからな」

「……そうだろうか……?」

「あぁ」


 なんせ魔人だとか異世界人だとか言うのが受け入れられるんだからな。


「じゃあ洞窟の入り口で待ってましょうか」


 俺達はクルトの言う通り洞窟の入り口でラモン達を待つ事にした。


 そしてなぜか意外とよくなった空気。 なにが原因だろうか? 今まで長年コミュ障やってた俺には到底理解できそうにないな。






「……おっ……もう帰ってたのか。 なんだ? 行き止まりだったとかか?」

「あれ……? ガレットさんどうしたのよその服装。 アキと同じような服装じゃないの」

「あ、本当だ。 なんで?」

「なにかあったんですの……?」


 俺達を見つけるなり駆け寄って来て口々に騒ぐラモン達。 人が増えるだけでこんなにも騒がしくなるものなんだな……


「あの! みんな、黙ってて済まなかった! これには理由があって決してみんなを騙したかったとかじゃ無いんだ!」


 勢い良く頭を下げて捲し立てるガレット。


「お、落ち着いて。 ガレットさん」

「ゆっくりでいいんですのよ」

「わ、分かった。 ……スー……ハー……」


 アデルとエリーゼに宥められたガレットは深呼吸をして自分の心を落ち着かせる。


「……まず、私は女だ。 本名はマーガレットと言う───」






 ガレット──マーガレットの話を聞いた俺達は様々な反応をしていた。


「ふーん。そうだったのね。 いいじゃないの、そんな小さい頃から揺るぎない決心をして夢を持っているって」


 フレイアの言葉に頷く皆。


「…そうだぜ。 それに今は女でも普通に騎士やってるし、例えばライリー先生とかな。 だから別にもう男に成りきらなくて良いと思うぜ?」


 ライリーはフェルナリス魔法学校の体育教師であり、ミレナリア王国第二騎士団団長だ。

 当時は蔑視されていた女性でもここまでなれている事から、昔の騎士達の風潮は無くなっている事が窺える。


「そうだよ。 昔とは違うんだからね。 ボクはマーガレットさんはマーガレットさんらしくしていれば良いと思うよ」


 もう性別を偽らずに生きて良いのだと暗に言うアデル。


「わたくし達は友達、仲間なんですのよ? そう簡単に騙したなんて思って嫌ったりしませんわ」


 マーガレットの不安を拭うエリーゼ。

 初めて出会った時の高飛車そうな印象とは真反対の言葉をかける。


「俺の言いたい事はもう皆が言っちゃいましたね……」


 言おうと思っていた事を悉く他のやつらに言われてしまったのだろう。 


「な? 言っただろ? 心配する必要は無いって」

「あぁ! 勇気を出して告白してよかった! 背中を押してくれてありがとうクドウ。 受け入れてくれてありがとうみんな!」



 憑き物が落ちたように清々しい笑顔でマーガレットは礼を言った。

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