第136話 犬は鼻が利く
「はああああっ!」
秋の足止めを食らっているコボルト達によって生み出された一本道を鞘から抜き放っていた剣を持ち、走り抜けながら叫ぶガレット。
そんな愚直な進撃を許すほどコボルトキングは落ちぶれていない。
人間五人分程の大きさもあるコボルトキングは右手に持っている人間一人分程の大剣を振り下ろした。
「させません!」
その斬撃はクルトが放った土の塊が直撃したことにより、剣の軌道が逸れた。
コボルトキングの大剣は、秋の電流により死体となったコボルトの死体を切断した。
「はぁっ!」
コボルトキングの下へと辿り着いたガレットはコボルトキングの引き締まった腹筋を斬り付けた。
その腹筋は容易く裂かれ、赤い鮮血が噴き出した。
「バゥゥゥゥゥンッ!!」
ガレットは血で濡れた剣を痛みに怯むコボルトキングへと何度も振り下ろした。
コボルトキングはこのままでは不味いと悟ったのか、ジタバタと不規則に暴れだした。
「っ!」
ガレットは後ろに跳んで避けようとするが、距離が足りないのがわかったので上位火魔法、エクスプロージョンを無詠唱でコボルトキングに放ち、その爆風を利用して飛距離を稼いだ。
ちなみに無詠唱は勉強すれば誰でも簡単にできるようになる。
しかしこれはスキルでは無く、その魔法一つ一つの術式を完全に理解すると使えるようになるのだ。
例えばファイアーボールの術式を理解すればファイアーボールが無詠唱で使えるようになるが、他の火魔法はそれぞれの術式を完全に理解するまでできない、と言ったように無詠唱を覚えるには、一つ一つ魔法を丁寧に理解する必要がある。
だから大抵の魔法使いは自分が良く使う魔法だけを研究している。
その為、火魔法使いは他の属性魔法が拙いと言ったように非常に偏った傾向になる事が多い。
だが秋と、秋のパーティの面々は誰もが殆どの魔法を無詠唱で使えるのでこの法則は無いに等しい。
コボルトキングから距離を取ったガレットと変わるようにクルトが魔法を連発しだした。
味方への誤射の危険がなくなったからだ。
コボルトキングは、とっくに秋によって殲滅されていた配下の死体を蹴散らしながら、倒けつ転びつ絶えず襲い来る痛みを紛らわす為に部屋の中を走り出した。
その行動を危険だと判断したガレットとクルトは攻撃の手を止め、コボルトキングを油断なく見据えていつでも回避が出来るように注視する。
コボルトキングが落ち着くまで迫り来るコボルトキングの巨体を躱し続ける。
やがて転がりながら仰向けに転倒してしまったコボルトキングを見てチャンスだと判断したガレットは一気に駆け寄った。
しかしそれは罠だった。
コボルトキングはとっくに落ち着きを取り戻し、わざと隙を見せ、油断した相手を自分に接近させて、倒すと言う作戦をたてていたのだ。
コボルトキングはガレットを左手で掴んだ。
「……っ! なっ!」
「ガレットさん!」
そしてその巨体からは考えられない程、素早く起き上がり秋とクルトを正面に据えて後退りする。
人質だ。
「っ! クソっ! 離せ犬っころめ!」
ガレットは自由に動かせる左手でコボルトキングの人差し指を叩く。
剣を持っている右手はコボルトキングの掌の中だ。
「バフゥゥゥン?」
コボルトキングは嘲るような声色で挑発的な表情を浮かべた。
が、一転。
コボルトキングは訝しげな顔をしてガレットへ鼻を近付ける。
「何のつもりだ……?」
コボルトキングは今度は驚いたような顔へ変わり、ガレットに逃げられないように両足を掴んで逆さ吊りにした。
そして空いている手で徐にガレットの鎧を剥ぎ取り始めた。
「っ!! き、貴様! や、止めろっ!!」
焦ったガレットは身をくねらせ、コボルトの行動を阻害する。
苛立ちを覚えたコボルトキングはガレットの両足を握り潰すように強めた。
「ぐあああぁぁっ!!」
身を反らして悶えるガレットを意にも介さずコボルトキングは不器用ながら鎧を剥ぎ取る。
やがて表れたのは羞恥に顔を赤らめて必死に隠そうとするガレットの、さらしに潰された豊満な胸だった。




