第130話 横取り
時刻はフレイアとラウラが騎士団に襲撃を受ける前。
詳しく言うと、秋が白龍のアルベドを従えて、騎士団の襲撃を受けるまでの間だ。
ギルドマスターの執務室
ギルドマスターのルイスはいつもより山積みの書類を捌いていた。
その書類は冒険者の問題─暴力事件や昇格や降格の決定、他には近場の魔物達の動向を纏めた報告書などだ。
一枚の書類を捌くと、次の書類へと手を伸ばす。その時山積みの書類が目に入った。
「はぁ……」
その書類の山を見上げたギルドマスターは溜め息をつき、新たな書類に目を通し始める。
いつもの溌剌とした様子からは想像もつかない姿だ。
元々大量にあるのは承知だったが、改めて見ると辟易してきたのだ。
捌いても捌いても一向に終わりが見えない。
すると、執務室の扉が叩かれた。
「……入れ」
「失礼します。 スナッチ・ザペス様を連れて参りました」
「!」
受付嬢の言葉にビクッと身を震わせ、姿勢を正すルイス。
「こんにちはギルドマスター様」
「態々御足労頂きありがとうございます。ザペス子爵。 ……えー……例の白龍討伐の件でございますよね?」
「はいそうですね。 白龍を討伐したとあれば昇格、できますよね?」
スナッチと呼ばれた貴族の男はBランクの冒険者だ。
この者が言う白龍とは、この間ティアネーの森の上空に出現した白龍の事である。
「……まだ討伐された白龍が発見されておりませんのでなんとも言えないですね…」
「……またそれですか。子爵であるこの私が嘘を吐いていると疑うのですか?」
「いえそうではなく、ギルドのルール上、事実確認が取れないと何も判断ができないのです」
魔物の死体が持ち帰られないと討伐した事にはならないのだ。
この話に上がっている白龍の死体が発見される事は確実にないだろう。
なぜならその白龍は生きていて、ある人物に仕えているからだ。
「……また来ますね。ギルドマスター様」
「…………」
自分の立場が危うくなることを察知したスナッチはギルドマスターにお辞儀をした受付嬢を伴い、そそくさと退出した。
「……チッ……面倒なルールだ」
「何か言いましたか?」
「何も言ってないです」
帰り道、スナッチは護衛にも聞こえない程の小声で呟いた。
その日の夜、スナッチは自分の屋敷の執務室で仕事を始めた。
そして、そこで昼間の怒りの捌け口を発見した。
『ゲヴァルティア帝国の騎士団と思われる者達が、我が国で匿っている亡国アイドラーク公国の王族を狙って襲撃を行った。 尚、帝国の騎士団は何者かに殲滅された模様』
「ふははっ……憂さ晴らしに丁度良い。 前々からあいつらは気に入らなかったんだ」
スナッチはアイドラークの王族が自分より良い屋敷に住んでいる事が気に入らなかったのだ。
他国の……それも滅んだ国の王族の癖に、と。
「これを大きく糾弾すればあいつらは終わりだ」
スナッチはククク、と笑い声を不気味に堪えた。
次の日
スナッチは国王への重要な報告と称し、国王との謁見を申し出た。
その申し出は快く受け入れられ、今に至る。
「昨日、アイドラーク公国の王族を狙ったゲヴァルティア帝国による襲撃がありました」
「……そうか。 帝国もそろそろ我慢の限界のようだ」
スナッチの報告に、大して驚く様子もなく呟く国王。
「それで私は考えたのです。 あの王族を匿うのは止めるべきだと」
「なぜだ?」
「あの王族を狙った襲撃が激しくなれば我々にも被害が及ぶ可能性があるからでございます」
「……ふむ」
「ですから──」
「ザペス子爵。 貴殿は我が国を救った英雄の家族を見捨てろと?」
「え……?」




