第127話 昇格
俺は動揺を悟られないように顔を逸らしながらフレイアの頭を撫でる。
普段言われるあまり感謝の気持ちが大きくない"ありがとう"と違って、今のフレイアの心からの"ありがとう"は全く違った。
だからこの"ありがとう"と言う言葉に対しての俺の対応が良く分からなかったのだ。
そして反射的に行動した結果、頭を撫でると言う奇行に走ってしまった。
「んぅ!? ななな、何するのよっ!?」
フレイアのこの反応も当たり前だ。
「あ、いや、すまん」
「……いやっ……べ、別にいいわよ……」
「え?」
「なんでもないわよっ!」
思わず聞き返したが別にいいってなんだよ。
まぁいいか。
そんな事よりラウラだ。
出血は押さえたが、それでも重傷を負っている。 早く治療させた方がいいだろう。
俺はゆっくり慎重に丁寧にラウラを抱き上げ、揺らさないように立ち上がる。
転移門をアデル達のところに繋げて発動させる。
「フレイア、先に入れ」
「分かったわ」
俺が通るとゲートは消えるから先にフレイアを行かせないといけない。
フレイアが通り抜けたので俺もゲートを通り抜ける。
さっきから何か、ドローンのような魔道具(?)がフヨフヨ飛んでいる。
恐らくこの騎士団を仕向けた奴らの偵察道具だろう。
俺はドローンを少しの間見つめてからゲートを通り抜けた。
「あ、おかえりクドウさ……ってラウラ!?」
「ら、ラウラさん!? どうしたんですの!?」
「…こりゃぁひでぇ……早く医者に診せねぇと」
「クドウ。何があったんだ?」
「知らない。 俺が着いた時にはもうこうだった」
「……あの軽鎧の騎士達でしょうね……」
慌てたりラウラの心配をするアデル、エリーゼ、ラモン。
真剣な顔でこうなった経緯を尋ねるガレット。
冷静に推察するクルト。
それらを眺めていたフレイアは自分を責めるように俯いて、唇を噛み締めている。
ん? なんだあれは……
ここより少し王都を離れた街道付近に黒い塊が点々とある。
何よりそれは見覚えのある形をしていた。
それは──自動車だった。
「なんでこの世界に……?」
「どうしたんだ?」
「いや……俺の世界にあった物が……」
「異世界の……?」
ガレットはそう呟き俺の視線を辿る。
「ふむ。あの黒い塊か。見慣れない形状だからすぐに分かった」
今すぐ近くに行って確認したいが、今はラウラの治療が先だ。
俺はそう思い直して皆を促し王都へと向かう。 少しでも容態がよくなるように聖魔法を使いながら。
俺は病院の場所を知らないので徒歩で向かう。 行ったことさえあればゲートで行けるんだがな……
その道中が酷く、もどかしかった。
病院は木と石が散りばめられた建物で、ちゃんと病室が分けられていた。
まぁ…建物の素材以外、殆ど地球と変わらなかった。
「酷い状態ですね……完治は難しいと思われます。できたとしても後遺症が残るでしょうね……」
白衣を纏った清楚な美人女医が申し訳なさそうに告げる。
ラウラが診察されている間にラウラの家族に報告しにいったのだが、不在だった。
なので仕方なく俺達が診察結果を聞いている。
ちなみにこの世界では、医者の人手が不足していない限り、患者と同性の職員が患者の世話をすると言う法律があるようだ。
つまり俺が入院してもナースに看病して貰えないと言う事だ。
【超再生】がある俺が入院する訳ないが。
その後女医から受け取った診断書をラウラの家のポストに投函してギルドに向かいクエストの達成報告と素材の買取などを済ませた。
さて、街道付近にあった自動車を見に行こう。
そう思いギルドから出ようとすると、ギルドマスターのルイスが俺達を引き留めた。
「名無しのパーティ1001。 ちょっと来てくれ」
一瞬なんの事か分からなかったが、エリーゼが教えてくれたので思い出した。
これは俺達の事だ。
……と言うか『名無しのパーティ1001』ってダサすぎないか?
これは早めに名前を考えないとな。
俺達が案内されたのは受付だった。
「よしお前ら昇格だ!」
いきなり告げられたのはそんな事だった。
「主な理由は先日のキメラの件だな。 まぁそれがなくてもお前らはすぐに昇格していただろうがな! ちょっと昇格のタイミングが早くなったって事だ!」
「はぁ……」
嬉しい事だが、俺は自動車を見に行きたいのだ。
「なんでそんなテンション低いのよ…これでもっといい依頼が受けられるのよ?」
「あぁ、そうか」
「ハッハッハッ! まぁとにかくお前らは今日からEランクだ!」
ルイスはそう言って全員のギルドカードに何かを施した。
返却されたギルドカードには確かに『Eランク』と書かれていた。
「…やったぜ! これでもっと金が手に入る!」
「もっと強い魔物と戦えるのだな」
などと思い思いに喜んだ後、解散した。
俺はフレイアとクロカとシロカをゲートで屋敷まで送り、王都を出た。
自動車を見に行くためにだ。




