第126話 変化
なんだこいつらは。
突然現れた軽鎧集団を眺めながら思う。
「あ、あの、ボク達に何か用ですか?」
アデルが俺の前に出て言う。
流石勇者。 反射的人を守る為に行動している。 こう言うところが勇者選ばれた所以なんだろうな。
「外れですか……皆のもの撤退です。 他の部隊に先を越される前にさっさと鼠の様に逃げ惑う王族の娘を探しましょう。 そして私達が特別報酬を受けとるのです!」
……ほぅ……王族の娘か。
この国でこの場所で王族の娘か。十中八九フレイアだろうな。
殺す前に念のため【思考読み】で確認を取る。
…………アウトだ。 こいつらがフレイア達の母国を滅ぼした奴らだ。
最近【思考読み】に頼りすぎな気がするな。
戦闘以外は特に制限してなかったけど、もうちょっと使用頻度を下げようか。 これじゃ面白くない。
などと考えてる内に軽鎧集団は始末した。
いや、早いな。
いつもの様に触手を生やした後に、先端だけ様々な形を持たせて殺す。 俺の遊び心だ。
さて、他の部隊とか言ってたし早めに皆を集合させよう。
「はぇ……? ……く、クドウさん!? 何やってるの!?」
間抜け面から戻ったアデルが顔を近付けて詰め寄ってくる。残念ながら身長差があるから大して威圧感も感じない。
「こいつらは敵だ」
「なんで分かるのさ!」
「頭の中を覗いたから」
「でもこの人達はボク達を見逃そうとしてたんだよ!?」
「それでもこいつらの標的がフレイアだからだ」
「……なんでフレイアさん……?」
「俺からは教えられない。 あいつとあいつの身内の事情だからな」
さて無駄な問答は終わったし早く行こう。
俺は悠長に死体を回収してから森を駆け回った。
アデルは移動の邪魔なのでクロカとシロカのに所に向かわせた。
結局フレイアのところに向かうのは最後になってしまった。
俺の運が悪いのもあるが、何より他のチームも襲われていたから一々助けに入っていたのだ。あ、他の奴らもアデルのところへ向かわせた。
本当に運が悪い。俺のところに来た奴はすんなり引いていったのに。殺したけど。
──まるで運命が俺の足を引っ張って足止めをしているようだ。
そう考えた瞬間、嫌な予感がしてきた。
……出来るだけ急ごう。
俺はこの時初めて【探知】を発動させた。
嫌な予感がするまで、心のどこかで間に合うと思い込んでいたからだ。
見つけた。沢山人間がいる。
円形に囲まれている人間が三人。三人の内、二人は近くで並んでいる。
その二人がフレイアとラウラだと思いたいが、俺にはどうもフレイアかラウラのどちらかが人質に取られているようにしか見えなかった。
……嫌な予感は募っていくばかりだ。
到着したが、状況は最悪だった。
ボロボロで両手を吊り上げられて、俯いて力なくぐったりしているラウラ。
怒りで我を忘れるとかは一切なく、頭の中は晴れていた。
蘇生の手段が存在すると分かっているから万が一死んでいても大丈夫だと余裕を持っているからだろうか。
肝心な蘇生の方法は分からないが。
これが片付いたらシュウと邪神に聞こう。
「……助けて……アキ……」
フレイアが助けを求めている。
なんで下の名前を……?
まぁいいか。
取り敢えず近くにいた騎士の首を斬り落としてからフレイアを押さえつけている奴も切り裂く。
もっと多種多様な変形をしたいのだが、正直、物攻と敏捷が高いので刃以外に変形させる意味が無い。
「クドウ……さん……?」
「……アキでいい。 そっちのが呼びやすいなら」
「…………うん」
取り敢えず優しくしておこう。また精神が不安定っぽいしな。 後で記憶を封印しておいてやろう。
「なんだ、きさ──」
ラウラの側に立っている人間の頭を弾き飛ばす。
指を鞭のようにしならせてみた。 植物系の魔物の蔓や根が元だ。
「ぶ、分隊長!?」
「おのれ、貴様よくも!」
自分の上司が殺されたと理解した奴らが復讐心を燃やして襲い掛かって来た──
数十秒後には全員死に絶え、二度と動かない死体へと変わっていた。
まずはラウラの状態を確認しないと。
俺はラウラに近付き膝を突く。
ラウラの顔を優しく持ち上げ表情を伺うが、殴り、蹴られて傷だらけの顔からは悲惨さしか窺えなかった。
俺はラウラの心臓辺りに手を当てる。 …………掌の感覚を集中させる。 ……ラウラの胸の感触を感じるためじゃない。
……鼓動が感じられた。
……よかった生きてはいるようだ。 つまり気絶しているだけだ。 でもその鼓動は弱々しい。
掌を貫通している縄を切断して、掌に残った縄をゆっくり引き抜く。
そして気休め程度にしかならないだろうが聖魔法で治療しておく。
俺の聖魔法はレベルが低いからな。 後で病院にでも連れていこう。 あ、そう言えばこの世界って病院あるのか? 流石にあるよな。
ある程度治療を済ませた俺は振り返り、フレイアに向き直る。
……さて、記憶を封印しようか。
そう思いフレイアに向き直り、【威圧】を使う。
……あれ……?
……気絶しない……
……うーん……困ったな。
【記憶消去】はともかく、【記憶封印】は意識の無い相手にしか使えないからな……
「もういいわよ」
「え?」
フレイアが立ち上がって言う。
もう良いって何が…?
「私はもう辛い事から逃げたく無いの。 だからもういいわよ」
「…………」
フレイアの予想外の発言に驚き呆気に取られていた俺は思考を切り替えてもう一度確認する。
「そうか。 でも本当にいいのか? 見たんだろう? ラウラが痛め付けられる様を」
「見た上で、よ。 ラウラがあんな風にされてしまったのは私の決断が遅かったせい。 私が優柔不断で甘かったからよ。 ……だから私はもっと……体も心も強くならないといけない。 その為にはどんなに辛い事からも逃げずに受け入れないといけないの。 ……だから……お願い」
「……そうか。分かった」
フレイアの赤い双眸は強い意思と決意を宿して力強く、そして綺麗に輝いていた。 まるで夕陽のように。
そこを一陣の風が吹き抜け、炎のような眼差しと同色の深紅の髪が靡いた。
それは、俺が今まで見たこと無い程に、儚く美しく強靭で幻想的な光景だった。
俺はその光景に目を惹き付けられていた。
綺麗なものは沢山見てきたが……初めてだ。
綺麗なものに釘付けにされるのは。
「……でも……まぁ……私の事を心配してくれて、ありがとねっ! アキっ!」
───っ!?
赤く輝く夕陽に照らされたフレイアは、片手を後ろに前屈みになって、上目遣いで、風に靡く赤い髪を押さえながら、照れ臭そうな満面の笑みを浮かべていた。
…………ははは……
…………不意討ちだ
………………あんな強い瞳で固い決意を抱いてた癖に───
────可愛い笑顔なんて──
イチャイチャしてますが友達が重傷を負っています。




