第123話 波乱の予感
──ゲヴァルティア帝国 王城
王の執務室─その本棚の奥に続く小部屋で帝国の有力者達が集まっていた。
「ミレナリア王国に逃亡したアイドラークの王族の娘はどうなっている?」
この小部屋に今やってきた、豪奢な衣装に身を包み、王冠を被った者──皇帝が問う。
「変わりありません。 前と同じく、常に素性不明の男と一緒にいます。 ……あと、我々が仕向けたテイネブリス教団は任務を失敗し、逃亡致しました」
黒く肌に張り付いているのかと思うほどピッチリした服に身を包んだ者──諜報部隊隊長は答える。
諜報部隊隊長が言うテイネブリス教団とは、白龍に首輪を着けた者達である。
その報告に驚いたり、衝撃を受ける者は誰一人いなかった。 もとより期待などされていなかったからだ。
「ふん、だろうな。 これなら運命を司る女神"ベール"を崇めている宗教団体を使った方が良い結果を残せたやも知れんな」
皇帝が興味無さげに呟く。
「ふむ。 白龍を下す程の男か……」
頑丈そうな鎧を纏った男──騎士団長は興味深そうに呟く。
「それにしても便利だ。この魔道具は。 ここにいながら現地の偵察をできるとは」
感心するのは、諜報部隊よりはピッチリしていない服装をした者──暗殺部隊隊長は言う。
視線の先には、集中して静かに宰相が操る魔道具が映す、ティアネーの森の映像が。
「当たり前です。 なんせ異世界人が作った物ですよ」
諜報部隊隊長が言う。
この世界では、異世界から来た人間、即ち転生者や転移者は強力な能力を持っているとされている。
例をあげると、圧倒的な怪力、屈強な体、優れた魔法の才能、など……
力を求めた帝国は、異世界から数人人間を召喚し自国の戦力としていた。
世界全体で、異世界人の召喚は禁止されてはいないが、世界の均衡を保つためにあまりよくは思われていない。 強力な異世界人を跋扈させるのは危険だからだ。
帝国が召喚した内、一人の異世界人の能力は【発明】と言う希少なスキルを持っていた。
そしてこの異世界人が最初に作った物……作らされた物は、たった今宰相が操るドローンのような物だった。
「お、別々に行動しだしたぞ。 今が王族の娘を拐うチャンスじゃないか? ……王よ、出撃命令を」
「うむ。 行け」
標的の隙を発見し、王の許しを得た騎士団長は鏡を通り抜け、訓練所で訓練中の自分が受け持つ騎士団の前に現れた。
鏡を通り抜けられた理由は鏡が魔道具だったからだ。
これを作ったのは召喚されたもう一人の異世界人、この者の能力は【魔法付与】だった。あらゆる道具に魔法の効果を付与する能力である。
そして、鏡に付与されたのは時空間魔法の【転移】だ。
ちなみに【転移】にはスキルと魔法の二種類存在する。どちらも効果も性能も全く同じだ。
「たった今からミレナリア王国にあるティアネーの森へ向かう。目標はアイドラーク公国の王族の娘、フレイア・アイドラークの誘拐だ。 質問はあるか?」
「なぜ、誘拐なのですか? その場で始末した方が良いと思うのですが」
「簡単だ。 娘を人質に、母親とその使用人を誘き出すためだ。 一人一人始末するより、一遍に始末してしまった方が早いからな」
質問に騎士団長が答えた。
訓練中の騎士は早々に出撃の準備を整えた。
目的地が森と言う複雑な地形な以上、鎧等と言う重装では不利なので、騎士達が装備しているのは急所が押さえられただけの軽装だった。
「では行くぞ!」
騎士団長の声に合わせて第一騎士団の騎士達が鉄の塊──自動車に乗る。 後ろの荷台には暗殺部隊も乗せて。
自動車に乗った騎士団がティアネーの森への到着にかかった時間はおよそ三時間ぐらいだった。
ちなみにこの自動車も、ドローンも【発明】と【魔法付与】の能力を合わせてつくられた合作だった。【発明】が構造を決めて構築し、【魔法付与】が、動力を与えて動くようにした。 他にも製作に携わった異世界人も居たのだが、【発明】と【魔法付与】以外行方が知れなくなっていた。
実は他にも召喚された異世界人は居たのだが、帝国の粗雑な扱いに耐えられなくなり、殆どが逃げ出していた。
が、その大半は帝国の追っ手に捕まり、大罪人として公の前で処刑されていた。
そして現在逃亡中の異世界人は、帝国の王公貴族に【冒険王】【聖者】【魔剣】【城塞】【神眼】【不死身】と言う自身が持つスキルの特徴を捉えた別称で呼ばれる六人だ。
空は赤く染まり出していた。
こう言う視点で物語を書くの苦手なんです。
分かり難いのは勘弁してください。




