第112話 ガラクタを纏う者
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名前:ジャンク
種族:人間
Lv82
MP :18,901(19,920)
物攻 :19,113(20,132)
物防 :19,142(20,302)
魔攻 :18,937(19,971)
魔防 :19,139(20,298)
敏捷 :18,625(18,872)
固有能力
纏衣(廃品)
能力
自己流武術Lv5 魔法Lv2 魔力操作Lv2 片手剣術Lv2 短剣術Lv1 威圧Lv3
魔法
火魔法Lv1
水魔法Lv1
闇魔法Lv1
無魔法Lv3
聖魔法Lv2
称号
ガラクタを纏う者
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固有能力【纏衣(廃品)】か。 これでガラクタを纏っているのは明らかだ。
ステータスの数値は()の中が纏衣の状態だろう。
スキルにある【自己流武術】は何だろうか。
文字通りに受け取っていいのか?
無魔法や聖魔法のレベルの高さでこいつが武道家なのがよく分かる。無魔法で身体能力を強化し、特訓で傷付いた体を聖魔法で治癒していたのだろう。
道場を越えて、天井を破壊する程のデカさのガラクタの怪物──ジャンクは多脚だ。左右の足の数はバラバラで不安定そうだ。
大きな胴体から上は人間と概ね同じ見た目だ。人間と大きく違う箇所は、肩から下に伸びている左右で形状が違う腕と、背中から伸びている三本の巨大兵器だ。一つ目はドリル。二つ目は剣。三つ目はチェーンソーだ。
要するにとても厳つい。
道場の破砕音とガラクタの怪物に驚いた通行人達が悲鳴をあげて逃げ惑っている。
そりゃそうだ。街中にあった建物からこんな殺戮兵器が現れたのだから。
「アキ! 其奴は危険だ! 離れるのだ!」
「このぐらいなら問題ない」
戦闘技術を学べそうに無いからさっさと無力化してしまおう。そしてちゃんと教えて貰おう。
「行くぞ! 挑戦者よ!」
……挑戦者って……こいつには本当に訓練のつもりは無いようだ。
見た目にそぐわない俊敏な動きで、左手の巨大な鋏で俺を切断しようと迫ってくる。
動きが速くても大きいから躱し易く感じる。
鋏を上に跳んで躱した俺に、右手の巨大なハンマーが迫っていた。
俺はジャンクの上に転移して、そのままの落下の勢いで踵落としを食らわせる。
しかし、それを阻むのが背中の兵器だ。
俺の落下地点にチェーンソーが構えられた。
このままでは死んでしまう。まぁ【超再生】があるからなんとでもなる。
……と思うがそれでもMPは持っていかれるのだ。
出来れば死にたくない。
俺は道場の瓦礫の上に転移して体勢を整える。
勿論転移でもMPは消費するが超再生に比べれば微々たるものだ。
俺は再びジャンクへと駆け出す。
─鋏─剣─ドリル─ハンマー─
俺を近付けまいと次々に武器が振るわれる。
俺はそれを回避して──
出来なかった。俺は【鋼鉄化】した両腕で剣を受け止めていた。
「邪魔すぎるな。こいつ」
俺は咄嗟に意識が無いグリンを庇っていた。
本当になぜ飛び出したのか分からない。
グリンは全く大切な存在じゃ無いのに。
思い返せばあの時もそうだ。俺は見知らぬ子供を助けるためにトラックに轢かれて死んだ。
俺は他人がどうなろうと知ったことでは無いと言う無情な傍観者ような人間だったはずなのにどうして──
そんな自分の不可解な行動に戸惑っていると剣が退けられ、チェーンソーが俺に迫っていた。
このままでは鋼鉄化していてもいずれ引き裂かれる。
そう判断した俺はグリンを抱えて後方に転移した。
──瞬間、俺の背中に鈍い痛みが走った。脳が揺れて、視界も揺れた。
グリンを取り落とした俺は、コロコロポンポンと転がり跳ねて、瓦礫に叩き付けられた。そしてその衝撃で瓦礫の山が崩れて俺を瓦礫の海に沈めた。
数秒も経たずして、超再生で意識を取り戻した俺は瓦礫を押し退け瓦礫を這い上がる。
そんな悠長にしていると攻撃を食らうのは当たり前だった。
瓦礫の山から顔を出していた俺は頭をハンマーで、まるでゴルフをするかのように打たれた。
しかし体と離ればなれになった頭はゴルフボールのように飛ばず、ハンマーが当たった衝撃で弾け跳んでいた。
俺の体は糸が切れた操り人形ように、俺が這い上がってきた瓦礫の穴へ再び転落していった。
今日何度目だろうか。超再生を使うのは。
俺は穴に落ちた胴体に新しく再生したばかりの頭でそんな事を考えていた。
俺が馬鹿だった。わざわざ這い上がらずとも、よくよく考えれば転移で良かったはずだ。
俺はジャンクの背後へ転移して、邪魔な三つの武器を、その付け根から引き千切る。
不意を突かれたジャンクにはそうされるだけの隙があった。




