第109話 ドドド道場
「い、生きてる……?」
目覚めたスカーラの第一声はそれだった。
無理もない。気を失う前に魔物の大群に追われていたんだ。死んだとも思うだろう。
「やり過ぎた。すまん」
「え、いえ! たのし……きもち……良い訓練になったと思います」
「……? なら良いけど」
スカーラが言いかけた言葉を追及せずに納得する。
今立場が弱い俺が、無闇に口を挟むのは憚られるからだ。気になるけど我慢だ。
「それで、特訓は続けるか?」
「続けたいですけど、体力も限界ですし無理そうですね。 ……あ、明日は別の特訓がいいです」
「…………今日だけじゃ無いのか?」
「そんな事一言も言ってないですよ。 ではまた明日!」
スカーラがそう言って覚束無い足取りでフラフラと王都へ帰っていった。
明日もか……
特訓する日数を聞かずに引き受けた俺が悪かったんだ。仕方ない。
でも、今日した特訓以外俺に出来ることは無いんだよな…… どうしよう。
「が、頑張ってね。クドウさん」
可哀想なものを見る目でフレイアが元気付けてくれた。
ギルドで一連の流れを済ました俺はフレイアを屋敷に送ってから、クロカと王都にある道場を巡っていた。
「なんでクロカが着いてくるんだ?」
「別に良かろう。我はアキ専属のメイドなのだ」
「……ふーん」
微妙に納得が行かないが、そんな事より道場巡りだ。
道場巡りをする理由は簡単で、スカーラの特訓に付き合うためだ。
俺には教えられる技術がない。スキル頼りなので。
だから今から少しでも技術を学ぶのだ。幸い俺には【高速学習】がある。と言っても高速学習にはデメリットもある。
高速学習は脳を酷使する。
なので激しい頭痛は当然、悪ければ鼻など、体の至る所から血が出始める。
一度、遺跡世界でそれが起こってから使用時間には気を付けるようしている。
冒険者登録の時は短時間の使用だったから、軽度の頭痛で済んだ。
道場の場所を知らない為、人に聞いたりして近場にある道場へやってきた。
「へいらっしゃい! ドドド道場へようこそ!」
「…………えっと今から一時間ぐらい戦闘技術を学ばせて欲しいんですけど」
「あいよ! 親方、一時間コース一名!」
「あいよぉ!」
なんだこの居酒屋ラーメン屋だかなんだかのノリは……
それになんだドドド道場って。 ふざけた名前だ。
いや、「近場で武術を学べる道場ってどこですか?」としか聞かなかった俺が悪いんだけどな。
あと、表にあった道場の看板はほとんど文字が掠れていて見えなかった。
「よく来たなぁ。こんな変な道場によぉ」
そう言うのは親方と呼ばれた、細身の男性だ。
見た目はブラックな中小企業で働いてそうな窶れたサラリーマンような感じだ。
見た目に反して言葉遣いは少々荒いようだ。
「あはは……」
自分道場を変だと言う自虐に俺は愛想笑いをする。
「おっとぉ、猫は被んなよぉ? お前がまともな性格じゃない事ぐらい丸分かりだからよぉ」
本当に何で初対面の人間に猫を被ってるってバレるんだろうか。
一言二言しか交わしてないのに……
「で? 本当に俺んところで学ぶんか?」
「……近くにあるのがここしか無いからな」
「ハッ! そうかよ!」
俺の言葉を笑い飛ばし、面白そうに頬を緩めた。
道場の中には俺とクロカ、親方(?)と、先程親方と呼んでいた奴だけだ。
他には誰もいない。ドドド道場と言う珍妙な名前と、この二人のノリ、道場の中が埃やゴミ、よく分からない道具で溢れているのが原因で誰も寄り付かないようだ。
後で聞いた話だが、この近辺では『ガラクタ道場』等と呼ばれているそうだ。
「でもよぉ。そんな緩い考えじゃ──この道場で生き残れねぇぜ?」
明るい様子から一転、親方は重圧な圧力を放ち俺達を脅した。
その威圧に擬音を付けるなら
──ドドド
だろう。




