第106話 黒龍メイド
その後ルイスに直接キメラの素材を買い取って貰った。
ギルドマスターに買い取って貰うって相当貴重な体験なのではないだろうか。
ちなみに一週間は普通に暮らせる位の額になった。山分けしてこれだ。とんでもない。
皆と別れてフレイアと帰路に着く。
「今日は大変だったわね」
「そうだな」
「……ねぇ……なんであの時、ボーッと立ってたの?」
「ん? ちょっと考え事してたんだ」
「…………ふーん……まぁ……いいわ」
精神世界での出来事を説明してもいいのだが、どう説明したらいいのか分からないし、考えるのも面倒なので適当に誤魔化す。
明らかに納得してなさそうなフレイアを連れて夕焼けに照らされる道を並んで歩く。
「「ただいま」」
「おかえりなさいませ」
「おかえりなさいませなのだ」
いつものメイドさん加えて、メイド服姿のクロカまでもが出迎えてくれた。
「どうだ! アキよ、似合っておるか!?」
無邪気にクルクル回り、メイド服をヒラヒラさせるクロカ。黒龍の威厳などあったものではない。
メイド服に関しては、正直似合っている。
「あぁ。似合ってる」
「ほぅ! そうかそうか! なら良いのだ!」
その後も暫くクロカは目の前でポーズをとったりヒラヒラさせたりしていた。
一頻りはしゃいだクロカは仕事があるからと言って去っていった。
なんだったんだ。
「ニグレドさん褒められて嬉しそうだったわね」
「そうか? 俺にはメイド服を着れてはしゃいでるようにしか見えなかったが」
「……はぁ……そう言うところよ。クドウさん。」
そう言ってフレイアは自分の部屋へ向かっていった。
なんだったんだ。
自分の部屋に戻った俺は一直線ベッドへ向かいベッドに寝転がり、ボーッとした。
コンコンコン
ノックの音がする。
「はい」
「夕飯が出来たぞ! アキ!」
あれ?
俺を呼びに来たのはいつものメイドさんじゃなく、クロカだった。
「あれ。クロカか。どうしてクロカが?」
「ふむ。それについては後にオリヴィアから説明される筈だぞ」
「そうか。じゃあ行こうか」
俺が魚を切って口に運んでいると、オリヴィアが話し掛けてきた。
「……あ、そうでした。クドウ様、今日からはニグレドさんがクドウ様専属のメイドになります。よろしいでしょうか?」
「別にいいですけど、なんでですか?」
クロカが言ってたのはこれか。
「クドウ様が連れて来られた方ですから、クドウ様の側に居させた方がいいと思いまして」
「あぁ。なるほど」
至って普通の理由だった。
「問題ないですか?」
「大丈夫です」
その後も和やかに食卓を囲んでフレイアとオリヴィアと夕飯を食べた。
メイドさんはいつも通り、俺達の斜め後ろで控えていた。毎回思うけど何か申し訳ないな。人が仕事をしている側で暢気に飯を食うと言うのは。
夕飯を食べ終わった俺は自室に戻り、課題をしていた。側にクロカを侍らせて。
「ほう。これが話に聞く、課題と言うものか。まだ人間の文字を覚えたての我にしたら全く分からぬな」
「この短期間でもう文字を覚えたのか?」
「基本的なものだけだがな」
ひょっとしてこいつかなり頭が良いんじゃないか?
俺は【高速学習】を使えば出来るが、こいつはそう言った類いのスキルを持っていない筈だ。
「凄いなお前」
「む。そうか? ならもっと褒めるが良い!」
「調子に乗るなよ」
とは口で言いつつも課題をしながら片手で頭を撫でておく。
ペットを手懐けるにはちゃんと褒めたり可愛がったりする事だって誰かが言ってた気がするからな。
「うにゅ!? な、何なのだアキ! 我を辱しめる気か!?」
「褒めろってお前が言うから撫でてやってるんじゃないか」
「そ、そう言う事だったのだな。我はてっきり……」
「なんだ?」
「な、何でも無いわあ!」
変な奴だ。




