第102話 面白味がない戦い方
空気と化していたキメラはその丸い体のど真ん中についた顔を歪めて秋達を睨んでいる。
「ギュルギャイアアアア!!」
キメラは怒りの籠った叫び声を上げながらその丸い体から無数に生えている触手を一斉に秋達へ伸ばす。
その触手の形状は先程の滑らかな形状とは打って変わって、鉄をも難なく貫けるような鋭利な形状をしていた。
「危ない!」
未だに抱き付こうとしているラウラを怪我をしない程度に軽く突き放して、秋はキメラと同じく身体から生やした触手で迎え撃つ。
魔法で迎え撃たなかったのは、後で自分の事を話す良いきっかけになると思ったからだ。
これからラモン達を身内として扱い自分と同じように中心に置く以上、話して置かなければいけない。
流石に、別次元の自分と思われる存在の助言や忠告は無下に出来ない秋だった。
「ギャリギャリャアアイイイ!?」
世の中の常識を知らないキメラは自分以外の生物が自分と同じ事を出来ると知らなかったため、驚愕している。
いや…世の中の常識知っていたとしても、人間の見た目をした生物が自分と同じ事を出来ると知れば驚いた事だろう。
「ギュウウワアアイイギャアアアアア!!」
キメラは更に触手を生やし、秋へ全ての触手を伸ばす。
秋を完全に脅威と見なしたのだ。
秋も触手を増やし対応する。
「ギュオオオウン……」
恨めしそうな視線で秋を睨み付けるキメラ。
そんな平行線の秋とキメラのやり取りを、ラモン達は呆然としながら声も上げず、身動ぎもせずただ見ていた。
秋はこの状況を何とかするべく、変形を始める。
変形したのは肩から伸びる腕だった。
スライム状になった秋の腕はキメラの顔へと向けられた。
スライム状になった腕はなんの前触れもなく伸び、突然キメラの顔面を覆い尽くした。
秋が狙っているのは窒息死だ。遺跡世界にいた魔物達も大体この方法で葬ってきていた。その為、秋はまともな戦闘経験がほとんど無かった。
先程、精神世界にあった血の海は窒息によって殺された魔物達の怨嗟が表れていたのだろうか。
やがてキメラが触手を引っ込め、苦しそうに悶え始めるがスライムの腕は纏わり付き、キメラの顔面から離れない。身を捩り、我武者羅に暴れてもスライムの腕は顔から離れない。
そんな事をしているとキメラの抵抗が弱々しくなっていき……やがて地面に倒れこんで動かなくなり、息絶えた。
「やっぱりこれは呆気ないし面白味に欠けるな。もう少し戦い方を覚えないといけないな」
キメラを始末した秋は、キメラの死体をアイテムボックスしまって、腕を元に戻しながら反省するように呟いた。




