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第101話 緊張感無し

 意識を取り戻した秋はフレイア、アデル、クルトに目もくれず風を吹き荒らしながら駆け出した。


 沢山の木々が生えていて視界も悪く、根で不安定な足場にも関わらずスルリスルリと木々の合間を縫うように前を見据え駆け抜ける。


 数秒も経たない内にラモン、ガレット、ラウラ、エリーゼ、キメラを高速で巡る視界に入れた。


 秋は一目見て、【思考加速】で加速する思考で状況を把握した。


 傷だらけのラモン。

 必死の形相で手を伸ばすガレット。

 涙を流しながら走るラウラ。

 焦ったような表情で追いかけるエリーゼ。

 黒く歪な球体をしたキメラが無数の触手を嬉しそうにうねらせていて、横たわるラモンを捕食しようとしている。


 ガチンッ!


 キメラの歯と歯がぶつかる音が響く。



 しかし、肉が潰されるような咀嚼音は聞こえてこなかった。


 キメラが口を閉じる頃にはラモンはそこにいなかったからだ。


 秋はキメラの口が閉じられる寸前に捕食される前のラモンを瞬時に抱えてガレット達方へ反転していた。


 キメラは捕食出来なかった事を不審に思い、顔を上げ見回した。


「なんで浄化されてないんだ。こいつは? もしかして生物は浄化できないとか?」


 いつの間にかガレットの横に立っていた秋は不思議そうに呟きながら、抱えていたラモンを放す。


「…いてぇ!」


 地面に落とされた傷だらけのラモンは傷口をビンタされるような痛みに、声をあげる。


「俺には長時間も男を抱えるような趣味は無いんだ。すまん」

「…へ? ……アキ……?」


 自分が抱えられていた事に気付けていなかったラモンは激痛に耐えながら呟きに反応し、地べたから秋を見上げる。


「…は……はは、ははは……あの状況で助かっちまうのかよ…………ありがとな……アキ」

「別にいい。俺の為にやったんだ」


 友達の為にした行動を、自分が傷付かない為の行動だと言い聞かせ、適当に誤魔化す。


「……??? な、何がどうなっている……!?」


 唐突に行われるラモンと秋のやり取りに、手を伸ばしたまま顔だけを向け、呆然と呟くガレット。


 無理も無いだろう。さっきまで自分が必死に助けようと手を伸ばしていた相手が、自分の隣で会話をしているのだ。


 そんなガレットの疑問に答える者はいなかった。


「う、うわああああん! グドウざあああああん!」


 汚い声で泣き叫びながら走ってくるのは顔中を涙や鼻水でべちょべちょに濡らしたラウラだった。


「わ、わだじ! グドウざんならだずげでぐれるどおぼっでばじだあああああ!」

「汚いから来るな!」


 ラウラは走りながら手を広げて、秋に向かって抱き付こうとする。だが、涙や鼻水でべちょべちょになった人間に触れられたくない秋は迫り来るラウラを躱す。


「良かったですわ……皆さん無事で……」


 ホッと胸を撫で下ろすエリーゼは早歩きで騒がしい友達の側に来る。


「だれかこいつを止めてくれ!」

「あらら……」


 ラウラに追いかけられる秋が助けを求めるのを見て、エリーゼは呆れながら呟く。


「おい! まだキメラは生きてるんだぞ!」

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