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空ノ虚をみたす君  作者: 慶良
8/24

7

「来週から中間試験が始まるから、部活はその間休みってことで、よろしくお願いします」

 いつもの通りメガネ先輩が、部長の代わりに報告をする。

 中間試験が終われば夏休みだ。

「先輩、あれから部長どうなんですか?」

 偲ちゃんが、ツインテールの髪を両手にもって、枝毛を探しながらメガネ先輩に聞いている。

「ああ、来てるよ。まだ送り迎えして貰ってるって言ってた」

「そっか、ですよねー、犯人まだ捕まってないし」

 部長が駅のホームで突き落とされそうな目にあってから、一週間が過ぎていた、鉄道会社には学校側から連絡をして、ご両親が警察へ被害届を出した。防犯カメラに映っていた犯人の足取りを今も警察が懸命に追っているんだろう。早く捕まって、部長にも安心してほしい。

「ねぇ、由結、アンタ今日なんか大人しいじゃん、何かあった?」

「あっ、なにも……」

 いつもの席に、いつものように座っているだけなのに、自然と背筋が伸びる。何か話題、話を振らなくちゃとキョロキョロとネタ探し。そう言えば偲ちゃんは作家なので、それがらみのぉ……何かを……。

「七五三さんは教室では、いつもこんな感じだぜ。ああ、神木さんが一緒の時はゲラゲラ笑ってるかもだけどな」

 ……そんな風に見られていたとは、お恥ずかしい。おかしい、結構話せる様になたっと思ってたんだけど。やっぱり一人だとまだ緊張する。

 青木くんは、漫画をペラペラめくって、たまにメモにセリフを書きこ写している。

「アンタそれ、何やってんの?」

「先輩がMAD動画作りたいってんで、指定されたセリフを拾い集めてんの、後でアニメとくらべるんだって」 

「MAD何?」

「音声や動画を個人で編集・合成、再構成したものだよ。日野先輩が好きなんだ」

「へー。今日、神木さんは?」

 偲ちゃんは青木くんを軽くスルーして、聞いてくる。青木くんも別に気にする様子でも無い。

「……試験前だから、図書館って」

 つい、小声になってしまう。がんばれー私!

「うへー、まじめかよ」

「そういやー、森木さんは勉強出来んのか?」

「は! 由結よりは出来る! この子こんな顔してるけど、絶対アタシより馬鹿だから」

ニヤリと渡って偲ちゃんが私を指差す。ひど! さすがに悔しいので胸を張って言ってやる。と心に決めつつもだめだ、思わず顔を背けてしまう。

「ひ……否定はしませんけど」

「しろよ!」

 うわははっと偲ちゃんは笑う、今日も笑顔が可愛い。

 廊下からワイワイと賑やかな話し声が聞こえて来た。

「ああ、何か来たな」

 言うと途端に部室のドアーが開いて、

「ごきげんよう、みなさん!」

 みんなの想像通り、千恵先輩だった。一学年上の二年生で、明るい髪色に、くるくると縦に巻いた巻髪は、偲ちゃんが言うに、お嬢様のテンプレの様な仕上がりになっている、スタイルは制服の上からでも一目見てよく、明るくて快活な人だ。

 千恵先輩は、キョロキョロと室内を見渡すと、よし! と言った風に拳を握って、真っ直ぐ、私の隣にすわると、猫撫で声を立てた。

「ねぇ、七五三さん。中間試験の勉強、進んでますの? 何ならわたくしの家へいらっしゃらない。勉強教えて差し上げますわ」

 千恵先輩は、開口一番、私の両手を取って詰め寄ってくる。

 柔らかくて、細い、綺麗な手だ、私の手を両手で包み込むようにして握っている、えへへ、嬉しい。家に来てなんて言われたのいつ以来だっけな。

 こんな風に思ってる言葉が、すいすい言えたらいいのにと思うが、現実はままならない。

 でも、今日の千恵先輩なんだろ? この間の時より。なんかちょっと雰囲気が。

「千恵先輩グロスつけてます? 口元が、その、すごく綺麗……」

「…………」

 ……あれ、何か変なこと言っちゃった?

「知念さん、顔。真っ赤だね」ニヤリ

「真っ赤ですね」にやり

「アタシが思うに、由結は天然のたらし、なんじゃないかと」

「あー、俺も俺も。それは思った。クラスの女子でも七五三さんと話してる時、あんな感じで放心してる奴いるぜ」

「たらしかー、美味しいキャラかも」

「え、テンプレじゃないですか?」

「そう? 天然属性だよ」

「そうか、僕が思うに、たらしがバレない様にするための、ビジ見知りなんじゃない?」

「なんすかそれ」

「ビジネス人見知り、その方が、自分に都合いいかも知れない、自己演出」

「ビジ見知りかぁ、そのキャラ貰っていいですか? 次の新キャラに良さげ、腹黒い感じ有りですね」

「どうぞ、どうぞ」

 聞こえてますよ!

「家へは、みんなで、その、行っても良いですか?」

「みんな……って?」

 彼女は一通り部員の顔を見渡して、大きくため息をついた。

 

「ねー、なんでアタシ達まで一緒なのよー?」

「あ、あなた等ね、無理やり付いて来なくてもよろしいのよ!」

「しょーがないですよ、ビジ見知りが一人じゃヤダって言うんだから」

「…………」

「ごめんね、空気読めないのが付いてきて」ニヤニヤ

「ニヤニヤしながら言わないでくださらない? 気持ち悪ですわ」

 不平不満が、段々と私へ向いて来ないことを祈りながら、千恵先輩の家へお邪魔することになった、簡単んな話、皆この見た目お嬢様な千恵先輩の家に興味があるからだ。お嬢様と言う生き物に、ここに居る全員出会ったことなど無い。

 まさか先輩が本当に良いと言うとは思わなかったけど。なんだかんだ言って面倒見のいい人なのかもしれない。

「今、迎えの車を呼ぶから、待ってなさい」

 そう言って、携帯を耳に当てる。

「なぁ、もしかして、本物のお嬢様だったらどうするよ?」

「犬小屋が私の家より大きい的な、ふふふっふ」 


 お迎えの車は、皆で乗ってまだ少し余裕があった。お父さんもこう言う大きなのを買って欲しい、私も後三年もしたら、免許だって取れるし。柑奈や神木さんとドライブなんてね、へへ。

「このレクサス何人名乗りなんですか? すごい広いですね」

 三列目の座席シートに座っていた青木くんが身を乗り出すように聞いている。体の大きい青木くんが奥。二列目にはメガネ先輩、私、偲ちゃんの順に座った。

「はい、七人乗りでございます、お嬢様は御学友も沢山おられますので、お迎えの車にもゆとりのあるものをと、伺っております」

 名前も知らない運転手が仰々しく答える、私たちは恐縮してしまって、自然と声が小さくなる。

「後ろの席にテレビ付いてるよ。DVD観れるんじゃない?」

「僕、部室にあった、トミとジュリー持って来てるよ」

 トミとジュリーは、ネコとネズミが仲良くなく、いつもだた喧嘩してるだけの、子供たちに人気のアニメ作品だ。

「でもやっぱ俺は、トミの方が良い奴だと思うぜ、ジュリーは酷すぎるよ」

「まだ言ってんのー? だからトミがいつも先に仕掛けるからイケないんじゃん」

「やりすぎなんだよ、ジュリーは、トミなんか、一体何回死んでっか解んないぜ」

 千恵先輩は、目頭を抑えている。

 いまだかつてこの車で、子供向けアニメを語る人間を乗せたことはないだろうし。


 ポン! 

 皆が私の顔をみる、携帯に着信だ、待ち受け画面が無造作に光を放つ。

 あっ、神木さんからメッセージだ。どれどれ。

 いまから、みんなで、千恵先輩の家で勉強会です。送信っと。

 ポン! なになに? もう!

 神木さんは居なかったんだから、しょうがないでしょ! 送信っと。

 ポン! ……えぇ?

 いるの? なんで、わたしまだ帰れないよ? 送信!

 ポン!

 ポン!

 ポン! くっ!

 やだ! わたしの分は残しておいてよ! お願い! 送信!

 ポン!

 ポン! ぬぬぬ!

 なんで食べちゃうのー! お母さんにも言っといて! 送信!

 ポン!

 ポン!

 え? やだー 送信!

 ポン! 

 本当? じゃぁ、私はアップルパイがいい、あれ好き。送信。

 ポン! えへへ

 やったー! うん。頑張って早めに帰るよー。待っててね。送信。


 不意に視線を感じて、隣を見ると、青木くんと、偲ちゃんが私の携帯を覗き込んでいた。

「それ最後に、愛してるって送んなくていいの?」

「偲ちゃん……」

「っていうか、神木さん、今、お前ん家に居るってことだよな?」

 うん。私は心の中で返事をする、聞こえることを願って。

「有り得なくねーか、それ。神木さんも根性あるな」

「くっ! ぬわんですってぇぇっぇえええ! 七五三さんの家にぃ? 外堀から埋めて行こうたって、そうはさせませんわ! ……みなさん、行き先を変更しますわよ! このまま七五三さんの家へ向いますわ!」

 素知らぬふりをしていた千恵先輩だったが、単に聞き耳を立てていたからだった。

 有り得ないかぁ、やっぱそう思うよね。でも、七五三家では急速にそれが、あり得ることになりつつある。いや、日常になりつつある、と言う方がいい。

 お母さんも、普通に、真白ちゃんお帰り、おやつあるわよって具合に。

 毎日と言っていいほど私たちは一緒の時間を過ごすようになっていた。

 車はUターン禁止の標識を無視して、進路を私の家へ向ける。対向車線の車が警笛をパァーーーーーンと長く響かせていた。

「うわわわわ、ちょっと!」

「知念せんぱーい! 危ないから!」

「私が運転してるわけじゃないわよ!」


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