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ヒーローズ・エヴォリューション  作者: 月詠
第一章「スタートアップ・ヒーローズ」
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1-5.パーティーへ向けて

 そういうわけで私は今、メモを片手に売店を歩いている。

 要件は単純、この後に行う「オツカレサマーパーティー」のための下準備だ。


 特務機巧課のビル内には、日用雑貨をはじめ食料品、生活必需品、嗜好品などなんでも揃う店が入っている。

 中で寝泊まりする職員も多く、また、特務機巧課の理念にある「必要な時に必要なこと以上のことが出来る者達であれ」にのっとり、一般市民達が訪れても何でも買いそろえることの出来るように万全の品ぞろえでいるらしい。

 ……まぁ、ここがA区画にあることもあり、他の区画の住民はよほどの用事がない限り来ないのだが。

 だからどの区画にいる住民でも満足できる品ぞろえを誇っておきながら、贅沢にも此処に勤める職員――私たち含め――専用の売店となっていた。


 お菓子に。

 ジュースに――琴音ちゃんはコーヒーをよく飲んでるし、千尋は牛乳しか飲まない。

 えーっと、お菓子……チョコとせんべいとグミでいいかな。何も聞いてないし――よし、いつも通りでいこう。


「あ、……あの!」

「ん?」


 買い物カゴにいろんなもの吟味しながら詰め込んでいると、声をかけられた。

 白衣を着て、髪を綺麗に切りそろえている男の子だった。首からぶら下げているネームタグには、『特務機巧課技術部研修生 城斗彰(しろとあきら)』とある。


(あきら)くん?」


 彼は雨萱さんのところで働いているたった一人の助手だ。雨萱さんは一方的に後継者と言っているが、彼がどういう気持ちなのかは分からない。

 ただ、研修とはいえ若干十五歳でこういったことを行う職に就いているのだから、すごく頭がいいんだろう。実際、彼だけ別のところで教育を受けてるらしいし。


 身長のせいで実際より幼く見られやすいというのが本人の悩みで、私よりも小さい。この前図書館の棚に手が届かなかったところを助けてあげたような気もする。

 そういう彼なのだが、私と話すときだけは恥ずかしそうに、すごいうつむきがちで目を合わせようとしてこない。

 嫌われているのかなって琴音に相談したことがあったけど、すごい呆れたような顔で眉根を細めて、「いつか刺されますよあなた」って言ったっきり何も教えてくれないし。

 今だってそうだ。私の方を向いてはいるのだけれど、視線はずっと籠の中に向いているし。


「あ、あの、その!」

「……?」


 もごもごと何かを言いながらも言い出すことができず、しばらくの間もじもじとしていた彰だが、やがて意を決したように頭を下げた。


「おつかれさまです!」

「ありがとう!」


 い、言えた――と聞こえてきたが、そんなに勇気のいることだったのだろうかと思いつつも、それでも本人なりに頑張ったのだ。顔を近づけて、頭をなでてやろう。よーしよしよしよし。


「わっひゃっ!?」

「こーら逃げないの。えらいぞ~~!」


 くしゃくしゃと髪をなでてやる。義手で撫でていても分かるくらいに細くて綺麗で整えられた髪の触感が、強く伝わってきた。


「こ、子供扱いしないでくださいよ!?」

「子供じゃん」

「ゲンプクしてますから立派な大人です!」


 本人なりに物凄い意地を張っているのだろう。恥ずかしがりながらもちょっとずつ声が大きくなっていく。


「まーまー、……ところで、用事?」

「見かけたので挨拶でも、と思って……あっ、いえ違いますありました!」

「?」


 腰に提げていたバッグから取り出して渡して来たのは一枚の紙だった。

 いつも雨萱さんが書いているものよりも、字に間隔があるというか、読んでいて眠気が来ないようなものだった。

 棒グラフとかもすごい見やすい感じに整えられている――肝心の内容は一ミリちょっとしか頭に入ってこなかったんだけど。


「これ、雨萱さんがとったデータを僕なりに解析してみたんです。ええっと、今回の作戦の最中の、ですね……」

「そっか、……ほーん、へーぇ……」


 正直なところ、私には技師の知識はあまりない。だけど、これが差しているものはなんとなくだけど分かるような気はする。

 たとえばこの最高出力と平均出力の間に見られる線、これが急な角度を示していればいるほどに、出力が不安定であることが分かるらしい。


「雨萱先生が送ってくださった損傷状態を下に、えーっと、か、改良案を、まとめてもみたんです。そちらも、よろしければ」


 魔神義装の力は心の力。装着者の精神状態の変化に応じて、出力が変化する。だが、それがどういう現象となって表れるかは個人によって異なるらしい。

 たとえば、熱量――グラフでは物凄い高い位置にあるらしい私の魔神義装は、心の情熱とかそういうものが義手に伝わり、全身の体温が上昇、やがてそれがある域に達した時に炎へと変換されて排出されるのが特徴だ。

 琴音は氷、千尋は風といったように――本人の気質や性格によって、何が発生するかも異なってくる。

 彰がまとめてくれていたものは、義手、義足の改良案をはじめ、今よりも少しだけ高い出力をどうすれば安定的に引き出せるかといったものだった。


 彼は作戦が終わるたびに私を見つけてはこういう資料を渡してくれる。

 物凄い丁寧、かつ分かりやすくまとめられているのもさることながら、たった半日で私たちの戦闘を分析し資料を作ることが出来るスキルを見ているとなるほど確かに、雨萱さんが助手として取り立てるのも納得がいくものだ。


 ヒーローの世界は日進月歩。<ブロウクン>だっていつやってくるか分からないのだから、常に前を向いて歩き続けなければならない。

 彼ら無しでは、とっくに体力が尽きてもおかしくはないのだけれど――こうしていつもサポートしてくれるからこそ、私たちが安心して戦線に赴けるというわけで。


「いつもありがとね。大変でしょ、こういうの」

 

 壊れものに触れるようにしながらも、髪を撫でる力を強めてやる。くすぐったそうに身をよじっていた彰だけど、やがて観念したのか、はにかむように微笑んで言う。


「い、いえ、そんな。椿姫さんたちは、……ううん、椿姫さんは僕、僕たちにとってのヒーローですから。これくらいは当然、というか」

「やだなぁ大袈裟な。私たちはこの世界を守る絶対無敵の英雄ってやつだよ?」


 彰は昔、誰かに(・・・)助けられたことがきっかけで猛勉強してこの特務機巧課の技師見習いになったのだそうだ。普通ならば中学校に通ったりしているところを、同年代の友達から切り離されこうした場所で過ごすのはある意味過酷な日々でもあるのだろう。

 だけど、それを苦に思っている様子は少しも見せていない。ヒーローのことを語るときなんか、すごい熱っぽく語ってるし――多分本当に好きなんだろう。

 そうだ、彼らのためにも私たちは頑張んなきゃいけないんだ。守らなければいけない小さな日常というのがそこにあるのだから、それを崩されないように必死に努力しないといけない。何処までも高みへと飛んでいけるように、誰からも、何からも、脅かされることのないように。


「そ、そうですね。……それに、」

「それに?」


 彰は、何処か寂しそうに、悲しそうな笑顔を浮かべて言った。何故かその時だけは、私の目を真っ直ぐに見つめてきた。


「……あなたが戦い続けているのに、僕だけ何もしないなんて、なんか、ダメじゃないですか。そういうの」


 ……何を言おうか、一瞬迷って。

 それでも何も言えずに、私はもう一度頭を撫でて――ぽんぽん、と叩いてやる。


「じゃ、――私そろそろ行くね? 頑張るんだぞ~!」

「あ、お、おつかれさまです! えっと、このあとどちらに? よかったらその、一緒に……」

「ん? 私の部屋でパーティーだけど。琴音ちゃんと千尋と三人で。来る?」

「い、いえ、遠慮しておきます! 失礼します!」


 また物凄い恥ずかしそうにしながら、彰は別のコーナーに向けて行ってしまった。

 パーティーにとって人数は正義、多すぎずしかし少なすぎないほど色々とやれる。来てくれればもっと楽しい時間が過ごせそうだと思ったのだけど……。

 私が言うのもなんだが、ああいう年ごろの子って何かそういう悩みとかあったりするものなのだろうか。パーティーでなくてもたまに誘ったりはしてみるのだけども、いつもこういう感じで断られてしまう。

 ううむ、私にだめなところがあったら教えてほしいのに。などと首をかしげながら、私は一通りのものを籠に入れたことを確認し、レジへと向かった――。


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