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異世界転生真剣将棋  作者: 絹谷田貫
9/20

憎まれっ子世に憚りはじめる



「……私の部下が、世話になったようだな」


 偉いらしい奴が鉄格子越しに座り、足を組みながら話しかける。


「アルフォンシーナ。アルフォンシーナ・デ・ロッスォ十人長。この周辺数ブロックの官警の長をさせてもらっている」

「……それぁそれは。まさかねぇ……」


 これは、読みを外したかもしれねぇ。


 賭け事で一番難しいのは、『勝ち分を取り立てること』だ。


 負けを踏み倒そうってぇクソ野郎なんてこの商売してりゃあ山ほど見てきた。それこそぶつ切りにして量り売りしても無くならねぇくらいにゃあ多くを。


 そんな性根の腐ったクソの糠漬けみてぇな奴らを、ホントに(、、、、)ぶつ切りにしてやる奴がいねぇと、賭け事なんてのは成り立たねぇ。だから、だ。賭け事には、暴力を生業にするものがつきまとう。


 これは、『賭け』という仕組みの宿命。所変われど決して変わらない、人の業だ。


 そして、パチ公と俺のやってたことは、まさしくそういう連中に一番煙たがられるようなことだった。


「俺ぁてっきり、素行のよろしくない方々の元締めさんでも来るのかと思ってたが、まさか、オマワリサンのお出ましとはね……」


 それも、こんな別嬪さんとはな(、、、、、、、)


 アルフォンシーヌと名乗ったこの国のポリ公は、燃えるような赤毛の女だった。


 ザコハゲとクソタコがへぇこらして椅子だしやらお茶くみやらしてるのを見る限り、日本よりも男女の職の平等ってのが進んでるみてぇだね。恐れ入るわ。


 内心の驚きを表情にそのまま出してやると、アルフォンシーヌは皮肉げに笑いながら、話を続ける。


「あながち間違いでもないさ。貴様の国の官警がどんなものか知らんが――今回私がお前を知ったのは、目をかけている『市政の協力者』からの『寄付金』がここ一か月で突然跳ね上がったからだ――。私のシマで、ずいぶん儲けたみたいじゃないか? ゥン?」

「――チッ」

「半信半疑だったが……、この有様を見るに、腕利きというのは、間違いなさそうだ」


 牢屋とも言えないような快適空間に変貌した一部屋を見て、唇をゆがめて見せる。ハゲハゲしい二人のおかげでなんなら外にいるときよりお気楽な暮らしだったぜ。


 それも終わりかもしれねぇがな。


「『ポリ公』と『ヤー公』の合わせ技かよ……。仕事熱心なこった」

「……ふむ、確かに知らない言葉を使う。しかし、話に聞いていたよりずいぶんと喋れるじゃないか」

「そちらさんがたの熱心な指導のおかげでねぇ。いやぁ、お世話んなったぜ。ほかにも色々(、、)と、な」

「この一週間でそれだけ覚えた、と?」

「三日だ」


 ギラリ、俺もまた、歯を見せつけて笑ってやる。


「定石憶えるよっか簡単やったわ……。試して、みるか?」

「そうギラつくな。何か勘違いしているようだな?」


 ん?


「私としては、そもそもこんなところに閉じ込める気はなかったのさ。幾つか、不幸な行き違いがあってな……。特にここしばらくは、そこの二人が『負けを取りかえすまで待ってくれ』と頼むものだから、様子を見ていたんだが……」

「ンダラッ! どういうこったクソザコハゲ共!」

「「スイマセンッ!」」

「コラッ! 弱い者いじめをするな!」


 うるっせぇえ! 弱いモンっつったら俺のが弱かろぉがよ! 将棋指しは将棋の駒より重い物持たねぇんだぞ! こんな筋肉ダルマどもより俺を保護しろ!


「とにかく、ここではなんだ。部屋を用意させた。そちらに移って落ち着いてから、いくつか話をしよう」

「おう。さっさとしろや。あとそこの見かけ筋肉二人を一発ずつ殴らせろ。固い棒で」

「やめなさい。うちの部下をいじめるんじゃない。二人も何とか言ったらどうだ情けない」

「一つ言ったら一万くらいになって返ってくるんでさ……」

「舌の上に悪魔を軍団で駐留させてるような男で……」

「聞こえてんぞルァ!」


 親分が出てきたとたん泣きつきやがって! ここを出たなら憶えとけよ!


 物理では間違いなく勝てねぇから、なんか、こう、精神的に!


「とりあえず毛布は返さねぇぞ! この食器と服もだ!」

「毛布は官品だから、返してくれると助かるな……。私が払おう、言い値で買ってやる……」


 おっ、こりゃ、スンマヘンなぁ、へへ。なんやおねぇさん話がわからはる。いやぁ、こちらこそ大きい声で騒いでしもて、おっ、こんなにいただけるんで? おおきにおおきに……。


 俺は小銭を稼いだ。


 しょうがねぇから穏便に出て行ってやるか! 感謝してほしいね! まったくよ!


***


 俺が閉じ込められてたのは、どうもこの国の官警の詰め所みてぇなとこだったらしい。日本でいやあ留置所ってとこか。その詰め所の一室、応接スペースっぽいところに通された俺は、一番柔らかそうなソファーにどっかり座って、目の前のテーブルに足を投げ、日本から持ってこれた煙草の残りにオキニのジッポで火を点けた。


「で?」


 話ってのは?


「ああ、それなんだが……。貴様、なぜこの状況でそこまででかい態度が取れるんだ?」

「将棋が強いからだ」


 知らんのか。将棋が強い奴はこの世で一番偉いんだ。


 だからこの偉いらしい、アルフォンシーナとかいうやつの言うことも、正直なところ聞く気はねぇ。


「つまり俺に言うことをきかせたければ俺より将棋が強くなれ。さもなくば金をよこせ」

「なるほど、すばらしい哲学だ。シンプルで野蛮だが、わかりやすい」

「だぁろぉ?」

「そして、豪語するだけの腕もある。――例の『三十七手』を解いた、というくらいだからな?」


 ギラリ。歯が光る。


 ただのお役人の顔じゃぁ、ねぇ。


「その腕が欲しい。――リョマ、といったか? 異国人」


 アルフォンシーナ。この(アマ)


「私の『犬』になれ」


――立派な、スジ者だ。

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