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異世界転生真剣将棋  作者: 絹谷田貫
6/20

所変われど人変わらず

俺がこねたてミンチ肉になり早一か月、日本の皆様、いかがお過ごしでしょうか。




 特に俺を轢き殺した顔も知らねぇ何某かはそろぼちアシがついてクサイメシカウントダウンが始まってる頃だろうし、今のご時世お勤め上がりに行き場があるとも限らねぇが、よりにもよってこの俺を殺しくさったわけだから思いつく限りひでぇめにあっていてください。というか死ね。むごたらしく死ね。ホラー映画の噛ませ犬ばりに意義なく死ね。




 親父様に置かれましては飲み代のツケを放り出してしまい申し訳ない。東京の一週間の分はまだバレていないと思いますが、払う気は合ったんです。本当です。




 十か年計画くらいで払おうと思ってました。




 こちらといえば、いまだに町の名前もわかりませんが、幾つかは言葉も覚え、なんとか元気にやっています。




 今は場末の酒場でゴロツキをしています。




 どこ行ってもこんな感じだな。




***




「勝ったぁー! お前らただ酒じゃー! 飲まんかーい!」


「――――! ――強い! ――酒――――タダ酒!!!!」




 ひと月経っても何言ってんのかわっかんねー! ひゃっはー!




 と、言うわけで一か月がたった。




 理解した事も、今だにわけわからん事も山ほどあるが、一つだけ確かなことがある。




 この世界でも、将棋は金になる。




 現に、未だ住所不定のこの俺がこうしてバカ丸出しの飲み方ができるんだから、間違いねぇ。――むしろ、『真剣』で稼ぐんなら、こっちのほうがよっぽどやりやすいかもしれねぇ。




 これは一か月で理解したことのうちの一つだが――、こっちの連中は(少なくとも日本と比べて)酒の場で金品を賭けてなにかしかをするってのがわりと一般的らしい。少なくとも、店の隅で盤の横に銀貨をおいてりゃ、寝床に帰るころにゃあいくらか増えている程度には。




 そして、将棋人口が多い。べらぼうに。




 この一か月相手にしただけでも、辻の真剣師と一勝負してやろうって向こうっ気のある奴が、――つまり、それなりに腕に覚えのあるやつが、両手両足の指を使っても数えきらねぇくらいにはやってきやがった。今さっき負かしたこの酒場の大将もそうだ。あげく、店の全員に一杯タダ酒飲ませる羽目になって涙目になってやがる。




 カモが多くて、カモってかまわねぇ文化がある。真剣師にゃあ天国みてぇなところだな。




「――」


「おう! パチ公おめぇも飲め飲め! 飲みが足りんぞー!」


「――――!」




 その上、天下一品の太鼓持ちまでいるとなりゃ、将来安泰天下泰平商売繁盛笹もってこいってな!




「おめぇと組めたのぁ天の采配よなぁ……!」


「――? リョマ! ――強い――!!」


「褒めるな褒めるなうぇははは! 嘘だ。もっと褒めろ」


「強い! 強い! 一番! 『ヤリマンナァ』! 『カナァーイマヘンワ』!」


「うぇははははは!」




 肩に手を回しあってジョッキ片手に二人して馬鹿笑い。




 かつて俺がカモった小男は、今や俺専属の『トロ回し』として毎日荒稼ぎにいそしむ仲になっていた。




 あの日。




 酒場に案内されて盤のある席を示された俺は、さっそくどかどか踏み入って、ことさらに音を立てて腰を据えた。




 目ざとい何人かの視線がこちらに向くのを感じてから、ポケットにしまっていた小せぇほうの銀貨を、試しに三枚、盤の横に積む。




――さぁて、ここの連中、ノッてくるか……?


――これでだめなら、他にも大道詰将棋やってるテキ、、がねぇか、明日も探し回る羽目んなるが……。




 精一杯不敵な笑みってのを作りながら、内心はばっくんばっくんだったわけだが、そいつはどうにも杞憂ってモンだったんだよな。




「――――――! ――――、――! ――! ――――!」




 俺の真横にやってきた小男が、突然酒場中に響く声で、なんたらかんたらと口上をぶったからだ。




「おめぇ……?」


「シッ、――――? ――……。――――! ――!」




 これはまるっきり想像だが……。俺ならまぁ、「さぁさぁ皆様お立合い! ここに出るは異国の博徒! 命知らずの暴れん坊が、将棋一本でカチコミかけにきやがったぁ!」みてぇなところかな。




「……――」




 口上が終わるが早いか、のそり、と、熊に人の皮ぁかぶせたみてぇな大男が対面に座った。




 男もそのまま、盤の横に銀貨を、取り出す。




「……まぁいいや。ほなやっかぁ!」


「――――」


「はいよぉ。――よろしくお願いします」




 とまぁ、そんなこんなで、一稼ぎ。




 三人ほどかるぅくひねって、結局十枚まで増やしたのかね。




「いやぁ、なんだ、すまねぇな。この儲けは折半といこうや」


「――?」


「イーブン。ハーフアンドハーフ。わかんねぇだろうなぁ。いいや! 酒! わかる? アルコール!」


「――!」


「おねーさん、二つ! 二つな! ツー!」




 一息付けて酒入れて、ようやっとの自己紹介と相成ったわけだ。




「わかんねぇと思うけど、俺ぁ榊竜馬ってんだ。今日は世話んなった。まぁ飲んでくれや」


「――?」


「榊、竜馬。リョーマ。リョー、マ。オレ、リョーマ」


「――……! リョマ? ――リョマ?」


「そう、いや、ちゃうけどええわ。リョーマ。オメェさんは?」


「――」


「オマエ。ナマエ。オシエル。オレ、オボエル」


「―――――パチェ――――――」


「全然聞き取れねぇ」




 盛んに自分を指さしてパチパチ言ってるから多分これが名前なんだろうけどよ。




 うーん。




「……おまえ、でっけぇデコしてんなぁ」


「――?」




 ムーミンのキャラにいたよな。ちっちゃくてひっつめ髪の。こいつも髪の毛をひとつまとめに後ろ縛りして、ちょうどあんな感じだ。そのせいもあってやたらと額が広く見える。




「よし。お前今日からパチ公な」


「パチコ?」




 デコッパチのパチ公。




 次の日から、俺とパチ公のゴロツキ暮らしが始まった。

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