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異世界転生真剣将棋  作者: 絹谷田貫
3/20

まるで将棋だな

 木版に81マスの区切り。交互に動く何種類かの駒。


 駒の形と意匠こそ違えど、それは明らかに、俺の知る将棋に驚くほど酷似した『何か』だった。


「……うせやろ」


 イチャモンつけに肩を怒らせて近寄って行った俺だったが、すっかり怒気もうせてしまって、口をポカンと開けてアホの子だった。この訳の分からん状況だけでもいっぱいいっぱいだってのに、これはもう受け止めきれない。完全にキャパシティオーバーだ。


「いや、でも、そもそも将棋も他所の国の遊びやし……。似たようなゲームは世界中あるしな……」


 チェスだってそうだし、タイやインドネシアにも類似したものがある。――というか、そもそも起源にあたるゲームを基に、各国で発展していったんだ。


 ここが一体どこで、今がいつなのかさっぱりわからねぇが。この手のゲームがあること自体は驚くことじゃない。


 そう思ってた時期が俺にもありました。ほんの数十分ほど。


「――まんまやんか!」


 思わず叫んだ俺の声に振り返った何人かが、ぎょっとした顔で距離をとる。あ、すんまへんなぁ。お騒がせしまして。こりゃこりゃ。


 でもまぁ勘弁してくださいな。声も出ますがな。


 しばらく観察していてわかったのだが、どうもこのゲーム、本当にそのまんま将棋だ(、、、、、、、、)


 駒の種類も動きも、見ていると『成り』もあれば、とった駒を『打つ』のもアリらしい。


 極めつけに、だ。どうやら『打ち歩詰め』が禁じ手らしいところまで、そっくりそのまま一緒だった。


 と、いうのもだ。どうにもこの大盤、詰将棋っぽい『問題』を観客に解かせているようなのだ。多種多様な駒が行ったり来たり動き回っているのと、観客の一人が『前に一つしか進めないらしい駒』を打った後、何やら指摘を受けて悔しがっていたから、間違いないだろう。


 俺が見る前で、さっきまで差していた(らしい)観客の一人が両手を上げ何事かを叫ぶ。


 舞台の上の小男が手をたたいてはやし立てると、悔しそうな先ほどの観客を押しのけて、別の男が手を挙げた。小男の差しだした籠に金を――銀製っぽい丸いなにかしかは多分銭だろ――投げ込んだ後、威勢よく声を上げ、一手目を動かした。


「……なんや、わからんけど。とりあえずわかった」


 ここがどこなのか、なんでここにいるのか、その他諸々さっぱりだが、とりあえず、目の前で何が行われているのかは、たぶんほぼ正確に理解できた。


『大道詰将棋』だ。


 世話んなってる組の、今時頑固にテキ屋一本でシノいでるオッサンに聞いたことがある。いまでこそほとんど見ない大道商売の一種、バナナの叩き売りみてぇにほぼ絶滅した、路上興行のうちの一つだ。


 道端に屋台なり大盤なり、なんならパイプ椅子と折り畳みの将棋盤なり用意して、詰将棋の問題を並べる。客は一回100円だの200円だの小銭を払ってそれを解く。見事詰んだら大当たり、豪華景品をお持ち帰り。ってな寸法だ。


 天下の往来(大道)で差す詰将棋、だから大道詰将棋。


 将棋人口が減ったのと、道交法の改正で大打撃を食らったらしいが、一昔前はそれこそどんな町でも一つは見かけたモンらしい。


 元手が安いし、ランニングコストもかからねぇ。見世物としても面白い。


 なるほど確かに、道端でちょいと遊ぼうっていうには、ちょうどよく射幸心をあおる出し物だぁな。


 なにより、イカサマのしようがない。下手なくじ引き屋台なんかより、よっぽど公平で良心的だ。


 問題の出来に(、、、、、、)目をつぶれば(、、、、、、)、だが。


「これぁ……底意地のわりぃ……」


 客を呼びながら解かれちゃあ困る、だから問題は意地が悪くなる。解けそうに見えてそうは解けねぇように――。商売なんだから当たり前っちゃぁ当たり前だがな。


 盤上には相手の王と歩、そしてそのすぐ傍に自分の成り金。ちょいと持ち駒を打って頭金にすればそれで詰みそうな、一見すると実に簡単に見える簡単な盤面。


 十五手詰め(、、、、、)の、簡単に見える『だけの』問題だ。


 なんせ持ち駒の差がひでぇ。こっちは歩が四枚に香車が一枚なのに対して、相手は残りの駒全部だ。まともな将棋でこんな状況はまず起きねぇ。起きねぇから、普段からこんな状況の詰ませ方なんて考えもしねぇ。まともな将棋の発想で解ける問題じゃねぇんだ。


 また意地のわりぃのが、詰みまで何手か明かしてねぇくさいところだ。これは完全な想像だが……。


 持ち駒にしろ、手数にしろ、なにんか上手い事トロ(、、)まいて客を言いくるめてんだろうな。「一手で打てるのは一枚でさぁ。旦那がトントン打てばオイラの持ち駒なんて関係ないでやしょ?」「なんせこちらは崖っぷち! 手前の余命をべしゃれだなんて旦那もよくよく殺生な!」とかよ。


 いやぁ。悪い。ほんと悪い。


 こいつ、商売がうめぇなぁ。


 底意地悪い真似してるが、客が一人も気づいてねぇ。巻き上げられて悔しそうだが、悔しいだけで怒っちゃいねぇ。大したもんだ。


 ほら、そんなこと考えてるうちにまた一人巻き上げられてら。あーあー、もう十回はやってるぜあの兄ちゃん。あとちょっとでいけそうな気がするんだろうなぁ。わかるよ。うん、よーくわかる。知らんけど。


 悔しいんだろ? うんうん。わかるわかる。多分わかる。言葉はわからねぇ。こいつら声でけぇな。ちょっとどけ。おう。なんだ。睨むな。どけってんだろ。どけやオラ! 通せ通せ! ガタイばっかりかさばりやがって! 言葉わかんねぇっつってんだろ! 日本語喋れや! 大阪弁で!


 いいからへたくそはすっこんでろ! 


 俺が手本見してやっからよ!

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