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異世界転生真剣将棋  作者: 絹谷田貫
15/20

外道かく語りき

「弱いわ」


 俺は重ねて言った。


「いや、ごめん。なんか、その、ほんと……弱い……。重ね重ね、弱いわ……」

「…………」

「知識はともかく、弱い……。そこのクソタコザコハゲより弱いかもしんない」

「……ウッ」

「なんでその有様であんな強そうな雰囲気だして突っかかってこれるの……? 頭が、その、パー……?」

「ウッ、グッ。ウゥフウッ……!」

「止めてくださいリョマくんさん様! 悪魔か!」

「人の心がないのかリョマくんさん様にはッ! ゴミッ! 外道ッ!」

「えー……、なんか、ごめん……?」


 クソタコザコハゲが二人して親分をかばう。慕われてんだなぁ。将棋弱いのに。


 うん。まぁ、確かにやりすぎたとぁ思うよ。


 俺が同じことされたら素手で自分のはらわた引き釣り出して死ぬわ。


 泣いちゃったよアルフォンシーヌさんってばもう……。


「でも、ほら……。将棋が弱いのが、悪いし……」

「そればっかり! そればっかりだリョマくんさん様は! いいだろ別に弱くても!」

「というか十人長は強い! 強いぞ! 俺たちは勝ったことがない! あの烈火のごとき攻めをみたろう!」

「いや、あれがよくないっていうか……」

「ウグゥ……フゥ……?」


 顔面中しっちゃかめっちゃかぐっちゃぐちゃのブス顔がこちらを見上げる。止めろ。ずるいぞ。女の涙はずるい。罪悪感湧くだろうが。


「ッウブグッ、フッ、よぐ、ズヴッ……! よぐないどいうのわ゛……?」

「……向上心は買うよ」


 俺だったらはらわた引き釣り出して死ぬ。


 こんな負け方したら、二度と将棋なんてさせねぇ。


 こいつは。


 まぁ少なくとも、まだ将棋を続ける気では、あるわけだ。


「クッソ弱い癖に気ぃばっかり強いってホント向いてねぇなぁ……」

「ウヴッ……!」

「やめろ。泣くな。顔洗ってこい。ざっくりとだけ教えてやるから……」

「ありがどうございまず……」


 ハゲ二人に連れられて、部屋を出ていく後ろ姿をみつつ、俺は、とりあえずもう一本、煙草に火を点けた。


「……なんだかなぁ、勝ったんだけどなぁ」


 後味悪く、あれもこれもがあやふやで、なんか開始当初のお題目もよくわっかんなくなっちまった。


「これぁ負けてるかもしんねぇ……」


 女の涙は禁じ手だよ……。


 用意して貰えてねぇしよ。


「灰皿……」


***


 結論として、だ。


 アルフォンシーヌに対して、俺の将棋の腕を見せつける、というのは、完全に成功した。


 もともとそういうのは得意だが――。こんなに綺麗に、ぽっきりと心を折った手ごたえがあったのは初めてかもしれねぇ。


 俺がやったのは、つまりは、舐めプと煽りだ。


 適当に相手の駒組に合わせて序盤を終え。


 中盤は相手の攻めをいなしていなして入玉するまで躱し切り。


 終盤――。と、いうか、見切って(、、、、)からは、曲芸の真似事をしながら、なぶり殺しにした。


 なんせ、アルフォンシーヌの玉将を、俺は『入玉した自分の王将で追いかけまわした』のだ。


 一度は自分の王で敵陣に入り込み。そのあとはさんざっぱらにケツをけりまわして自分の懐まで引き回して。


『入玉した』俺に、『入玉させられ』て、アルフォンシーヌは、負けた。


 クソ雑魚もいいとこだ。


「で、なんでこんなことになったかっていうとな……」


 なのに、クソ雑魚に将棋を教えてやる羽目になってる。


 なんだこれ。


 文字通り『顔を洗って出直した』アルフォンシーヌは、最初の勢いはどこへやら。すっかり大人しくなって、ふんふん頷きながら、俺のわかったようなご高説を有難そうに聞いていた。


 ちなみに、帰りしなに灰皿も持ってきたし、なんならよくわかんねぇがキセルみたいな道具にえらく美味い葉っぱまで用意してくれた。俺、胡乱ながら、ご機嫌。


「なるほど、つまりはここで龍馬(スフィェンジェ)を守らずにこっちから攻めていれば……」

「いや、ここであわてても間に合わねぇよ。もっと前だよ前」

「となると、入玉(パチィエ)した辺りから?」

「もっと前」

「――?」

「攻めはじめの頃だよ。というか、ハゲカッス二人もお前らよく聞け一緒だから」


 とりあえず、たばこ代くらいは教えてさっさと帰ろう。


「お前ら、わかりやすぎんの」

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