えがおのたえないすてきなげぇむ
「なんだと思う、ねぇ」
平和と安寧の番人。
国家公認の暴力装置。
『犬』を飼い、餌を与え、町の裏から表から人をねめつけて見張る秩序の代行者。
が、将棋が上手い『だけ』の奴を浚ってきてまで、させたい事。
「知らんわ」
さっぱり見当もつかねぇが、少なくとも、俺に何の関係もねぇのはわかる。
「――ナぁ、オイ。なぁ、オマワリサン。なぁ。別嬪さんよ。知らねぇよ。知ったこっちゃねぇ。お前の思惑なんざ俺にゃちィとも関係ねェ。何にも、何にもだ。お前から恵んでもらう物もなんにもねぇし、お前に憚ることも何にもねぇ。俺と、お前は、関係ねェ」
「――――」
「それに、俺ァもう、言うたわいな」
俺に言うことをきかせたければ。
「金をよこせ。さもなくば――」
思わず口の端が、吊り上がった。
あとは、言わなくても、伝わるわな。
「ひっ、ひひ」
こぼれた笑い声を聞いて、差し向いの女は俺を見た。
「――フ、フフ、フ」
そして、笑った。
「ひひ、ひゃ、ひゃっ――」
慣れた目の色――。
「フフフフフハッハハハハハ「ひゃははははははははははははははははははははははははははは「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ「ひゃはっつひゃひゃひゃひゃッ!「ハハハハッ! ハッ! フフフフハ! ァハハハハッ! ハッ! 「ひゃっははははははは! はっ! ぃひひひひひひっ!「ハハハハ「はははは「ハハハハ「はははは「ハハハハハハハハ! ハッ! ハッツ! ァハッ、ハハッ!「ひゃはぁっ! はは! くはっ、あははは!「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!「はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」
嬌笑はまるで歓喜の鐘を打ち鳴らしたかのような。
顔の半分まで口にして笑う女の目。
狂人を見る眼付きだ。
「ああ、いいなァ、いいぞッ! めんどくせぇッ! そうだろッ!? 異邦人!」
そして狂った奴の眼付きだ。
俺と|同じ様に狂ってる奴の眼だ《、、、、、、、、、、、、》ッ!
「身柄だ! 俺の全部を張ってやる! 犬だろうが猫だろうが好きにしろやッ!」
こいつは、この女は、俺と同じだ。
狂ってやがるンだ!
「クソポリッ! テメェ! テメェがッ! 俺より強いと! 証明しろッ!」
世界で一番シンプルな哲学。
俺たちにしかわからない宗教。
高々四十枚の駒の往ったり来たりに、土地だの、船だの、命だの賭けちまう、芯の芯からどうしようもねぇ野蛮で馬鹿らしくて単純な信仰を持ってる奴だ!
「将棋がッ――」
そうだ。
「将棋がッ強い奴が! 偉いんだッ! この世で一番偉いンだ! それが全てだ! 全てだ! だぁろォがよッ!」
「ああ、いいとも、いいとも! 乗ってやるとも!」
俺らの目ン玉はまるで硝子玉だ。伽藍洞の中に地獄みてぇな炎だけが爛々と渦巻いてる。
やっぱり俺は、死んだんだ。あのトラックに挽かれて死んだんだ。
「貴様は本当に、話が早いッ!」
こんな地獄みてぇな勝負ぁ、他やとでけへンやろがッ!
目を剥き、牙を剥き、鼻を突きつけて。
鬼と鬼との、勝負だぁな、これぁ!
「だがな」
そしてアルフォンシーナは、笑い声を止めた。
「覚えておけよこの腐れゴミクズ」
煙草が奪い取られていた。
「これで私に負ける程度なら、貴様なぞ必要ない。一切、全く、利用価値がない。もしお前が、その程度なら――私と、私の部下を、この国の秩序の番人をさんざコケにしくさった、テメェのようなどサンピンは」
瞬きの間にそれは女の指先につままれ。
「指からなますにして、豚の餌だ。絶対に。絶対にだッ! チンピラァ゛ッ゛!」
そしてそのまま、ギリギリと、もみ消された。