初連載2
「アンタとギターの話を元にしてさ。」
夕食が済んで、奈美は自室でボンヤリと自分の喫茶店での台詞を思い出す。
とりあえず、初連載だ。
奈美の登録したサイトは、10くらいのカテゴリーがある。
軽く各カテゴリーの短編を書きながら、まだよく分からないWEB小説の世界をつかもうと考えたのだ。
次は歴史。
少し慣れてきたので、三話くらいの連載を試しに書いてみようと奈美は考えていた。
難しい人物や、信長の様な沢山の人が書いているような話は、読まれる確率が少ないから、ある程度名前が売れていて、それでいて、皆が書かない人物。
ノストラダムス
彼を選んだ。
彼が生きたのは、今から丁度500年前、
こういう区切りの良い人物の話は、切っ掛けが掴みやすい。
予言者として、偉いイメージがあるけれど、このイメージから違うものを投稿してみよう。
奈美は、剛の事を思い出す。
元々、おかしな事しかしでかさない、この男が二万円も用意できないから、こんな変な事になったのだ。
金は無いし、中年独身、頭も良くはないこの男。
でも、長年付き合いがあるのは、田舎で人口が少ないからではない。
剛には、剛の良さがあるのだ。
頭がよく無い分、気持ちが優しいし、悪い事といっても、小5程度の悪さなので、そのエピソードは、思い出すと笑えるのだ。
これは、凄く大事なことだ。
誰だって、思い出してイライラする話なんて聞きたくない。
何処と無く滑稽で、子供のような純粋さが滲む人格とは、それなりに貴重だと思う。
が、
普通の生活では、あまり、付き合いたい相手でもないのが正直な感想ではあるのだが…。
それでも、金も女も持っていない、この男の持ち合わせた性格とエピソード。
これは、絶対に財産だ。と、奈美は考えていた。
この普通では、何の価値も無いどころか、迷惑な性格の剛のうちに秘めた金鉱。これを引き出し、金に変える。
フリマ魂が震えるわ…。
奈美は、へんな高揚感と使命感に満たされながら、大いなる野望を果たそうとノートを広げる。
つよし…、アンタを私の筆力でスターダムにのせてあげるわっ!
アンタこそ、21世紀の寅さんよ。
それを私が世界に証明してあげるわ。
奈美は、はた迷惑な親切心に燃える。
が、まあ、
名古屋ビルジングに行けさえすれば、少しくらいの変なエピソードをさらされる位平気だと、剛が言い切っているのだから、良いのだろう。
とにかく、都合のいいのは、剛が行きたいところが、京都とか、北海道なんて有名どころで無いところよね。
京都なんて、私が書かなくても、沢山の人が書いているから見向きもされないけれど、
名古屋なら、地元の人が気にしてくれるかもしれないわ。
なにしろ、食べたいものが味噌おでん。
行きたいところが、名古屋ビルジングなんて、なかなか居ないと思うもの。
剛は、やる気の無いナマケモノだけど、10年、この不思議な名古屋の魅力をボヤいていたんだから、私も不思議だけど、名古屋の人達だって、不思議に思うに違いないわ。
中には、面白がって応援してくれる人も出てくるかもしれないし。
やってやるわ!
奈美は、新たな世界、連載小説を書くことに胸を膨らませる。
とにかく、上手下手ではなく、慣れることから始めなきゃ。
それに、いくら剛が平気と言っても、身バレはよく無いもの。
歴史の人物にエピソードを重ねるなら、そのリスクは減るに違いないのだから。