四つの世界4
プロバンスの赤いしずく…
作者は、涙ぐみながら空を見上げました。
本当に…詐欺師というのは、人の弱味を的確についてきます。
友人に先立たれ、目標を失い、落選続きで瞑想する作者には、ネット作家デビューの頃のきらやかな記憶と共に胸をつかれる話に違いありません。
『プロバンスの赤いしずく』この題名の少女小説の設定は…しかし、それほどは書かれていません。
すぐに、他の話に埋もれてしまったからです。
不安が胸をつきました。
不安定な昔の話を…作者すらしらない設定を…勝手に付け加えて壊した挙げ句に、作者を傷つけたりしないのか…と。
「プロバンスの赤いしずく…懐かしいわ。主題歌まで…なんか、それっぽく、少女アニメに出てきそうな詩を…こんなところで聞けるなんて!」
作者が叫び、グアニンが否定する。
「違う、これは『ふぁうすと・レディ』『プロバンスの赤いしずく』は主題歌です。」
え?と、いう顔をグアニンに向け、それから作者は、黄昏を纏った柔らかい微笑みを浮かべた。
「『ふぁうすと・レディ』ね。まあ、いいわ…。
ネット生活も既に6年目。虫とか、変質者とか、そんな話ばかりだったけれど、ここに来て、まさか、あんなに少女アニメのような恋の詩を聴けたんだから。」
作者は、幸せを噛み締めるように目を閉じて、これからしばらく、黙っていた。
私は、私の役割をしなくては行けません。
久しぶりに見た、幸せそうな作者の笑顔が消えない道を…
ここは、あの大魔術師の干渉する生命の樹。
油断するわけには行きません。
これはゲームの世界ではありません。
あの世とこの世の中間の世界。アストラル界なのです。
道を間違えたら…狂気の世界へと引き込まれてしまうのです。