エイワイス
「それで、この記号の意味は何ですか?」
伯爵はスワンのカップの文字を示す。
MTーDNA
作者は渋い顔で伯爵を見る。
「忘れてなかったの?」
「ええ。とても興味深いですから。」
伯爵は身を乗り出すように作者に迫る。
作者は嫌な顔で伯爵を見ながら疑い深そうに質問する。
「ねえ、本当は分かるんでしょ?からかってない?」
作者の苛立ちを味わうように伯爵はコーヒーを飲む。
「推理は…出来ますが、是非、貴女の口から聞かせてもらいたいのです。」
伯爵は我儘を言う少年のように私の作者に懇願し、カップのプリンセスを自らの横に召喚する。
それから、作者の前に1枚のカードを置いた。
トートのカードの『ワンドのプリンセス』である。
作者はそれを見て渋い顔をする。
伯爵はその様子を満足そうに確認し、話始めた。
「全く、このカードから、このプリンセスを作り出すのですからね。興味深い。」
「仕方ないでしょっ、ハリスの著作権は切れてないんだもん。盗作って言われないようにしないといけないわ。」
作者は顔を真っ赤にして叫ぶ。
その様子を楽しむように伯爵は目をほそめ、そして、気持ちを切り替えるような明るい声で提案した。
「では…私が少し解説をしよう。そうすれば、言葉も出てくるだろう。まずは、このプリンセスの小麦色の肌について。」
伯爵は作者のプリンセスを見る。
それから、思い出したように作者を見、軽く左目を絞りながら、からかうようにこう言った。
「まずは、訂正しておくが、ワンドのプリンセスは、クロウリーのオリジナルではない。」
伯爵はそこで言葉を切り、シリアスな顔になる。
「奴に…オリジナルなど…無いのだよ。」
伯爵の言葉は孤独で、冷たい感じがした。
と、同時に私の心をざわつかせる。
確かに、有名作家に取り上げられる人気キャラと言うのは、女性の心を掴むのに長けているようです。
思わせ振りに『俺、寂しがり屋なんだぜ。』感を醸し、母性本能をくすぐるのです。
そして、そんな男に捕まったら、骨までしゃぶられ、棄てられる…嫌な未来しか見えません。
私の不安をよそに、作者は眉間にシワを寄せて、不服そうに頬を膨らませた。
「えー。それは言い過ぎだよ。」
作者は口を尖らせて、疑い深そうに伯爵を見てこう聞いた。
「じゃあ、エイワイスも、伯爵がクロウリーに吹き込んだの?」
その質問に伯爵は驚いた顔をして、なにか、抗議をしたそうな顔をした。
それから、何かを思い出したように目を閉じて、そこから豪快に笑いだした。
「確かに、アレは私とは関係なかったな。」
伯爵は一時、心行くまで笑い、それから、真顔に戻って作者にこう指摘した。
「私にはどうでも良い事だが、一応、アレの名前はエイワス…もしくは、アイワスだ。エイワイスでは召喚できぬ。」
伯爵の言葉に、作者は負け惜しみを返した。
「いや…召喚なんてしませんからっ。」