クラウン
「チョコレートって、イギリス発祥なんだ。」
作者はチョコレートとその始まりの話にすっかり手懐けられてしまいました。
「ふふっ。1947年ジョセフ・フライが作ったのが始まりだと言われてます。」
伯爵は優雅に指をならして秘書っぽい女性にお茶を頼んだ。
「1947年かぁ〜メイザースが生まれた頃にチョコレートが出来たのね。」
作者は嬉しそうに箱に入ったチョコをつまんだ。
「数年ずれてはいますが…まあ、そうですね。彼もまた…初めのチョコレートのようにほろ苦く、荒削りな一面がありましたね。」
伯爵は昔を懐かしむように目を細める。
そんな伯爵を見つめて作者は悲しい顔をした。
「でも…もう、そんな豆知識はいらないわ。
少し前に『パラサイト』って作品を完結させたけど、ポイント貰えなかったもの。
変な豆知識や社会事情に影響されて、いいエンディングにはならなかったから。
この話は…もう、そう言う変な豆知識とかを気にしないで、俗に言う『なろうテンプレ』って言う筋書きで進めるんだから。」
寂しそうな作者の声に…この世界の終焉を感じて切なくなりました。
この5年、私は貴女に思い出してもらい、そうして、様々な物語を二人で作り続けてきました。
小さな貴女との空想世界にはない、奥深い…夢の世界を作り続けるのは、本当に幸福な時間でした。
私の胸に彼女と過ごした時間が流れて行きます。
もしも…これから作る物語が、最後の長編になるのだとしたら、
貴女にも…素敵なエンデングを用意して差し上げたいのです。
私の気持ちなど知らず、作者は伯爵を見つめていました。
仕方ありません。2年越しの連載のエンデングが失敗したのです。
物語を作る方だって、傷つくのです。
伯爵は作者を見て、楽しそうに笑いだしました。
「ミニ知識…ふふっ。貴女にはそれくらいの認識なのですね。この…世界が。」
伯爵は感極まって立ち上がり話を続けた。
「小麦色の肌のカップのプリンセスですよ?」
伯爵はマナーを責めるようないいぶりで作者をみる。
「だって、ワンドのプリンセスは太平洋を示してるわ。ハリスの絵をみてもそれはわからないわ。緑色の肌なんですもの。」
「そんな顔しないで、別に、批判はしてませんよ。
頭にマテ茶入りの白鳥のカップをのせたプリンセス。
おや?これは、神呪ですか?」
伯爵はカップの横についている文字をみる。
私も、それが見たくてプリンセスにマテ茶をもらう。
白い白鳥のカップの横には確かに文字が書かれていました。
MTーDNA
確かに、これはマントラではありません。
ミトコンドリアDNA
太鼓の昔、人の細胞に寄生し、取り込まれたミトコンドリアのDNAの事である。