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夢の計画

(つよし)は、1時間を過ぎた頃にひょっこりと顔を出してきた。


相変わらずのルーズさに呆れながらも奈美は隣の席から鞄を持ち上げ席を開けた。

「座りなよ。」

体の大きな剛のために奈美は椅子を横にずらしながら、少し不機嫌そうに言った。

剛は、声にならならない声で「はぁ。」と唇を動かしながら、彼の中での「どうもありがとう」を表現した。


「こんにちは、希和さん。」

晴香は、穏やかに微笑んで剛を迎えた。

「こんにちは、由芽(ゆめ)さん。」

剛は好意を込めた笑顔を晴香に向ける。


短気ですぐに文句を言う奈美と違って優しい。


樽のような大きなお腹をゆっくりと落ち着かせるように剛は座った。


「俺、アメリカン。『いつもの』って頼んだら、わかってくれるかなぁ?」

剛はメニューを見つめながらぼやく。

「あんた、月に一度来るくらいじゃない。そんなのわかるわけ無いでしょ?」

と、奈美が早口で捲し上げ、さっさと剛のアメリカン・コーヒーを注文した。


「ところで、小説は書いてるの?」

剛が穏やかに奈美を見る。

途端に、奈美は少し恥ずかしそうに剛を睨んだ。

彼女は、つい最近、Web小説の会員登録をしたのだ。

「ち、ちょっとぉ…、大きな声で言わないでよぅ。は、恥ずかしいじゃない!

か、書こうとはしているわよ?アンタのために…。」

奈美は口を尖らせて、不平を言うように呟く。

が、そんな事は剛はお構い無しに自分のために運ばれてきた水を旨そうに飲み干した。


「今日は暑いね。水が美味しいよ。」

剛は、小説の話など無かったように満足そうにため息をつく。

「ち、ちょっと、あんたはっ。」

その態度に、奈美は少し苛立ちながら剛を睨んだ。

「大体、誰のために小説なんて書くはめになったと思っているのよっ!

アンタが、いつまでたっても名古屋に行く軍資金を貯められないからでしょっ。」

奈美は、ここ数年の格闘の日々を思い出す。


「名古屋に行きたい」と、

「金がない」の台詞を繰り返す剛の事を。


「ああ、忘れていたよ。はい。使って。」

剛は自分のスマホを奈美に渡す。

すると、奈美は剛への積年の不満(もんく)を頭のすみに引っ込めて剛のスマホを手にした。


奈美はスマホを持っていない。

この剛のスマートフォンが唯一のネットツールなのだ。

この貴重な時間を無駄には出来ない。

奈美は地味に携帯のメールでサイトに送り続けた小説を急いでアップする。


その様子を見ながら、剛はため息をついた。


「瀬謙さんもスマホ買えば?」

その台詞に作業を続けながら奈美は噛みつく、

「冗談じゃないわよっ。そんな事したら、アンタ、なんの出番も役にもたってないじゃない!

働きなさいよっ。名古屋に行く旅費の分。

全く。冗談じゃないわよっ。」

奈美は小説をアップし終わって剛を睨んだ。

「うん。名古屋、行きたいよね〜。名古屋に行ったら、モーニングに行くんだ。

名古屋のモーニングにはね、パンとかお寿司がついてくるんだって。本当かなぁ。」

食いしん坊の剛は、名古屋の怪しい豆知識を披露する。

「寿司?寿司なんて、ついてくるわけ無いでしょ?

いくら、名古屋だって…

と、言うか、名古屋に行きたい動機、寿司なの?

喫茶店のサービスの寿司の為に私は、こんな事をしていると言うのっ。」

奈美は、呆れるようにため息をついた。

運ばれてきたコーヒーを飲みながら、剛はゆったりと至福の吐息を漏らしながら奈美に反論する。

「それだけじゃないよ。オーディオも見たいし、名古屋ビルジングにだって行きたいんだ。

モーニング、寿司は無いのかな…。雅苗(かなえ)さんはいつも言ってたよ。

名古屋のモーニングはすごいんだって。」


「雅苗さん…元気かしら?」

ここで、晴香が発言した。

諸心(しょしん) 雅苗(かなえ)


フリマ会場で知り合った女性だ。

主にフリマ会場での付き合いだったが、彼女は一人でも出店するガチのフリマ好きだった。

数年前、旦那の転勤で名古屋に行ってしまったが、その時の別れの挨拶。


「次は名古屋のフリマで会いましょうね。」


このセリフ。


このセリフがあるからこそ、こんな馬鹿げた事に挑戦するはめになったのだ。

奈美は初心を思い出して気を引きしめる。


名古屋に…、雅苗さんに会いに行かなきゃ。


でも、名古屋ビルジングって、なんだろう?


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