聖四文字
聖四文字…随分と盛ったものだ。
私は、作者を見て溜め息をつく。
「あなたの聖四文字、AGTCですよね?」
私の質問に作者は少し嬉しそうにニヤリとした。
「そうよ…良くわかったわね(* ̄ー ̄)
アデニン
グアニン
チミン
シトシン
この4つの頭文字。AGTC。これはアダムを作った聖なる文字。
テトラグラマトン!」
作者は得意気です。
「確かに…そうでしょうけど、やりすぎですよ。」
DNAの…塩基を持ち出したりして…もう、滅茶苦茶です。
あきれる私に作者は溜め息を漏らす。
「いいのよ。今さら、黄金の夜明け団の聖四文字、ヨッド・ヘイ・ヴァウ・ヘイ…なんて、知ったってどうにもならないじゃない。もう、世紀末のオカルト騒動なんてウンザリなんだわ。」
作者は投げやりに言った。
我々は少し前に、10万字の作品を完結させた。
本来の結末は、オカルト風味で、『選ばれた人間』として主人公が覚醒予定だった。
が、タイミング悪く、霊感商法が世間を騒がせたのを見て、作者は結末を変えてしまった。
我々世代には、オカルトとは昔馴染みの友人であり、厄介な友人でもあるのです。
21世紀も20年が過ぎ、ノストラダムスのネタもつきたと感じていました。
ただ、古い友人を懐かしみたいだけだったのですが、それも…難しいのかもしれません。
少し寂しい気持ちになって、私は、話題を変えようとワンドのプリンセスを見た。
そして、一番、大切なアイテムが無いことに気がつきました。
「ワンドのプリンセス、杖がありませんよ。」
そう、ワンドのプリンセスは、太陽のモチーフのついた杖を持っています。
4精霊は、各象徴を持っています。
火は杖を
水は聖杯を
地はダイヤを
風は剣を。
これらは後に、トランプのスート。
クラブ、ハート、ダイヤ、スペードに変わります。 その大切な象徴を忘れては本末転倒です。
私の説明に作者が膨れる。
「あるじゃない!」
作者が叫ぶと、男前のワンドのプリンセス、シトシンは、ニヤリと笑って背中から木刀を取り出して軽くふった。
と、同時に木刀の切っ先に意思の炎が太陽のように輝いた。
「…あれは…日本では『木刀』木の刀と言います。
誰も、杖とは言いませんよ。」
私は呆れた。
確かに、シトシンは美しく、魅力的ではあった。
が、祭りの鯔背なお姉さん設定は(一応、巫女的な意味合いがあった)、すっかり、80年代のヤンキーファッションにしか見えなくなっていた。




