ギフト
「もうっ、アンタはっ、死んでも酒好きなんだからっ(*`Д´)ノ!!!」
作者は叫ぶ。
剛さんは渋い顔で叱られた大型犬の様に項垂れる。
「ちえつ。」
剛さんは面倒くさそうにボヤき、作者の怒りを倍増した。
「はっ?何よっ、大体、アンタが、酒の話なんてするから…
ああ…思い出したわ。その料理酒の話…
確か、夜、眠れなくて台所で酒を探して、無かったから料理酒を飲んだのよね?で、私たちの待ち合わせを1時間も遅刻したのよね(-_-;)」
作者は深くため息をつく。
「そうだっけ?」
剛さんは悪びれずに答え、それから、思い出したように空を見上げて暗い顔をした。
「料理酒は…どんなに酒が欲しくても飲むもんじゃないよ(T-T)すっぱいし。」
剛さんは眉を寄せ、刑事ドラマの部長の様にニヒルに笑った。
「あったりまえでしょ?もうっ。はぁ…
まあ、いいわ。
初めから説明しなかった私も悪いのよ。
Web小説の異世界ファンタジーはね、時代劇みたいに『おやくそく』があるのよ。
で、なんか、天下の副将軍ポストにいるのが、『駄女神』とか言われる神様で、彼女は主人公の転生に際して、いろんなものをくれるのよ。」
作者は子供に話すように穏やかに説明した。
「ビール券とかもある?」
「あるわけないでしょっ(-_-#)」
「だって、何でもくれるんでしょ?」
剛さん、余程、お酒が飲みたい様です。
「もうっ、ビール券もらってどうするのよっ、異世界にはビール券使える店はないわよ。」
作者は呆れる。
「じゃあ、何をくれるの?」
剛さんが口を尖らせて作者に挑みかかる。
「スキル?なんか、魔法とか…」
作者は急に弱気になる。
まあ、異世界の設定はまだ、作れてないのだ。
人に説明できるほど、作者もあの世界は明るくない。
「えー、じゃ、要らないよ。」
剛さんは早速、諦めてしまい、作者はモヤモヤする。
「要らないって…魔法だよ?なんだって出来るわよ。」
「ビール券も?」
「もう、だから、ビール券は扱う店がないんだって…。」
作者は呆れたようにボヤき、それから、思い出したようにニヤリと笑う。
「ああ…そうだわ。剛、ビール券じゃなく、ビールは出るわよ。魔法で(^-^)」
作者はそう言って笑い、ポケットから杖を取り出した。
それから、軽くそれを振るい、剛さんに言った。
「剛、両手を出してね。」
作者はそう言ってから、杖を振るって剛さんに生ビールのジョッキを出した。
「おおっ…大ジョッキだっ( 〃▽〃)これ、飲んで良いの?」
「良いわよ(^-^)」
「ああっ…これ、本当の生ビールだっ!俺がスーパーで買う第三のビールじゃないやつ。」
「当たり前でしょ?どう?凄いでしょ?魔法。」
「うん。凄いね。」
と、この短い会話の間に大ジョッキのビールが剛さんの胃袋に消える。
剛さんも…別の意味で凄いですね……。
私も、作者からの噂話でしか知らなかった剛さんを目の当たりにして驚いた。
が、驚いてばかりはいられません。
私は、作者を止めるために歩き始めました。
基本、Web小説のライトノベルは、大人の読者も含めての設定です。
恋愛表現や、暴力行為など、少し、10代の読者には刺激の強い内容のものも含まれます。
勿論、行き過ぎる内容のものは、他で書くように警告を受けたり、ペナルティーを受ける事になります。
ビールを飲む。
これくらいで警告を受けることはありませんが
我々は、年少の読者を中心にした物語を想定しているので、あまりよろしくありません。
「ビールは駄目ですよ。」
私は作者の肩に手をのせた。
「え?」
「児童小説を目指すのですから、酒類は駄目です。」
「え?ビール一杯くらい良いじゃない…」
作者は剛さんの笑顔がしぼむので、少し、不機嫌に私を責める。
「確かに、酒場で飲むのは良いですが、自家製の酒は密造になりますよ。」
「異世界なのに?」
「読者は日本人です。日本ではお酒は、認められた施設、人物でないと扱えません。」
私の言葉に、作者は文句を言う。
「良いじゃない…ちょっとくらい。」
「ちょっとですまない気がしますよ。貴女は、社会勉強のつもりでも、この設定で、ビールの作り方とかを描くのは誤解を生むと思います。」
私の言葉に、作者は眉を寄せる。
「え?私、小学生の時に酒屋の見学したよ?
作り方も教わったし。」
「ええ、日本国で醸造を認められた醸造所で、説明してくださった方も、個人ではお酒は作れないと説明をしていませんでしたか?」
私は、作者を見つめる。
本当に…剛さんが絡むと、頭のネジが緩むのだから。
私の顔を不服そうに見つめた作者は…やがて、事態を理解したように寂しそうにため息をつく。
「そうね…。確かに、ビールやワインの作り方なんて見たら、やりたくなるものね…
それに、コイツには禁忌の術式だわ(T-T)」
作者は、ビールのおかわりを物欲しそうにボヤく剛さんを静かに見守った。