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ラノベ作家と予言の書  作者: ふりまじん
メタバース
21/56

駄女神

魔法円の前に立つと、作者はメフィストを見て苦笑する。


死霊使(ネクロマンシー)の場合、基本、術師は円の中にいるのが正解だわ。」

作者が切ない顔で剛さんのアバターを見つめる。

「まあ…正解なんてのはありませんがね…

円の内側に死霊を呼ぶなら、それに誘発されてやって来るモノを始末しないといけませんからね。

クローリーですら、儀式の場所は入念に選んでいますが、チートでいけるなら、良いんじゃないですかね。」

メフィストは、くくっ…と笑う。

作者は皮肉な笑いで返した。


「まあ…私、この空間では全能(だめがみ)だから。

基本、守られるべきは剛の方なのよね。」

作者はそう呟いて、神経を集中する。


ゆっくりとブルーライトの柱が消えて行き、静かに剛さんのアバターが地に足をつけました。


作者の呪文にのせて、メフィストが様々な術式(プログラミング)を始めました。


はぁ…


作者が小さなため息をつき、そして、しばらく、複雑な気持ちを飲み込むようにうつむいて呼吸を整える。

それから、覚悟を決めたように、目をカッと見開いて剛を見た。


沈黙…


作者は目を閉じ、そして、震えるような弱々しい声で語りかけた。


「…剛。」


何もおこりません。


「剛?」


今度は普通に語りかけました。


何もおこりません。


「ああっ?(`Δ´)いい加減に起きなさいよっ!

もうっ、剛っ。聞いてるのっ!!」

作者が叫ぶと、剛さんのアバターが、雷が落ちたように驚き、それから、「はぁ…」と、面倒くさそうにため息をついた。


それから、目の前の作者に気がついて、喜劇役者のように分かりやすいリアクションで驚いてから、


「なんだよぅ…ビックリするだろ?卯月さん。」

と、口を尖らせた。


この世界では、作者は『卯月(うづき)』と呼ばれるようです。


私は、4月の和名であるその名を切なく聞いていた。


「剛…。」

作者はそれだけ言って、しばらく黙って剛さんを見つめた。

そして、軽くため息をつきかえし、一気に文句を言い出した。


「はぁ?何言ってんのよっ。ビックリしたのはこっちの方よ。

突然、死んだりしてさ。

もう、携帯は連絡つかないし…て、言うか、料金、ちゃんと払いなさいよっ。

滞納ばっかしてるから…」

作者は涙を流していた。

そして、持ち直したように激しく苦情を続けた。

「料金、滞納してるから、連絡、遅くなったじゃない(>_<。)

もう、あんたは…本当にバカなんだからっ。」

作者は泣いていた。

が、剛さんには涙よりも、厳しいマシンガントークにやられていた。


嫌そうに顔を歪め、そして、口を尖らせてこう言った。


「だったら…呼ばなきゃ良いでしょ。」


はあっ(○_○)!!


それを聞いて、作者が怒りに震えだしました。


ラノベの世界には『ツンデレ』と言う言葉があります。


気の強い女性が、文句を言いながらも攻撃対象の男を心配する仕草を指す言葉で、まさに、ここは『ツンデレ』の場面です。


この数ヵ月の彼女の悲しみや友情の裏返しの文句を…

剛さんは、本当に面倒くさそうにサラリと返してきました。


この人…成仏してるのだろうか?


私は、あまりにもいつもと変わらない様子に不安になります。


口寄せ等で呼ばれた霊は、大概、自分の死を自覚し、会いに来た知り合いを歓待します。


そして、一皮むけたように、穏やかに生者の心配をし、アドバイスをしてくれたりします。


こんな…口を尖らせて、子供のようにブーたれるとは…




「はぁっ?何よ、その言いぐさ、もうっ、アンタ、死んだからって、私1人にこのサイトぶん投げるつもり?」

作者はブスッとして睨む。

「仕方ないでしょ?俺が好きで死んだんじゃないんだから。」

ふてくされる剛さんを、苦虫を潰したように作者は見つめていました。

死の言葉に、作者が傷ついたように両手を握りしめるのを私は見つめていました。


この数ヵ月。

なろうテンプレの死の扱いと、自分の作り出した作品の設定に作者は深く傷ついていました。


死が近い中高年が、若者に混ざって死をおもちゃのように話を作ろうとしたことも、

年を取れば、死は身近にあると言うことを自覚してなかったことも。


ここで、また、作品を再開し、死をテーマに書くのは、結構、辛いことなのです。



作者は黙って剛さんの言い分を聞いて、静かに低い声で同意しました。


「そうね…仕方ないわよね?誰だって、死からは逃げられないわ。

でもっ、私は生きていて、残念な事にアンタのように『用がなくなったから』なんて、中途半端に終われないのよっ。


アンタ、約束したわよね?何でもエピソードを使って良いし、協力もするって。」

作者の勢いに剛さんは()じけました。

「そんな事言った?」

「い・い・ま・し・たっ!」

作者は力強くそう叫び、そして、話を続けた。


「そうよ、これはあんたのために書き始めた物語。

名古屋に行って……

名古屋に行って、お得なモーニングを食べるために始めたのよ。

あなたがいけなくても…

私は、行かなきゃ行けないわ。そして、アンタにモーニングを奢って貰うのよ。」

作者は唇を噛み締めた。


名古屋には友人がいるのです。

名古屋に行って、今までの話をしなくては行けません。


本当は…9月までに500円を貯めたかったのですが、300円もまだ届いていないので、作者は小説でお金を稼ぐのは諦めました。


「じゃ、やれば良いでしょ?でも、俺、何もできないよ?」

剛さんが折れました。

「出来るわ。と、言うか、逃がさないわよっ。

少なくても…この『ラノベの作家と予言の書』の完結まではっ。」

作者は寂しそうに剛さんに恨み言を言った。

「わかったよぅ。」

「ありがとう。で、色々、あったけど、ジャンル投稿制覇はするつもり。

それは、私一人で出来るし。

で、異世界テンプレでお話を作りたいのよ。

私は、駄女神役で…」

と、作者が説明していると、剛さんがニヤリと笑ってメフィストをみる。


「女神だって…自分は女神だってさ。」

「やーね。」

メフィストが少女のように手を振ります。



(///ー///)…


「アンタは、なろうしゅね。」

作者は赤面しながらも、必死で平常心を保とうと奮闘していました。


が、その台詞に剛さんが、ふざけるのを止めて嬉しそうに恐縮しはじめました。

「えっ?いいのっ?そんなつもりは無かったんだよ…。」


えっ?と、作者は混乱して剛さんを見つめました。

「え?なろうしゅ…知ってるの?」

「知らないけど…俺、そう言うの気にしないよ。

料理酒は酸っぱくて飲めなかったけど、後は…」

剛さんは申し訳なさそうな顔をしていましたが、唇が嬉しそうです。


が、その様子を見ていた作者は、段々と能面のように血の気が引いていくのがわかります。


「あのさ…なろうしゅって、酒の事じゃ、ないからねっ。」


ネクロマンシーでは、円の中に死霊を閉じ込める方法もあったと思います。

メイザースが亡くなってすでに100年を超えましたし、沢山の本物から、小説、ショー形式の本当の嘘話まで出回ってるので、真実は闇の中。

私も、召喚に成功したことも、それらのパーティに招待されたこともないので、真実はわかりません。

メフィストは嘘が好きな悪魔ですし、話半分に聞いてください。

そして、興味がおありなら、図書館の奥の方に見捨てられている魔術の本を19世紀のロマンとともに開いて貰いたいです。

もちろん、閉館前には現実世界に戻ってきてくださいね。『全ては真実であり、虚無である。』くれぐれも、メフィストに騙されないように。


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