異界
柔らかな草の上にシートをしき、私と作者は遥か先まで広がる草原を眺めていました。
本日のお茶はハーブティをチョイス。
気持ちを落ち着けてくれるメリッサを用意しました。
「美味しいわ。」
作者はお茶を飲んで気持ちを整える。
「ありがとうございます。」
話の流れを折らないよう、短く返事を返した。
「はぁ…。私、メイドさんの衣装を着ていて思い出したわ。
昔、メイド喫茶にいこうとしたことを!」
作者は禍々しい話のように言う。
「そんな事…ありましたか…」
「うん。あったのよ。
東京に行く用事が出来てね、私、友人にメイド喫茶に連れていってくれって頼んだのよ。」
作者は渋い笑いで羞恥心を噛み殺す。
「つれていってくれたわ…秋葉原に…で、なんか当時、有名だった電機店のビルに連れてかれたの…
エスカレーターを上る度、白物家電から、美顔機…本屋、そして、何やらいかがわしい黒いフロワーを越えて、紳士服っぽいフロアー…いや、スポーツ店かな(´-`)みたいなところで、1度もエスカレーターから離れたの。
友人は言ったわ…
『この上がメイド喫茶だよ』って。
見上げるとね、上のフロアーの廊下に人が並んでいたわ…
鰯のような地味な群れの中で、メイドさんが熱帯魚のようにヒラヒラとスカートを揺らし、叫んでいたわ。
『旦那様、ここからは一時間待ちになりますっ』って。」
作者は、怪奇体験でも話すように目をほそめ、何やら、信じられない記憶を説明するように言葉を選んだ。
「で、メイド喫茶はどうでしたか?」
私は、何となく、あの夢の遊園地を思い出しながら、作者の話を待った。
作者は、耐えられなくなったようにインスタントコーヒーを自作して飲むと、眉間にシワを寄せてこう言った。
「いかなかったわ…足がすくんだのよ。
良い年をして、男ばかりが並んでいる…あんなところで、一時間待ったり、
待ち時間に、話し相手をしてくれる…メイドさんに『お嬢様』って言われるかと思ったら…耐えられなかったのよっ(>_<。)
なんで、娘のような年の女の子に、BBAの私がっ、『お嬢様』なんて言われなきゃいけないのよぅ…
辺りは、女の子の審美眼に五月蝿そうな男が囲むんだよぅ…
地獄だわ(T-T)」
作者は当時を思い出して頭を抱える。
「そんなところに…行きたがらなきゃ良いでしょうに。」
私がため息をつくと、
「だって、あのときは人気だったし、なんか、お土産買いたかったんだもん。
餅とかケーキとか、クッキーとか、なんか、売ってると思ったのよ。」
作者は叫び、それから、深くため息をついて話を続けた。
「まあ、それはともかく、思えば、あの、上へ向かうエレベーターに異界との境界線を見たんだわ。
あそこは…私が近づく場所ではないと。
そして、この感覚こそが、なろう系ファンタジーの世界の…異世界との境界線じゃないか…と。」
作者はそう言ってコーヒーをすすった。