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ラノベ作家と予言の書  作者: ふりまじん
メタバース
18/56

なろう作家

「平常心を無くしても、お茶をこぼさなかった…

その一点だけは誉めて差し上げます。」

メフィストは穏やかにそう言って、作者が地面に置いたお盆のカップを手にする。

少女の作者は悔しそうにメフィストを睨んでから、泣き出しそうな顔をして私の方へと走ってきました。

「時影ぇ……(>_<。)」


仕方ありませんね。


私は呆れながらも作者を迎えるべく腰を落とした。

「はい。」

私は、少女の作者に優しく返事をする。

彼女の小さな頃を思い出します。

声は…こんなアニメ声ではありませんでしたが、どんな姿になろうと、私には素敵な女性(ひと)なのです。

「『もえもえきゅん』が出ないから、異世界にいけないよ〜。」

作者は甘えたような訴えをする。

「別に、そんなもの、必要ありませんよ。」

私は思わず笑ってしまう。

確かに、Webでは『なろう系』と呼ばれる異世界ファンタジーが人気です。

しかし、人気がある分、投稿者も多数いますから、これで目立つのは至難の技です。

なにしろ、書籍化したプロと同じ土俵で戦うのですから、作者のような投稿の遅い素人は、目につく前に埋もれてしまいます。


逆に言えば、なろう系以外は投稿が少ない分、読者に気に入られれば、浮上の目も無いとはいえません。

少し難しいですが、本格ファンタジーを書くことが出来れば、日刊の300位くらいなら、ランクイン出来るかもしれません。


が、作者は渋いかおで私の意見を否定する。


「関係あるわ(T-T)

メフィストの説明、良くわかったもん。」

作者は膨れ顔で私を見る。

「では…異世界ファンタジーを諦めるのですね?」

メフィストが誉められたのは、気に入りませんが、本格ファンタジーの路線を目指す方が良い気はします。

「まさか…剛は死んでしまったのよ…もう、戻らないわ。どんな魔法の呪文でも…。」

作者は寂しそうに魔法円の中で浮かぶ剛さんのアバターを見つめた。

「でも…作品内で現実(メタ)の事情を話さえしなければ、ただのファンタジーで成立します。

剛さんの転生は、我々、超越(メタ)世界の事情であり、読者は預かり知らないことですから。」

私は、そう言いながら、南フランスを遥か古代の姿に戻した。

深い森。


まだ、人間の文明が栄えていない…遥か昔。


地球は寒冷期で、山や陸を覆う氷河の為に、陸地が広がっていました。


そんな時代の風景に、ギリシア風味の風の精霊を召喚します。

現在、海が広がる場所に広い平原が続きます。



この世界なら、ローでも、ハイでも…

後の設定で投稿可能でしょう。


「綺麗…ね。」

作者は少し肌寒いプロバンスの不思議な光景に目を細める。

温暖化で消えた寒冷地に住む角の立派な鹿がこちらを見ています。


「気に入りましたか?」

私は、作者が小さかった頃、2人で読んだ物語を思い出しました。

美しいオルフェイスの竪琴。

恋に赤く咲くアネモネ。

恐ろしく、そして、切ないアラクネの物語。



「そうね…。でも、今はこれじゃないと思うのよ。

それに、私は『なろう作家』なんだもん。

純文学が書けなくても、なろうテンプレが書けないっておかしいわよ。」

作者は少し自慢げにポーズをとります。


言いたいことはありますが、小さな頃の姿で、そう言われると…その夢を叶えてあげたくなります。

「では…やはり、『ナーロッパ』を目指すのですね?」


ナーロッパ…なろう系ファンタジーの舞台になる、なんか、中性風味のヨーロッパの事です。

ちなみに、あまりよい意味では使われません。


ナーロッパには、細かな設定はないのです。

木にしても、杉か松か…寒冷地なのか、温暖なのか…そんな設定はありません。

木は木なのです。


しかし、それで話が通じる世界なのです。

これは、ゲームの世界を知らない人間には、楽しみ方が分からずに混乱したりします。


外国人になって直訳の俳句を読んでるような…奇妙で、不安な気持ちになります。


そして、外国人がいきなり俳句を書けないように、慣れない我々には、あの行間に隠されている景色を描けずにいるのです。


「ナーロッパ…(;゜゜)それは書かないよ。分からんもん。

まずは、なろうテンプレと雰囲気だけを使うよ。

まあ、どちらにしても、ここの読者が見ている『異界』が分からなきゃ、書けないんだけど…

さっき、やっと理解できたわ(T-T)」

作者はそう言って深いため息をつき、それから、もとの姿に戻ると、私に笑いかける。


「コーヒーをお願い。やはり、私は、あなたのコーヒーを飲む役が良いわ。」作者の言葉を私は笑顔で受けた。


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