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認識

何かがおかしい。


ここまで引っ張って、間抜けなようだが、奈美は辺りを見回した。

静かすぎるのだ。確かにここは喫茶店で、奈美はとんでもない怒声を轟かせていた。

こんなとき、止めに入るはずの遥香の姿が見当たらない。

一瞬、奈美の背中に冷たいものが走る。

軽い耳鳴りがして、自分の認識している世界が、あまりにも狭いことに気がついたのだ。


喫茶店のテーブルとその上にある小物。そして、向かい方に姿勢よく座る剛。

固く一文字に口を結び、前を見つめる剛は、なにも語らないが、強い意思の感じる凛々しい姿である。


普通の状態で、こんな剛を見ていたら、

「なに?昭和の刑事みたい」

と、奈美は笑い転げるに違いない。が、なんとも言えない恐怖が体を包むなか、そんな事は、どうでもいいことだ。


「のの様で遊ぶな。」

耳元で、死んだ祖母の声が聞こえた気がした。

奈美の一族は大工、職人を生業としている。


戦後、生活難の中で職業としたのが始まりではあるが、母方は昔からの職人で、そのせいか奈美の祖母は、そのテの不思議な相談をよく受けていた。


そして、オカルトブームの中、色んなイタイ遊びをする度に、祖母は奈美を叱っていた。

のの様…つまり、神…、妖怪の類いだと思うのだが、子供の頃、それらを無意識に怒らせたりしたのだろう。

心霊写真や、こっくりさんが、奈美の地域では、細々と子供の遊びとして続いていた。


Wi-Fiが、町に導入されたのが、遅かったのもある。


でも、何より、山があり、川もあった。


不思議な植物に、珍しい昆虫がいた。


初恋の佐藤くんは、鉱物が好きだった。


マニアックすぎて、誰も佐藤くんに絡まなかったから、いつも二人で遊ぶことが出来たっけ。

小学時代の甘い記憶は、一瞬、奈美を恐怖から恋愛モードに気持ちを盛り上げたが、次の瞬間には、白黒の祖母のイメージに邪魔された。

「のの様で遊ぶな。」


相変わらず、耳鳴りがして、何か、胸騒ぎが止まらない。いつもより早く動く心臓から供給される酸素と栄養が、甘い恋の思い出の恐怖の続きを、古いニューロンからワザワザ探しだして、リアルに思い出させる。

佐藤くんは、スポーツもできて、頭が良かった。医者の息子で、クラスの男子の誰とも違っていた。

宮沢賢治が好きだから、石が好きだと言っていた。

何か、素敵な宮沢作品の影響なんだろうか?奈美はそんなロマンチックな彼が素敵に見えたものだ。(いいえ、宮沢賢治は、鉱物の研究をしていたんですよ…決して、ファンタジーの話ではありません。)


ま、いくら好きでも、私には、格調高すぎて、ついて行けなかったけれど。


奈美は、思い出して苦笑した。懐かしい思い出。

佐藤くんは好きだけれど、

石英やら、

雲母やらを覚えるより、

シュノボンや

ぬらりひょんの方が、頭にすんなりと入ってくるので、その内、佐藤くんが石を割って鉱石を探すなか、奈美は、人面石を探し始め、二人の距離はスイングバイで、離れていったのだ。

で、面白い石を拾っては、飾るようになり、小さな不幸や怪我が増え、どことなく、石が不気味に感じる頃、奈美の祖母がそれを見つけて石を奪っていったのだ。


のの様で遊ぶな。


祖母に叱られた気がして、奈美は不安になってきた。


知らないうちにまた、のの様を怒らせたのだろうか?


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