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悪魔カードと免罪符

遅くなりましたが、更新しました。

ルターの関係者の方で、気分を害された方がいたらごめんなさい。でも、終わりまでには別人にしますから。

キリスト教の、偉い人を降霊なんて出てきませんから。

読者の皆さんも、ご了承ください。

「働き者の悪魔か」

ルターは気絶している貴婦人を見ながら呟いた。


悪魔祓いなどしたことは無いし、そもそも悪魔祓いの資格は彼には無い。


しかし、悪魔は教会の都合で出現するわけでは無いので、

運悪く遭遇した時は、臨機応変に対応するしか無い。


とはいえ大概の場合、悪魔などではなく、冬の寒さや、陰鬱な毎日に対する感情の起伏が問題で、

一時、感情を喚き散らして仕舞えば落ち着く事が多いのだ。


悪魔など、そうそう簡単にでてくるものでは無い。


ルターは、しばらく相手の様子を観察する事にした。

「別に働き者では無いわよ、あんたこそ、仕事のオファーを待って無いで、ハローワークでも行ったらどうよ。仕事が無いのも辛いでしょう?」

貴婦人は、瞼を閉じたまま同情を含んだ言葉でルターの心を突き刺した。


仕事が無いわけでは無い。が、『95ヶ条の論題』を提出した時から、何となく大切な事柄から外されてるような雰囲気を感じていた。が、すぐに気を取り直した。


それがどうしたと言うのだ私は間違ってはいない。

己の罪が、教会発行の免罪符なんかでどうこうするなんて、おかしいでは無いか!


ルターは気を取り直した。



「お前に私の心配などして欲しくも無い。お前こそ、そんなだから、

肉体労働に苦しまなければいけないのだ。悔い改めよ。」

ルターは、感情を表に出すこともなく淡々と話しかける。悪魔の相手をしてはいけない。奴らは狡猾で、心の弱みを突いてくる。心を動かしては負けてしまう。

淡々と説教をし、名前を告げさせ、夫人の体から追い出すのみだ。


「肉体労働の何が悪いのよ!このトンチキ。」

クワッと貴婦人が目を見開くと、燃える様な憎悪を瞳に燃やしながら叫びあげた。こめかみに青筋が浮かび上がり、その様子は、さすがのルターでも恐怖を感じた。

貴婦人は怒りで鼻筋に皺を作りながら、なお、言葉を続ける。

「この世の中で、一番偉いのは、誠実に日々の仕事を全うする人間よ。肉体労働だからって、あんたにバカにされるいわれは無いわよ。私は、日雇いだって、1日の仕事の手を抜いた事も無いし、問題を起こした事も無いわ。私は自分の仕事を誇れるわ。そういうあんたはどうなのよ!自分の仕事に偽りなく誇れると言えるの!」

そう叫び上げられて、ルターは言葉が継げなくなった。


果たして、現在のこの仕事を誇ることなど出来るだろうか?

最近の教会は、よく目に見てもいい状態とは言えない。出世の為におべっかを使う人間や、お金にものを言わせる人間、そして、あの、免罪符。生前の罪をお金でとり消すなんて事を神が許すなんて、私は本当に信じているのだろうか?



何か、おかしい。


さすがの奈美も違和感を感じ始めていた。

目の前に居るのは確かに剛である。


まん丸のビール腹と、自然にセットされてる七三分けの剛毛、プライベートでも活躍する作業服。

こんなオヤジはどこにでもいそうで、いない。

間違いようもなく剛である。ただ、様子がおかしい。いつもは、奈美の顔色を伺って不安そうにしているのに、今日に限っては自信たっぷりで、「悔い改めよ。」なんてほざきやがる。


本当に何かに取り憑かれたのだろうか?


一瞬、不安が奈美の胸を襲う。心配になって剛をよく観察してみるが、いつも雑にしか剛を見てないので良くは分からない。

目は開いている。取り憑かれると正気の無い眼差しになるとか聞くが、今の剛は、いつもよりハキハキしていて、生気がみなぎってる。本当にこれが取り憑かれた人間と言えるだろうか?


「アンタ、本当に大丈夫?」

奈美は隙をついて剛のスマホを奪うと、用心深く剛を見つめる。まさか、本当にルターが取り憑いたりはしないだろう。ルターといえば、キリスト教の偉い人だ。そんな人物が、日本のこんな片田舎に意味もなく降臨するとは思えない。どちらかと言えば、キツネなんかの低級霊…


いかん、いかん…


奈美は、頭を左右に振っておかしな考えを追い払う。


幽霊なんているわけは無い。


どちらかと言えば、仕事がなくて精神的に追い込まれての、一時的な現実逃避なんだろう。それとも、コックリさんをした女子高生がたまにかかる、集団ヒステリーの類か。どちらにしても、悪魔や霊なんてものは、そうそう遭遇するものでは無い。

「アンタ、剛よね?」

奈美は顔を近ずけて剛を観察する。剛は、奈美の顔が近ずいても動じることなく座っている。


私が強いか、だと?


眉を寄せながらルターは貴婦人の中の悪魔を思う。


何かがおかしい。


人間に取り付く悪魔の類が仕事を誇ったりするだろうか?

言葉こそは悪いが、それほど悪い印象は無い。そう感じるのは、悪魔に魅入られてしまったからなのか?

「そうだ。私は強い。お前こそ悪魔なのか?」

心の中で違う答えを期待する。すると、奈美が貴婦人の口を借りて苦笑しながら、

「小悪魔的な?」

と、聞いてきた。が、ルターには、自己紹介に聞こえた。


これが、魂を悪魔に奪われた人間の末路、使い魔と言うものなのか…。と、するなら、まだ、人の心が残っているのかもしれない。この使い魔は貧しさの中で悪魔に騙されでもしたのだろうか?


ルターの中で、不意にイタズラ心が芽生えた。


「醜い悪魔になる位なら、お前も免罪符を買えば、良かったのにな。

そうすれば、地獄に落ちないらしいぞ。」

皮肉交じりにルターが挑発すると、使い魔は黙り込み、それから、季節の変わり目の嵐のように、怒りで喚きながら、汚い言葉を豪雨のように浴びせかけてきた。


「何言ってんのよ、このぽんつくが!そんな無駄なものに金を使うなよ!てめーが汗水流して稼いだ金でも無いくせに、あの世まで金で楽しようなんて、お門違いなんだよ!第一、地獄なんて死んでみなければ、あるかどうかもわかんないじゃ無い。そんなふざけた事に騙されて金を渡す人間が居るから、私がマイルド・コントロールとかお父さんに説教されんのよ。もう、あんたみたいな、エセオカルトマニアがおかしな人間に騙されるから、私が大切にしていた、東山先生の書き下ろし、超美麗悪魔カードが捨てられたんだから‼︎あれは、月刊 『魔行』渾身の全プレだったのよ。もう手に入らないんだから。」



あああ、思い出しただけで、イライラするわ。それは私がまだ少女で、二次元に恋していた頃のことよ。大好きだったゲームクリエイターの、東山先生が一度だけやった企画ものだったわ。私は先生の描くベルゼブブが好きだったわ。

初恋と言っても過言では無いくらい。だから、おこずかいを奮発して、保存用と、眺めるよう、二つも購入したのに…霊感商法の事件が社会問題になって、お父さんが、私を心配してみんな捨てたのよ!ああ、思い出すだけで怒りが蘇るわ。

「おとーさんっ!マイルドコントロールってなんなのよ。」

奈美は、怒りに任せて剛の胸ぐらを前後に振り回した。多分、これは、剛のセリフでは無いし、八つ当たりというやつだ。でも、ムカつくんだから仕方ない。

人間だろうと、悪霊だろうと、オカルトを汚い金儲けの道具に使う奴は許せない。奈美は後先を考えることなく怒っていた。そして、剛が振り回されるたびに、貴婦人の体も激しく上下に揺れだした。


このままでは、いけない。


ルターが聖書を持つ手に力を込め、

奈美は、八つ当たりする気持ちにブレーキをかけ始めた。


なんだか知らないが、取り付いている奴を、追い出せねば。


ルターも、奈美も、同じ気持ちで、全く違う方向に向かおうとしていた。





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