第六話 嵐の前の静けさ
「じゃあ玄関で待ち合わせましょ」
姉さんはそう言って自分の教室に戻っていった。俺達も各々の教室に戻る。
「…ねえ、唐松くん」
俺と白松さんが自分の教室に向かって歩いていると、白松さんが不安気な口調で問いかけてくる。
「何?」
「…ちょっと待って、聞きたいことがありすぎて頭の中がごっちゃになってるから」
酷く混乱した様子で、こめかみに手を当てて「ウ〜ン…」と唸っている。
「…別に今無理して聞くことはないと思うけど?姉さんは全部話すつもりらしいし」
俺は白松さんに提案するが
「えー?だってなんかスッキリしないと、気持ち悪くない?」
と食い下がる。
「じゃあひとついいかな?」
どうやら纏まったようだ。
「唐松くんは最初から全部知ってたんだよね?」
「知ってたも何も、俺は当事者の内の一人だし」
「………あなた何者なの?」
いきなり核心をついてきた。疑うようなの目線をこちらに向けている。でも彼女は一つ勘違いをしているようだ。
「何言ってんの白松さん。君も同じじゃないか」
「…えっ?どうゆうことよ?」
「俺も君も同胞だってことだよ。姉さんは俺達を『血統で選んだ』って言ってたろ。有り体な言い方をすると、俺達は『選ばれし血族』なんだよ」
俺は至って真面目な口調で説明すると
「ぶふっ!あははははは!」
白松さんは、声をだいにして笑っていた。流石に頭にくる。
「…何がおかしい」
「いやっ、だって、フフッ、そんな、真面目な顔で、クククッ、そんな、中二病全開の、アハハッ、セリフ言うなんて、傑作すぎる、あははははは!!」
白松さんは、腹を抱えて呼吸困難になりそうなくらい大爆笑していた。
ひとしきり笑って落ち着いたのか白松さんは
「で、でも、なんかスッキリした。ユーモアな冗談をありがとう」
と、方で息をしつつ屈託の無い笑顔を見せた。
これは決して冗談では無いのではないのだが、こんなに笑顔を見せつけられると何も言い返せなかった。
○○
教室に着いた俺達が帰る支度をしていると
「いやぁ〜、やっと帰れるぅ〜」
「うぅ〜、頭痛い〜」
伸びをしながら三好と若松さんが教室に入ってきた。
「おぉ、お疲れー」
「そっか、二人は放送委員だっけ。お疲れ様ー」
俺達は労いの言葉をかける。
「お前らもこんな時間まで残ってたんだな。お互い大変だな」
「ねー」
時計の針は既にてっぺんを回っていた。腹の虫が鳴く頃である。
「お前ら昼どうする?どっかで食べてくか?」
三好の質問に
「あたしは家にあるからパス」と若松さん
「俺は急いで直帰せねば」と俺
「私も……」と白松さん
「うげっ、マジかー。…しゃーない、俺も帰るか」
残念そうにする三好であった。
○○
三好達と談笑しつつ下駄箱に向かうと
「…遅い!」
姉さんがキレていた。他の面子は昼食の為にそれぞれの自宅に帰ったという。またしても一番最後であった。
「あんたもう中学生なのよ?いい加減きちんと時間に気を遣いなさい。だいたいあんたは…」
と、いつも通り長ったらしい説教が始まるのかと思いきや
「ま、まあまあ落ち着きなさいって」
と横から姉さんをなだめる者がいた。彼女は三好 亜希。姉さんの親友で三好 健児の姉である。
「別にそこまで急いでるんじゃないんでしょ?そうカッカしないの。寿命縮むわよ」
「ぐっ…」
亜希姉になだめられ、姉さんは押し黙る。姉さんは何かと亜希姉には逆らえない節があるからなぁ。こうして見ると亜希姉が娘を叱る母親に見えてくる。
「…次から気をつけなさいよ」
姉さんは捨て台詞を吐いて、たったか歩いていってしまった。
「ありがとう亜希姉、助かったよ」
俺は、姉さんの折檻を未然に防いだ立役者に礼を言う。
「まあ、あの娘にやり過ぎな所があるのは否めないわね…。あと貸し一つね」
「えー、まあ仕方ないか」
「物分りがよろしいようで」
亜希姉に作った借りは、デニーズでパフェを奢るなり何なりして、亜希姉を満足させなければならない。まあ、姉さんに叱られるよりはマシだ。ちなみに、俺は今四つくらい借りを作っている。俺達は姉さんを追いかけ、駐輪場へ向かった。
○○
帰宅する方向が違う白松さんと三好姉弟とは駐輪場で別れ、俺達は各々の帰路についた。白松さんとは後で『学園前』電停で待ち合わせとなっている。
「「ただいま〜」」
『おかえりなさいませ!遅かったですね。何かありました?』
家に着き、出迎えてくれたのはハイラである。姿は見えないが、出迎えてくれる人が居ることはとても心地いい。
「あれ?そんなに掛かった?」
『いえ、予定からはそこまで遅れていませんが、美月様達が『昼はまだか、姉さんはまだか』と仰ってまして…』
「あら、それは悪い事したわね」
現在時刻は12:45(pm)。育ち盛りの子供には空腹状態がさぞ堪えただろう。姉さんは、これまたいそいそと家に上がりリビングへ駆けていく。もちろん、ちゃんと靴も揃えていく。姉さんはせっかちではあるが、ドジっ子ではない。
「ただいまー、今お昼作っちゃうからね」
「あ、お姉ちゃんおかえりー。早く作ってあげて、このままだと勇雄が餓死しちゃう」
「は、早く……早く飯を……」
開いた扉から勇雄のグロッキーな声と、美月のそこまで心配そうでない声が聞こえてくる。俺もリビングに入る。
「ただいま」
「おかえりーお兄ちゃん」
リビングでは、勇雄がソファーで仰向けに寝そべって「飯を……飯を……」と呻いていて、美月はポテトチップス片手に「ちゃお」を読んでいた。
「あれ、空は?」
「帰ってからずっと部屋に引きこもったままだよ。また勉強でもしてるんじゃない?春休みぐらい遊んだらいいのに」
「美月は逆に遊び過ぎだ。少しは空を見習ったらどうだ。あとついでに言うと、春休みはもう終わったぞ」
「あ〜、あ〜、聞こえない〜」
お約束の聞こえないフリをする美月に嘆息しつつ、俺は自室に戻った。
○○
着替えながらテレビでも見ようかと、俺はホログラフィをTVモードで起動する。ちょうどお昼のニュースの真っ最中である。
『…次のニュースです。
天皇陛下は本日、国立丸ノ内学園の入学式に名誉校長として参加なさり、お言葉を述べられました』
テレビの映像が切り替わる。
『新入生の諸君、入学おめでとう。
今日此処に諸君等が健康でいられるのは、諸君等の御両親のお陰である事を忘れてはいけません。また、諸君等が此処にいられるのは、諸君等の努力の結果であります。諸君等が此処にいる事は誇らしい事なのです。
諸君等は今日から数年間、この学園で学業に励み、この国の未来を担う人材に育つ事を期待しています』
『陛下はこのように述べられ、生徒に対するご期待の気持ちを顕にしました』
どうやら陛下はきちんと公務を全うしているようだ。俺達は一時期、皇居に数年間滞在したことがある。もちろん、陛下とも面識はある。今の生活があるのも陛下のお力添えによる部分が大きい。陛下は俺達の命の恩人である。
映像は再びキャスターを映し出す。
『…次です。
山形県新庄市で家族3人の遺体が発見されました。中継です。水戸さん』
映像が現場の記者を映し出す。
『…はい。私は今、現場の近くに来ております。あそこに見える白いテラスハウスの一室が、遺体が発見された現場です。
遺体となって発見されたのは、この部屋に住む唐松 半造さん三十歳、娘の早苗ちゃん七歳、そして、妻のみどりさんと思われる二十代の女性です。
警察によりますと、近隣住民から『テラスハウスから異臭がする』と通報があり、警官が調べたところ遺体が発見されたという事です。死因については、半造さんが溺死、早苗ちゃんが刺された事によるショック死、二十代女性が焼死ですが、現場に濡れた跡や焼けた跡などが無く、また、扉や窓の鍵は閉まっており完全な密室だったという事で、警察は事件と事故の両面で捜査を進めております』
「…畜生、またか」
俺は思わず声に出してしまった。最近はこの手の事件が急増している。そしてこの事件も、例に漏れず未解決事件としてお蔵入りとなるだろう。
「ハイラ」
『はいっ!お呼びですか?』
俺が呼びかけると、画面の端に幾何学模様表示される。
「この事件について情報を纏めておいてくれ。どんな些細な事でも構わない」
『了解しましたっ!』
ハイラは快諾して、画面の幾何学模様を消していった。普通の「H・M・A・I」ではここまでの仕事はできない。うちのハイラは特別製なのだ。
「大輝〜、空〜、ご飯出来たわよ〜」
家中にいい匂いが漂い始めた頃、姉さんは俺達をリビングから呼んだ。ちょうど腹の虫も鳴り、俺はリビングへ向かった。
前回説明フェイズに入ると言ったな。あれは嘘だ。
…はい、すみませんm(_ _)m
次こそはいけると思いますのでしばしお待ちを
いつも通り次回は未定ですのであしからず
(*´∇`)ノシ ではでは~