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第五話 強制指名の理由

「でも、その前に新入生の自己紹介をしてもらおうかしら。まだしてなかったわよね?」

皆ズッコケた。あそこまで言っといて焦らすのか。

 というわけで、姉さんの提案で自己紹介をする流れになった。

「まずは大輝、あんたから」

名指しされました。

「えー」

「文句言わない」

 俺は渋々といった体で立ち上がり、自己紹介を始めた。

「1年C組の唐松 大輝です。そこにいる副会長は俺の姉です。よろしくお願いします」

お辞儀をして席に座る。

「時計回りに行きましょ」

姉さんが言う。となると、次は俺の後ろの

「ぼ、僕ですかね?」

と、小柄な男子が立つ。

「ええっと、僕はE組の五葉松 省吾と言います。えっと、その…よ、よろしくお願いしますっ」

赤面しつつ席につく。確か五葉松は人前で話すのが苦手だったはずだ。今回は大分勇気を振り絞ったに違いない。

 今度は隣の白松さんが立つ。

「C組の白松 玲子です。趣味は読書と散歩です。よろしくお願いします」

と、難なく自己紹介を終えた。

 次は白松さんの前に座っていた女子が立つ。

「B組の赤松 翔子と申します。趣味は…音楽鑑賞かしら。これから一年間よろしくお願い致しますわ」

趣味や言葉遣いから育ちが良い事がうかがい知れる。お辞儀の仕方も丁寧だ。しかし、表情が変わらずずっと無表情なのである。これで愛想笑いでもできたら社交辞令として完璧だっただろう。

 最後に赤松さんの前に座っていた男子が立つ。

「俺はA組の黒松 大河だ。そこにいる書記は俺の姉貴だ。よろしく」

ヤンキーにも引けを取らない、とても強面な感じだ。こいつに睨まれたら女子は逃げ出すだろう。既に声変わりが終わっているようで、低い声がそれをさらに助長させる。

「よし全員終わったわね。では、これから仕事内容を説明します」

待ってました。

「生徒会の仕事は、生徒や先生方から依頼された仕事をこなす事で、それは強制指名組も変わりません。まあでも、暫く仕事は無いでしょう。雑用は全部教室選考組に回るんで。我々の主な仕事は、校内行事の際に他の委員会などの手伝いに回る事ですかね」

意外と負担は少なそうだ。生徒会自体かなりの人数いるらしいので、仕事の兼任も出来そうだ。

「後は、有事の際の避難誘導も強制指名組の仕事に含まれます」

「せ、生徒が避難誘導するんですか!?危ないですよ!怪我したらどうするんですか!?」

五葉松が怯えるように抗議する。

「もちろん教師も避難誘導しますが、この学校全体を教師だけでカバーするのは難しいんですよ。それに、あなた達、というか私達は、自分の身は自分で守れて当然なはずなんですよね。だから、普通の生徒には回せないある程度危険な仕事が回ってくるのです」

「「…えっ?」」

姉さんが言った言葉に、五葉松と白松さんが何か言いたげに反応した。

「副会長、質問いいですか?」

「どうぞ、赤松さん」

「先程副会長は『私達は自分の身は自分で守れて当然』と言いましたが、何を根拠にそうおっしゃるのですか?少なくとも、私とそこの二人はそのような技術を持っている、という自覚が無いのですが」

と赤松さんはまくし立てる。

「根拠か……うーん……これは口で言うより実際見た方が早いんだけどな。強いて言うなら『そうゆう血統だから』かな」

姉さんの答えに

「「「………ケットウ?」」」

と、三人は首を傾げた。

「ちょっと待て、もしかしてお前ら『血統』が分かんないの?死語なの?血統って死語なの?じゃあ犬の血統書ってなんて言うの?」

と、俺は思い切り突っ込んでしまった。

 すると三人は

「「「そっちか」」」

と納得したようだ。

「てっきり誰かと闘うのかと」

「僕、ルール知らないから『ルールを守って楽しくデュエル』なんて出来ないし」

「もっと他の言い方できましたよね?DNAとか、血の繋がりとか」

それに対し姉さんは

「……だって日本語に英語なんて混ぜたくないし、熟語使った方がカッコ良くない?」

なんともまあ自分勝手だった。

「では本題に戻しますが、副会長はその護身術のような物が一家相伝の形で受け継がれていると?」

「ええそうね。少なくとも彩花先輩の家系ではあったみたいよ。そうですよね?」

話しかけられた黒松先輩は「そうねぇ」と返す。

「でも、私が教わったのは護身術じゃなくて攻撃術だけどねぇ。……ちょっと見せてあげるわ。見せた方がわかりやすいでしょう。ウフフフ」

と不気味に笑う。が、

「…姉貴、それはやめておいた方がいいんじゃないか?」

と黒松君が止めに入る。

「大丈夫よぉ。確かにどこへ飛んでいくか分からない節があるけど」

「それ全然だいじょばないですよね!?しかも飛ぶんですか!?飛び道具なんですか!?」

 白松さんが壁まで後ずさる。

「そんな事しても無駄よぉ。射程距離2km位あるし。この位の厚さの壁や机なら木端微塵よぉ♪」

『ひぃぃ!?』

皆逃げ惑う。あんた、完全に楽しんでるだろ。

「それじゃあ行くわよぉ!『黒松流投擲術 壱ノ形』!」

 ヒュンッッ!!という風切り音と同時に俺は飛び出した。

 黒松先輩が放ったダーツの矢がうずくまっていた白松さんに向かって突き進む。

 飛んできたダーツを掴んだ俺は、そのまま体を捻って無理矢理遠心力を加えて、ダーツを投げ返す。

 パンッッッ!!という衝撃波を発し、今度は黒松先輩に向かって矢が突き進む。

 しかし、矢は文字通り黒松先輩の目の前で進行方向を真上に変えて、天井を突き刺さった。

 俺はそれと同時に天井へ降り立った。

「…………………」

部屋が沈黙で満たされる。

「という訳で、これが皆さんを指名した理由です」

「「「…………はぁ?」」」

皆どう反応したらいいか分からない様だ。

「…まずあんたが天井から降りなさい」

姉さんが呆れる様に言う。

「いやぁ、皆固まっちゃって降りるタイミング見失ってさあ。ちょっと皆危ないから退いてて」

俺は天井に突き刺さったままのダーツの矢を回収し、天井から床に飛び降りる。

「はい、落し物です」

そう言って俺は黒松先輩に矢を手渡す。

「あら、ありがとう。

 それにしてもすごいわねぇ。まさかあれを真正面から投げ返すとは思わなかったわぁ。あなたが初めてよぉ、この技を真正面から攻略したのは」

と、黒松先輩は心底驚いた様子だった。

「白松さんもごめんなさいね。大丈夫?怪我ない?」

黒松先輩は白松さん駆け寄って手を差し出す。

「…え、えぇ。大丈夫です…」

手を取って白松さんが立ち上がる。どうやら怪我は無さそうだ。

「…あの、今何が起こったんですか?何も見えなかったんですけど」

やっと頭が追いついてきたのか、五葉松が質問した。

「うーん、どうしようかしらね」と姉さんは悩む。

「とりあえず、今起きた客観的な事実を話ましょう。

 まず、彩花先輩がダーツを投げます。ここまではいいわね?」

皆頷く。

「それと同時に、大輝がダーツの軌道上に飛び出します」

?と、五葉松が首を傾げる。

「そのまま大輝が体を捻りながらダーツを掴んで捻りを利用して遠心力を付け足してダーツを彩花先輩に投げ返します」

??と、赤松さんと白松さんが首を傾げた。

「その後遠心力に吹き飛ばされた大輝が天井に着地します」

?????と、全員が首を傾げた。

「最後に私がダーツを上にそらします」

皆考える事を放棄して放心してしまった。てゆーか、姉さんわからせる気無いな。

「光与さん、ちょっといいかしら?」

いち早く再起動を果たした黒松先輩が手をあげる。

「はい、何でしょう?」

「貴女、そこから一歩も動いてないわよね」

「はい、そうですね」

「…じゃあどうやってダーツの軌道を逸らしたの?」

「ああ、それはですね…」と、姉さんは説明しようとして口を噤んだ。

「どうしたの?」

黒松先輩は姉さんの反応を訝しむ。

「…いや、ここじゃあ誰に聞かれるか分からないから場所を移しましょう。皆さん、このあと時間ありますか?」

姉さんに問いかけられ、皆やっと目を覚ましたようだ。

「あ、えっと、私は大丈夫です」

「私も」

「ぼ、僕も」

白松さん、赤松さん、五葉松が返事をする。

「俺は姉貴が良けりゃあ大丈夫だ」

黒松君も肯定の意を示す。

「それじゃあ行きましょう。光与さん、どこへ行くの?」

黒松先輩が尋ねる。

「私の家です」

俺は驚いた。何故なら家には一度も他人を上げたことがないからだ。

「姉さん、大丈夫なの?」

俺は言葉足らずに尋ねた。傍から見れば、家の事を心配する優しい少年に見えたのかもしれない。しかし、これは色々な意味での『大丈夫』だ。

 軽々しく他人を、しかも大勢家に上げてもいいのか。

 こいつらは信用してもいいのか。

 姉さんは『大丈夫』に込めた言外の意味を全て読み取ったのであろう、俺の頭を撫でながら

「大丈夫よ。家はちゃんと綺麗にしてるから」

と安心させる様に笑いかけた。

『裏は取れてる。ここに居るのは少なくとも百年以上前に分家した一族だから問題は無い。証拠なら後で見せるわ』

と、頭の中に直接語りかけながら。

 そんな訳で第零回生徒会はお開きとなった。

どうもdragonknightです。

今回はちょっと長めですかね。

次回以降は物語の説明フェイズになるかと思います。

首を長くしてお待ちください。

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