第二話 これも日常
ホームルーム10分前、なんとか校門に滑り込んだ。駐輪場に自転車を置き、まだ小5である勇雄、美月、空達とは別れ、中3である姉さんと一緒に中学校舎の玄関をくぐる。
今日から俺はこの「市立第七中学校」に通うこととなった。この学校は、最近では珍しくも無くなった小中高一貫校である。しかし、その魅力は絶大で、受験倍率は今でも3倍は下らない。ただし、これは小学受験の時の値なので中学・高校受験の際には、募集人数が減るのでより倍率は高くだろう。
さて、下駄箱で上履きに履き替えた俺は、ここで姉さんと別れ貼り紙によって指定されたクラスへ移動する。中学ではクラスがFクラスまであり、俺はCクラスに指定されたようだ。今年はどんな奴とクラスメイトになるのか楽しみだ。
○ ○
「おーい、唐松!」
Cクラスの教室に入るなり声をかけられた。声の主は小3・小4・小6の時同じクラスだった三好 健児である。
「久しぶりだな。唐松」
「て言っても、二週間ぶりくらいだろ」
「そうか?春休みはずっと帰省してたから、すっかり曜日感覚が鈍っちまった」
「おいおい、もう春休み終わったぞ」
「分かってるって。そんな事より…」
三好は、俺の背後にまわると
「お前、また髪伸びたな」
「ええ?髪って二週間でそんなに伸びるもんか?」
「さあ?お前の新陳代謝が良いんじゃないのか?ただでさえ長かったお前の髪の毛が、また長くなった印象を覚えるんだが」
三好にも言われた通り、俺は男子にしては髪が異常に長い。元々はある事情により、右目を隠すために前髪を伸ばしたのがきっかけだが、今では髪を切るのが面倒になったので、とりあえず前髪が左目に掛からないようその部分だけ髪を切っている。普段は髪をうなじのあたりで軽くまとめた、ポニーテール擬きな髪型で過ごしている。
「気のせいじゃね?」
「かもな。まあ今年も同じクラスなんで、よろしくな。神童さんよ♪」
「おいおいやめてくれよ、いつのあだ名だよ。」
「そんな昔のこと忘れたわ。そんじゃまた」
と、三好は、他の奴らの談笑の輪に混ざっていった。
「…あ〜あ、また先を越されちゃったな」
ふと、そんな独り言が聞こえ振り返ると、そこに彼女は立っていた。
「おはよう、白松さん」
「うん、おはよー唐松くん」
彼女の名は白松 玲子。小3・小5・小6の時に同じクラスだった。
「さっき何か言ってた?先を越されたとか言ってたけど」
俺が問いただすと、白松さんは照れくさそうに頬を染めた。
「き、聞こえてたの?」
「うん」
「ううぅ、恥ずかしい…」
白松さんは、さらに顔を赤くした。
「で、何だったの?」
「…人が恥ずかしいって言ってるのに、よくもまあそこまで問い詰められるね」
「気になることは徹底的に調べる質なんで。で?」
ここまで来たら徹底抗戦である。
「…唐松くん、気付いてない?」
「何が?」
「三好くんが同じクラスになった時、いつも最初に挨拶するの三好くんだよね」
「…確かに。でもなんで?」
「正確な事は分からないけど、多分三好くんは三好くんなりにあの時の事を気にしてるんだと思うよ」
「あの時の事って…」
「転校初日の事でしょうね」
「…ああ、やっぱり」
俺はその時の事が、あまり記憶に無い。
「だってあの時唐松くん、いきなり泡吹いて倒れたからね」
「いやぁ、面目ない」
「本当大変だったんだから。あの時渡辺さんが『唐松くんが死んじゃった〜!』って藤原先生に泣きついて大騒ぎしちゃって」
「あはは…」
流石に『死んじゃった〜!』は大袈裟だが、小3にはそれ程ショックな出来事だったのだろう。俺は苦笑しかできなかった。
談笑に一区切りついて、座席表で指定された席で荷物を整理していると、ドアが開いて女教師が入ってきた。男子が色めき立つ。中1とはいえ思春期の男子である。大人の女性はさぞ魅力的に見えるのだろう。しかも胸が少し大きい。
「はーい、皆さん席に着いてください。ホームルーム始めますよー」
教壇に立った女教師が着席を促すと、皆はゾロゾロと席についた。全員が着席したことを確認すると、女教師は自己紹介を始めた。
「はじめましての子ははじめまして。それ以外の子は久しぶり。今年度ここのCクラスの担任をすることになりました、社会科教員の藤原 麗子です。皆、一年間よろしくね!」
実を言うと、俺は小3の頃からずっと藤原先生が担任の先生である。五年連続と言うのは、さすがに誰かの意図を感じざるを得ない。やはり転校初日の事件が関係しているのだろう。
ちなみに、ここの学校の教師は全員小学校から高校までの教員免許を持っている。なので、小1で担任を持った先生の大半は、そのまま高3まで持ち上がる。故に生徒と教師の信頼関係は盤石である。
ある程度自己紹介を終えた藤原先生は「入学式が始まる時に放送でクラス順に呼び出されますから、それまで教室で待機するように。」と言って教室を出ていった。どうやらいろいろと準備があるらしい。
○ ○
入学式。それは新入生にとって節目の時であり、小学生だった自分にケジメをつける時である。
ただ……………ものすごく退屈だ。
校長の長ったらしい話を聞き、顔も知らない来賓の話を聞き、生徒会長の話を聞き、気づいたら船を漕いでいた。隣のヤツは失笑していたが仕方ない。だって、退屈なんだもん。
どうもdragonknightです。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
日常パートばかりで申し訳ありませんが
もう少しお付き合いください。
例によって次回は未定ですのでよろしくおねがいします。