第十六話 潜む影
「大分待たせちまったな、ジョン。ほれ、お望みの物だ」
「今更かよ……」
俺は机に5×5のルービックキューブを置く。
「うげぇ、これかなり難しいやつじゃねーか!」
「暇つぶしにはなるだろう?」
「終わらねぇよ!!」
「それじゃ、始めるぞ」
「話を聞け!?」
ここは自宅地下の取調室。俺は、この間秋田に現れたジョン達の取調べをしていた。
「まず、フルネームと生年月日、年齢を言ってくれ」
「ジョン・ベーカー。2067年5月9日生まれ。今年で34だ」
「国籍は?」
「イタリアだ」
「ほう? で、遠路はるばる日本になんの用で?」
「仕事だ」
「どんな仕事?」
「黙秘する」
「黙秘? そうか……」
ジョンの意外な解答に、俺は少し考え込む。しばらく沈黙が続いた。
「なぁジョン」
「なんだよ」
「今回の件で、俺は別にお前らを裁判にかけるつもりは無い」
「じゃあ、どうするつもりだよ」
「情報が欲しい。お前らの雇い主が、お前らに何を依頼したのか」
「ハッ! 俺が話すと思うか?」
「だろうな。だから、取引をしよう」
「取引だぁ?」
「そう。しかも、ただの口約束じゃない。れっきとした司法取引だ」
「で?」
「仕事内容を話してくれれば、故郷へ帰るまでの間丁重にもてなそう。勿論、飛行機もとってやる」
「喋らなかったら?」
「起訴するだけだ。悪くは無いだろう?」
「ふーん……」
今度はジョンが腕を組んで考え込む。さて、どうする?
「すまねぇが、その取引は乗らねぇ」
「……は? なんで?」
「ホイホイ話すと信用に関わるからな。起訴してくれ」
「そうか……」
どうやら、簡単にはいかないらしい。
「……わかったわかった。それなら、迎えが来るまで大人しくしてろ?」
「言われなくても分かってるよ」
溜め息と共に、呆れながらジョンは言う。
「そうだ、一ついいか?」
「なんだよ、まだ何かあんのか?」
俺はジョンを呼び止めた。
「……お前ら、山形には行ってないよな?」
「ヤマガタ? 何でそんなことを聞く?」
「余罪があるかもしれないからな」
「余罪!? そんなもの、あってたまるか!」
余罪という言葉に、ジョンは過剰に反応した。
「一応念の為だ。で? ある? 無い?」
俺はジョンに詰め寄る。
「無い。断じて無い」
「本当に?」
「神に誓う」
ジョンに嘘をついている様子は無い。
「……そうか。わかった、もういいぞ。手間かけさせたな。あとはゆっくり休んでくれ」
ジョンを開放して、取調べは終わった。
〇〇
「アテが外れたか……」
ジョンの取調べが終わって、俺は自分の部屋で報告書をまとめていた。
(でも、今回の件と山形の件は、本当に関係ないのか?)
考え事をしながら、ホログラムキーボードを叩く。
(目的が全く聞き出せなかったのは痛いな)
己の不甲斐なさに、思わず溜め息が出てしまう。
何故ジョン達は日本に来たのか。
……いや、何故羽後白松氏の頭領は、外国人であるジョン達を呼んだのか。
そして、何故羽前唐松氏の抜け人は殺されたのか。
分からない事が山積みである。
(……東北で何が起こっているんだ?)
〇〇
部屋の引き戸が開いて、彼が入ってくる。
「具合はどうだ? イワン」
「ええ、大分良くなりました。ありがとうございます。何から何まで」
「えってごどよ。怪我人どご見なげる程、おいがだも鬼じゃねぇ」
自宅にいることで気が抜けているのか、彼は私に方言で話しかけてきた。
彼の名は白松 権造。この村の頭領だ。傷だらけで辺りをさまよっていた私を、彼が保護し治療までしてくれたのだ。しかし、私は気になる事があった。
「ここまでしてもらってから言うのもなんですが、……良いんですか? 私、あなた達のお仲間を殺したのですよ?」
「あぁ、羽後の事が? 別さ気にしてしまいねぇよ」
彼は、本当に気にしていない様子で話す。
「そもそも、羽後はおいがだの管轄外んだんてな。おめがだが羽後で何するべど、おいがだには関係ねぁ」
「……冷めているんですね。同族がやられたのですよ? 義憤とか、抱かないのですか?」
「殺したのは抜げふとだべ? なら、なおさら関係ねぁな。抜げふとは、自ら望んで里どご出だ奴らだ。どうなろうが知ったこっちゃねぁ」
彼にとって、この話題はあまり心地いいものではないらしい。もう話したくないと言わんばかりの気配を漂わせる。
「……そいだば、まだ晩飯になったら来るがらな。ゆっくり休んどげ」
そう言って、彼は部屋を後にした。
すると、それと入れ替わるように「失礼します」と、権蔵の娘である善子が部屋に入ってきた。彼女が私を訪ねてくるのは珍しい。
「どうかなさいましたか? 善子さん」
「イワン様にお伝えしたいことが」
彼女は抑揚なく言葉を発した。
「おや、何事です?」
私が要件を尋ねると、彼女は突然「申し訳ございません」と『土下座』の体勢をとった。が、相変わらず言葉には感情がこもっていない。
「突然どうしたのです? 頭を上げてください」
私が顔を上げるように促すと、彼女は素直に従い顔を上げる。そして、淡々と話し出した。
「実は、我々が用意したイワン様の迎えの者が東京の奴らに見つかり、そのまま連行されてしまいました」
「なんと! 私の為にそんなことまでしていただくとは! 申し訳ありません。私はあなた方に迷惑しかかけていないようです……!」
日本人の温かい親切心に触れ、私は思わず感情が昂ってしまった。しかし、私の様子を見ても彼女は眉一つ動かさない。
「イワン様が謝罪する必要はありません。全てはこちらの不手際です」
彼女は淡々と続ける。
「なので、イワン様のご帰国が大幅に遅れることになりますが、帰国の目処が立つまでここにいてもらいます」
「……えぇ、なるほど。承知しました。では、またしばらくお世話になりますね」
私の言葉に「はい、では」と淡白な返事をして、彼女は部屋を後にした。
「…………もう少し愛想良くてもいいとは思いますけどねぇ」
彼女の態度に対して、私は思わずぼやいてしまった。
「美人なのに、もったいないですねぇ。……殺すのが惜しいくらいです」
どうもdragonknightです。
お待たせしました( ̄▽ ̄;)
かなり空いてしまいましたけど
ちゃんと終わらせるつもりですので
気長にお待ちください。
(*´∇`)ノシ ではでは~




