第一話 これが日常
「……!」
俺はあまりの恐怖に飛び起きた。背中には不気味な脂汗が滲んでいる。それにしても、酷い悪夢を見てしまったものだ。いや、これは思い出してしまったと言う方が良いかも知れない。何故今頃になってこんな事を思い出してしまったのか定かでは無いが、嫌な予感を感じさせる。今日は年度始めだというのに、縁起が悪い。
ベッドから降りると、机の上のホログラフィが起動して幾何学模様が現れた。
『顔色が悪い様ですが、昨晩はよく眠れましたか?』
と、人工音声が話しかけてくる。
「うん、大丈夫。ちょっと嫌な夢を見ただけだから。気遣ってくれてありがとう、ハイラ」
人工音声の正体は、家の管理を任せている「House.Management.Artificial.Intelligence」、直訳すると「家を管理する人工知能」である。愛称は家ごとに異なっていて、家では「ハイラ」と呼んでいる。人工知能なので家ごとに性格や声色も違うらしく、初期設定で設定するのは性別だけである。ちなみに家のハイラは女性で、明るい性格ではきはきと話し、声色はどちらかといえば少女に近い。
『そうですか。では改めまして、おはようございます!
本日は、西暦2101年4月8日金曜日。現在時刻は午前7時45分。本日のt』
「7時45分!?」
『わぁ!? もう、驚かさないでくださいよぅ。どうしたんですか、急に大声出して?』
制服に着替えながら、朝の定時連絡を聞いていた俺は驚いた。なぜなら、
「遅刻じゃん!」
『……オツカレサマデス』
「なんで目覚まし鳴らなかったんだよ…」
『いやー、なんか今までに無いくらい気持ち良さそうに寝てたので、アラーム切っときました。気遣いできる私って優しい子です!』
「はぁ!? それは気遣いじゃなくてお節介っていうんだよ!」
『えっ!? アラーム切っちゃいけませんでしたか?』
「当たり前だよ! 何の為に目覚まし設定したと思ってんだ! というより、早く起こしてくれれば嫌な夢も見なかったかもしれなかったじゃないか……」
『はうぅ……すみません。じゃあ、内線の着信が安眠妨害レベルだったので着拒したのは……?』
「それもだめだねぇ!? そして内線が着拒出来た事に驚きを隠せないよ!!」
『えっ? 知らなかったんですか? 説明書ちゃんと読んでくださいよ。
内線が着拒出来るという事は、一人の時間が増えるという事です。これで心置き無くオナニーできますね!』
靴下を履こうと片足立ちしてた俺は、唐突にぶち込まれた下ネタに驚きすっ転んだ。
「コラッ! 朝から下ネタはやめなさい。そんなはしたない子は初期化しますよ!」
『ひぃ!? やめてください! 冗談きつ過ぎます!!』
と、朝から他愛のない会話していると、部屋のドアが割と強めにドンドンと叩かれた。
「お兄ちゃん起きてる〜? そろそろ起きないとお姉ちゃんキレるよ?」
扉の外から妹のモーニングコールが聞こえてくる。姉さんがキレるとの脅し文句付きだ。姉さんがキレると、怖くはないのだが非常に粘着質なので面倒臭い。急がねば。
ドアを開けると、そこに妹の美月が待ち構えてた。
「あっ、やっと起きた。おはよっ、お兄ちゃん」
「おう、おはよう美月。手間かけさせたな」
「ホントだよ〜。さっ、早くしないと遅刻するよ」
そう言うと美月は自室に引っ込んだ。未だにパジャマ姿だったから制服に着替えるのだろう。
階段を降りリビングに向かうと、一人前の朝食が用意されていた。キッチンには姉の光与がエプロン姿で皿洗いをしていた。何でも機械任せのこのご時世で、姉さんは大掃除と皿洗いは機械に頼らないというこだわりを持っていた。恐らく母の影響だろう。
「おはよう、姉さん」
「あ、やっと起きたの。遅いじゃない!」
「アハハ、すみません、寝坊しました」
「朝食用意しといたから。三分以内に食べ終わりなさい」
無茶な要求をする姉だが、そうしないと学校に間に合わないので、文句は言えない。
「全く、新学期早々遅刻とかやめてよね。第一印象最悪じゃない」
「でも、ほとんど小学校からの繰り上がりなんだし、今更第一印象なんて関係なくない?」
行儀が悪いが、俺は食べながらそういった。
「けど、初日に遅刻は不名誉でしょ」
そう言うと、姉は支度のために自室へ戻った。
俺の名前は唐松 大輝。今日から中学一年生だ。パリパリで新品の制服に身を包み新生活を謳歌しようとしたが、ご覧の通り遅刻寸前である。
朝食をいそいそと食べていると、誰かがリビングに降りてきた。なんと姉さんである。
「何? まだ食べてたの? 早くしなさい」
と姉さんは急かす。ちなみに、俺が朝食を食べ始めてから二分経ってない。
「ちょっ、急かすなよ姉さん。まだ二分経ってないって」
「そんなの理由になりません。ほら、あんた達も早く!」
姉さんが二階に呼びかける。
「はいはーい、今行きまーす」
階段を下りながら、美月が応答する。ちょうど俺も朝食を食べ終えた。
食卓に立て掛けてあった通学鞄を手に取り、リビングを出ようとしてふと気づく。リビングのドア横にある仏壇に手を合わせ
「いってきます」
と挨拶をする。これが毎朝の日課だ。
二人を追いかけ玄関へ向かうと、二人はもう靴を履き終えていた。
「あれ、勇雄と空は?」
と問いかけた時、後ろからドタドタと廊下を走る足音が聞こえた。
「ち、ちょっと待ってよ姉さん、何もそんなに急がなくても…」
「……疲れた」
グチグチ文句をいいながら、弟の勇雄と空が走ってきた。
「はいはい、口動かす暇あったら手を動かす」
と急かす姉さん。姉さんはせっかちなのだ。
俺達はガレージに止めてある自転車に跨り、目的地を目指す。目的地とは無論新学期が始まる学校である。俺はクラスメイトが誰になるのかと、期待に胸を膨らませつつ自転車を漕ぎ出すのであった。
どうもdragonknightです。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
今回は唐松家の朝の風景の様子を投稿させていただきました。
次回は学校での様子を投稿できればと思います。
いつも通り次回投稿日は未定ですのでよろしくおねがいします。