第十一話 戻ってきた日常
「…おはよう、白松さん」
「おはよー唐松くん。…なんか、すんごい眠そうだね」
「そうなんだよ。昨日なんでか知らないけど、なかなか寝付けなくてさ…」
俺はいつものように、白松さんと朝の挨拶を交わす。4月9日木曜日、天気は晴れ。今日も何気ない日常が始まっていた。昨晩──正確に言うと今日の早朝だが──あんな事があったせいで、案の定今朝も寝坊し、またもやホームルーム10分前に校門に滑り込む羽目になった。
「…でさ、昨日の事なんだけど」
白松さんが、声を潜める。
「あぁ、どうかした?」
俺も自然と、声が小さくなった。
「全部、パパとママに話したの」
白松さんの突然の暴露に対し、俺は思考が固まってしまい「はぁ」と頷くので精一杯だった。しかし、何とか再起動を果たす。
「…それで、親御さんは何と?」
「話を聞きたいって。今日も集まるんだよね?その時に多分一緒にパパとママも来ると思う」
「そうかぁ…」
親に相談までは予測していたが、親が直に来るのは正直想定外だ。
「ごめんね。迷惑…だよね?」
「いやまぁ、どのみち親御さんは呼ぼうと思ってたし。大丈夫だよ」
「うぅ…ごめんね、気ぃ遣わせちゃって。
でも、大丈夫かなぁ…」
「何が?」
「私のパパ、私の事になると周りが見えなくなっちゃうんだよねぇ…。昨日も『とりあえず一回焼いとく?焼き討ち?』って言ってたし…」
「えなにちょっと待って俺焼かれるの?」
「そんなに怖がんなくても大丈夫だよ。冗談だから…多分」
全く冗談に聞こえない。てゆーか焼死だけは本当に勘弁して欲しい。全く笑えない冗談だ。
と、ここで
「はーい、ホームルーム始めるわよー。須藤さん、号令お願ーい」
藤原先生が気だるそうに教室に入って来た。
「きりーつ、きをつけー、れー」
『おはようございます!』
「はいおはよー」
「ちゃくせーき」
須藤さんの眠たそうな挨拶で、朝のホームルームが始まった。
「それじゃー連絡しまーす。
今日は、第二体育館でクラブ紹介があるんでー、9時までに、第二体育館に集合してくださーい。時間厳守ねー。1秒でも遅れたら締め出すから。
座席表を須藤さんに渡すんで、ちゃんと座席表通りに座って待っててねー」
先生は須藤さんに、座席表の紙を手渡した。
「それじゃー解散。皆遅れないようにねー」
先生の号令と共に、皆は体育館に向かった。
〇〇
「ねぇねぇ、部活どうする?」
「テニス部のユニフォーム、めっちゃかわいくなかった!?」
「武志はやっぱサッカー部?」
「少林寺拳法部、凄かったなぁ」
クラブ紹介が終わり、教室は部活の事で話題が持ち切りだった。
「唐松くん、部活どうすんの?」
白松さんも話題を振ってくる。
「俺は…部活に参加してる暇なんて無いだろうなぁ」
「あー………あれ?もしかして私も?」
「あー…可能性はあるね」
「うっそーん!吹奏楽部入りたかったのになぁ…」
白松さんのささやかな願いは、儚くも散っていった。
「はーい、席ついてー」
クラブ紹介後の先生の集まりから、藤原先生が戻ってきた。
「これから入部届を配りまーす」
先生が紙を配りながら続ける。
「さっきも言われたように、入部届の提出期限は、GW明けの9日月曜日でーす。忘れないよーに。それまでは仮入部期間です。この機会に、いろんな部活を見学してみてくださーい。あ、入部届を出す時は必ず私を通して出してねー」
俺は先生から紙を受け取り、一枚取って後ろに回した。でもどうしよう、これ。俺いらないんだけど。
「せんせー、二枚足りませーん」
「ありゃま、私人数分しか貰ってないんだけど?どこかで余ってない?」
先生が呼びかけるも、どうやら余りは無いようだ。先生は「おっかしいなぁ〜」と言いながら、教卓の引き出しをガサゴソ漁る。だがそれでも見当たらない様だ。仕方ない、俺のをくれてやろう。俺が先生を呼ぼうとしたその時
「あぁ!そうだ!」
「うわぁ!?びっくりした~…」
「センセ、脅かすなヨ!」
突然先生が大声をあげた。周りの生徒も驚いている。
「思い出した思い出した。生徒会委員は部活に参加出来ないんだった。
という訳で、回収するわね〜」
「あっ…」
先生が俺と白松さんの入部届を回収していった。白松さんが名残惜しそうな声をあげていた。
「それじゃー連絡しまーす。
委員会に入っている生徒は、それぞれの委員会で全体会があるので、各自指定の場所へ集合して下さい。とのことです。みんな〜、忘れないでね~。
それじゃー、今日はこれで終わり!須藤さん、挨拶お願い」
「きりーつ、きをつけー、れー」
『ありがとうございましたー!』
須藤さんの気の抜けた挨拶で、ホームルームはお開きとなった。
〇〇
先程貼り出された紙によると、生徒会委員は会議室に集合するらしい。会議室は生徒会室の並びなので、迷う心配は無い。ただ、会議室は第一から第四まであったはずだ。ただ単に会議室と記されているだけじゃ、どの会議室なのか分からないのだが…まぁ、行けばわかるだろう。
白松さんと一緒に会議室に向かっていると
「あ、あれ…」
白松さんが指を指した先には、『生徒会委員はコチラ!』の看板………の着ぐるみを着た庶務の先輩が立っていた。
「あ、二人とも!こっちこっちいいぃ!?」
「「あ」」
俺達に気付いた先輩が、俺達を呼び止めようと着ぐるみを着たまま跳び跳ね、つんのめり、顔から転んだ。先輩の着てた着ぐるみは、顔面が露出していて、手にあたる部分が無い物だったので、フローリング(板)張りの床に顔を真っ先にぶつけてしまった。
「だ、大丈夫ですか!?」
4白松さんが慌てて駆け寄る。俺もそれに続いた。二人で協力して先輩を起こす。
「いたたたぁ、ありがとう二人とも」
「大丈夫ですか…って、鼻血出てるじゃないですか!」
「はぇ?…あ、ホントだ」
先輩の両方の鼻の穴から、血が流れ出ていた。
「とりあえず、下向いててください。えーっと、ティッシュティッシュ…」
白松さんが制服のポケットをまさぐっていると、会議室の扉が開き生徒会長が出てきた。
「何やってんだ、この馬鹿」
「あはははは、転んじった」
会長の呆れたような物言いに、庶務の先輩がはにかんだ。
「はあぁ、まったく。ちょっとみせてみろ」
会長は先輩の顔を覗き込む。
「うーん………ちょっと触るぞ」
「いった!?何すんだバカヤロー!」
「うーん、折れてるな。白松、ティッシュ寄越せ」
「え?あ、はい」
白松さんがティッシュを手渡すと、会長はそれを丸め先輩の鼻に無造作に詰めた。
「松本!」
「お呼びでしょうか、会長」
会議室から男子生徒が出てくる。
「二人ほど使ってこいつを保健室に運べ。鼻を折ってるから、焦らず急いで慎重に、だ」
「了解しました。佐藤、吉田、手伝ってくれ」
松本と呼ばれた男子生徒は、他二人の生徒を伴って、先輩を着ぐるみのまま神輿の様に担ぎ
「えちょま担ぐな!高い高い!降ろせ!降ーろーしーてー!」
先輩の悲鳴と共に保健室へと向かっていった。
「すまんな二人とも、大事無いか?」
会長がこっちの安否を確認する。
「いえ、私達は大丈夫です。それより先輩の方が…」
「あぁ、あいつなら大丈夫だ。昔から怪我の治りは早いからな。明日には治ってんじゃねーか?」
「「えー…」」
会長のトンデモ発言に、俺達はは呆れを隠せない。
「さぁ、そろそろ時間だ。中入るぞ」
会長に促され俺達は会議室に入った。
そう言えば、なんで庶務の先輩は着ぐるみなんて着ていたんだろう。
〇〇
生徒会委員全体会の会場は可動式仕切り壁を収納し、二つの部屋が一つとなった第一・第二会議室だ。中にはクラス選出、有志、執行部を含めた総勢100人近い生徒が集まっていた。皆思い思いに集団を作り、談笑に夢中になっていた。
「静粛に!静粛に!」
齋藤副会長の声がスピーカーから聞こえると、皆静かになる。
「まず、席順を決めたいと思います。
最前列から執行部委員、有志委員、クラス委員となる様に、学年毎に座って下さい」
副会長の声に従い、皆ぞろぞろ動き出し席に座る。俺達はクラス委員扱いなので、最後列に座る事となった。
「それでは、第一回生徒会委員会全体会を始めます。司会は第二副会長齋藤 圭一が務めさせていただきます。
まず、生徒会長より本日の全体会の概要説明をお願いします」
すると、最前列に座っていた会長が壇上にあがった。
「生徒会長の杉崎 健だ。堅苦しい挨拶は無しで行くぞ。
今日は、生徒会の役割と今年度の予定を説明するつもりだ。じゃあ、このまま説明に移りたいんだが…」
「分かりました。では、引き続きお願いします」
「よし、じゃあまず、生徒会の役割について説明する。
主な役割は、年間行事の企画・主催と校内風紀の監視・維持だ。なので、大きな行事の前には必ずこのような全体会が開催されるから、覚えておいてくれ。その時に細々とした事は説明する。
次に年間予定について説明する。
直近の行事は…中間明けの学園祭だな。よって、中間テスト終了後に、次の全体会を開催しようと思う。後は…『九月祭』だな。『九月祭』の全体会は、二学期の始業式に開催しようと思う。
恐らく、全体会を開催するのはこの二回だけだろう。ただ、これはあくまで予定だ。前倒しや追加開催の可能性がある事を留意しておくように。
何か質問や意見はあるか?」
会長のお話が終わり、質問タイムに移る。すると、三列程前で手が挙がった。
「ん?なんだ、そこの男子?」
指された生徒が起立する。
「他にも林間学校などの生徒会主導のイベントがあったはずですが、その場合は集まらないのですか?」
「…確かに他にも生徒会主導の行事はあるが、それは学年行事だ。このような全体会はやらないが、学年で集まってもらうことにはなるな。その時に話し合い、行事内容を決めてくれ。…これでいいか?」
「はい、ありがとうございます」
生徒はそのまま着席した。
「他にあるか?…無いな、よし終わろう」
「はい、それでは本日の全体会はここまでとなります。忘れ物が無いように気をつけて、お帰りください」
こうして、全体会はあっさりと終わった。
〇〇
「じゃあね唐松君。後でね~」
「うん、また後で」
白松さんと駐輪場で別れ、一人で帰宅する。姉さんは生徒会の仕事で忙しい様で、先に帰り昼食を作るよう頼まれた。俺は姉さん程料理には慣れていないが、作れなくはない。腕時計型携帯端末で冷蔵庫の様子を見ると、中身が心許ないようである。一度スーパーに寄らねば。さて、今日は何を作ろうか…。
〇〇
今日のお昼は
───回鍋肉にしました。ウ〜ンdelicious!
中華料理は良い。比較的簡単だし、量がたくさん作れるから育ち盛りの時期にぴったりだ。
〇〇
昼飯を食べていた時に、姉さんも帰ってきた。俺は姉さんに皿洗いを任せ、一人で地下の独房に向かっていた。
「やぁジョン、具合はどうだい?」
『翻訳魔術』を事前にかけて、今朝方捕らえたジョンに話しかける。
「悪くは無いな。独房にしちゃ綺麗だし、メシも不味くない。ただ、なんでベッドじゃなくて布団なんだ?」
「なんでも何も、ここが日本だからだ。あと、ベッドから転げ落ちて怪我されても困るからな」
「お気遣いどーも」
話した感じだと大事無いようだ。
「後で事情聴取するから、それまで暇しててくれ」
「ならルービックキューブくれ」
「なんでだよ。筋トレでもしてろ」
他の捕虜達も変わりない様子なのを確認して、俺は客人のいる医務室に向かった。
〇〇
医務室はトレーニングルームの隣にある物の他に、一人用の部屋がいくつかある。とは言っても、俺達は上質な独房のような扱いもしている。捕らえた者の中に丁重に扱うべき人物がいた時に、この部屋に通しもてなすのである。
「おーい、ベロニカ、調子はどうだ?」
呼び鈴を押して、中にお伺いを立てる。すると、ホログラフィが起動し『SOUND ONLY』と表示された。
『…相変わらず馴れ馴れしい奴だな。健康面はそっちでモニターしてんだろ』
イライラした様子でベロニカは返事を寄越した。
「健康面は機械でカバー出来ても、精神面は直接話してみないと分からないからな。それじゃあ、診察を始めるぞ」
『ハッ、医者でもねーガキが。随分と偉そうじゃねーか』
「…あのなぁ。うちにも顧問医くらい居るぞ?問診票はちゃんとその人に作ってもらってるんだから、しっかり答えてくれ」
『…はいはいわかったわかった』
俺はスマホで問診票を呼び出し、部屋の中に送った。
「その問診票に記入して送信したら、顧問医から診察結果が返ってくると思う。
何かあったらナースコールしてくれ」
『…お気遣いどーも』
俺はベロニカとの会話を切り上げ、とりあえず居間に戻ろうと思い、階段へ向かって歩く。すると
『マスター、少しよろしいでしょうか?』
腕時計型携帯端末に幾何学模様が表示され、ハイラが話し掛けてきた。
「どうしたハイラ?」
『昨日の件、纏め終わりました』
「…わかった。俺の個人フォルダに入れといてくれ」
『了解しました!』
表示が消え、ハイラがいなくなる。
「………はぁ、これから忙しくなりそうだ」
俺は階段で地上へと戻った。
どーもdragonknightです。
今回は√aを更新しました。
いつもどおり次回は未定です(^_^;)
ではでは(^_^)/~




