ジ・エンド
ーーー世界が今日で終わるとしたらあなたはどうしますか?
最初はただの噂程度で誰も信じてなかった。学者が何か言ってる、ってそれだけ。
一年経ち、学者の声も聞こえなくなったころ、空から何かが落ちてきた。それが続くようになるとニュースに流れ、何かが何か、発表された。
日本に隕石が落ちてくるって。
「せんせー、問題全部が分かりませーん」
高校の教師が教室で堂々と煙草を吸っている。誰も咎める人がいないのは学校は無期限の休校で生徒も教師もほとんどが残っていないからだ。
だいたいが逃げ出して空港で足止めかもう世界の裏側に逃げたか、未だにニュースに出てる人達が状況を教えてくれる。
今もここに残ってるのは少数だ。
「おまえ、出した問題見てもないだろ。だから分かんないんだよ」
煙を吐き出す姿が妙に絵になっている。
今は世にいう夏休み。本当だったら補習や部活で盛り上がってるはずだった。
一応ここに残ると決めた校長や少数の先生が授業を受けたいと言った生徒のために学校は開いたままにしていた。
それも今日で終わる。
今学校にはわたしと先生、窓から花に水をあげてる校長しか残っていない。
家に帰っても親も逃げ出したから誰もいない。今頃何人か残った生徒は家族と最期を過ごしているだろう。
「ひまだねえ」
「勉強しろ、勉強。なんのための補習だよ」
「いやいや、日本が終わる時に勉強に精を出す子供なんていないって」
そう、隕石は日本に落ちるらしい。最初はロシアとかアメリカと言われていた。速度が上がるにつれ、軌道がずれていき、見事日本に直撃するそうだ。
「ならとっとと親と逃げれば良かっただろ」
「先生も彼女と逃げれば良かったじゃん。誘われてたんでしょ? 」
研究職についているという彼女は今回の隕石になんらかの形で関わっているらしく優先的に国外に出れる権利をもっているらしく、未だ多くの一般市民が航れない中、先生を学校まで迎えにきていたのを覚えている。
「どうだろうな。……ここもそんなに悪い場所じゃないしな」
「へえ、愛着あるんだ。この学校に」
教室を無造作に見渡してみるがボロいだけで特になんの感慨も浮かばない。
「母校だしな、校長のあの姿とか俺が生徒の時から見てきてたしな」
こんな状況で鼻唄を歌っている校長はいつも幸せそうな人だった。ニコニコと笑っていて、よく校舎内を歩き回っては生徒に声を掛ける。
先生が愛着あるのはこの学校というより校長なのかもしれない。
ここに残ると最初から最期まで言い張ったあの人を一人にできなかったとか。
「ここにも可愛い生徒がいるしね」
「はいはい。……そうかもな」
生徒が減ってから敬語をやめた。
先生一人一人と会話をするようになった。
校長と笑い合えるようになった。
ここが落ち着く場所になっていった。
「やっと、ここにも慣れたのにお別れか~。寂しくなるねえ」
「清々するの間違いだろ。もう勉強しなくてよくなるぞ」
「その代わりに息してないじゃん。だめじゃん」
高校三年生。夏が過ぎて冬がこれば卒業だった。
何がしたいとかはなかったけど親をみていてできた夢があった。
「あ、夢が叶ってる」
「は? 夢? あったのかよ」
「あったあった。ちょうある!」
「はいはい。どんなだ」
「死ぬときは好きな人と一緒に死にたい。結婚して同じぐらい年くって同じ墓に入るの」
「それのどこが叶ってんだよ」
「好きな人と一緒に死ねるじゃん。しかも年もそこそこ近い。遺書も書いて親に渡してあるし。先生と同じ墓にいれてくださいって。後校長には立派な像を建ててあげてくださいって」
「うわあ、ひくわー。おまえ本気でやったのかよ」
頷けば嫌そうに煙をはきかけられた。
「そうじゃなきゃ学校きてないよ」
「……そうかよ」
「そ。という訳で先生好きですよー。結婚します? 」
できもしない話ができるのも最期だから。
「おい、神崎」
「はい? 」
「やるよ」
左手を無理矢理掴まれて薬指には見慣れない指輪だ。先生の左手についているものと同じにみえる。
「えー、彼女さんのおさがり。 さすがにそれはひどいよ」
「違う。買ったんだよ、新しく」
小粒のダイヤに飾り気のない指輪は先生先生らしい。
「いいの? 」
「おまえ前に聞いてきたろ。最期に一緒にいたいなら誰だって。その時に浮かんだのがおまえだったんだよ」
「おお、嬉しい。あ、そろそろだ」
窓から見えた赤黒い隕石。実際どれくらいの時間が残ってるかわからないけど、わたしたちは生きていないから。
日本の終わりにわたしは最期の恋を愛にした。
世界の終わりにどう過ごすかってよく言ったり聞いたりしませんか?
いつも通りに過ごすか、生きようと頑張るか、いろいろあると思います。
こういう形もありかな、と思って書いてみました。