第8話 臨時休校
消えた死体と、血の池の前に佇む新海清彦と国田真希。突然の事に気持ちの整理が追いつかず、新海は立ちすくんでいた。国田は泣きながら誰かにすがるように現実逃避をしている。
頭が真っ白で緊急通報に応答していなかったため、携帯電話のGPS機能を元に救助隊やら警察やらが学校に来ていた。一応学校から死者が出た扱いになったため、臨時休校となった。それと同時に鑑識員が来て教室内の調査等が始まった。
(どうしよう。絶対俺のせいでこんなことになってしまった。すっかり油断してたけどまさか東条さんに気づかれるとは思っていなかった。いや、気づいていたのか? ただ単に僕のことがきになったのか、それともこの本に興味があったのか……。いずれにせよ俺は東条さんに近づかない方が良さそうだ。うちのクラスの生徒全員も自宅謹慎になってるし、また東条さんみたいな事は起きないはず。今度こそ、今度こそは何も起こさせない……)
〜国田真希パート〜
(嫌、いや、いやだ。人が、死んだ。もう何も無いと思っていたのに、、死んだ。ねぇ、こういう時、あなたならどうすれば喜ぶ? 弔ってあげればいいの? わからない。本の中の時や、この前のことを思い出すと、なんで僕が生きてるんだろうって思う。
東条亜里子さん、よく話してないからわからないけど、多分いい人なんだろうな。まだ楽しいこととかあったんだろうな。なんで僕が生きてるの。僕なんかよりも東条さんの方が生きる価値はあるというのに。鶴でも折ろう。折り鶴、作ったことないけど、東条さんの為なら何千でも何万でも作る…………)
彼女は我を忘れて、淡々と折り鶴を作っていた。それは彼女にとっては今の苦しいここらから逃げたいというだけの、言ってしまえば自分のためだけに折っているのだろう。あまりにも受け止めきれない現実を、折り鶴に込めて。
だんだんと天候が悪くなり、次第に雷雨となった。
もう、かれこれいくつ作ったかわからないが、彼女の家に来訪者が訪れた。この雨の中来訪者とは珍しく、自分の世界に入っていたため周りの状況が読めていないとはいえ、無性に警戒心が強くなる。
ピンポーン
「は、はい、どちら様………… !!!!」
そこにはこの世にはいるはずの無い、存在してはいけないはずだったものの姿が映っている。
「ねぇ、あなた、国田真希……よね?」
「!!」
思わず声も出ない。言葉にすることが出来ない。そうなるのも仕方が無い。なぜなら、
「あ、驚きすぎてそれどころじゃないのね。あたしの名前……分かる? 東条アリスだよ」
彼女の名は、東条アリスと自分の口で名乗っていた。しかも容姿、声共に、つい先日死亡したと思われた本人そのものなのである。
「なんかね、私、生まれた時から自己再生能力っつうの? それが人間じゃないくらいに強くってさ、あのくらいじゃ数時間もあれば全回復するってことなのよ。……自分でもよくわかんないだけどね……よくそれで嫌われてた。っとそんな事はどうでもいいんだけど、あなた。いつも新海清彦君? といつもつるんでるようだけど、家の場所知らない?」
「─────っ!!!」
この女はどうも怪しい。最初から物事を知りすぎている。赤子でもわかるほどに警戒心をむきだしにした。
「あーもう、いい加減なれてよ! あんたいちいち驚きすぎ! この前だって私が怪我した時も『嫌ぁぁー!!』だなんて言ってさー。もう鼓膜破れるくらいにうるさかったし……あんたオカルトとか好きなんでしょ? リアルの恐怖にも慣れてよ……」
暫く国田を落ち着かせ話ができる状態にさせてあげた。
「どう? 落ち着いた?」
「ご、ごめんなさい」
「もう、いいよ。それより、しってる? 新海清彦君の家」
「うん、知ってるよ。で、でもアリスさんが新海くんに近づいたらまたこの前みたいに!」
「いーのいーの。とりあえずあいつが何者か知りたいだけだし。いいじゃん! 教えてよ。」
「で、でも……」
「大丈夫だって! 私そんなに死なないし」
「だからって、アリスさんを危険な目に遭わせたくないよ」
「大丈夫って言ってるの! そこまで危険な事はしないって約束するよ。」
「…………わかった。」
彼女は東条に新海の住所を教え、ふたりは解散した。
「あの本、なんだろう。懐かしい感じがする。見たことも聞いたこともないのに。これが既視感ってやつなのかな。」
〜新海清彦パート〜
新海は特にすることもないので、適当にゲームをしていた。急に学校を休むことになってもいざ休みになってみれば案外やることがなく、昔遊んでたゲームとか引っ張り出して懐かしみながらやっていた。
(ゲーム少年かー、もうESがでてからやってなかったな。っと誰か来たようだ)
「はいはいー。今出ますー」
「やぁ、こんにちは。新海清彦くん。」
「─────────っ!!!!!!!」
(ど、どういうことだ? あの状況、絶対に生きてるはずなどない! 全身から地を吹き出し傷だらけでいたのに、あれで生きてる?! しかもよく見ればもう完治してるし……。どういうことだ? どうし)「そのくだり。もう二回目だし、絶対行稼ぎたと思われるからやめて。」
「すいません」
「まったく……少し怪我しただけて騒ぎすぎだっつーの。」
「い、いや! あれで少しとかどうかしてるでしょ!」
「はいはい、とりあえず! あんたの家に上がらせろ!」
「いきなりそんな事言われても、俺別にまだ学校の女の子の好感度とかあげたことないからそんなイベント起こるわけ」
「「(そもそも起こら)ないです」」
他人に、しかも女子に、面と向かって、しっかりはっきり言われたら傷つかないはずがない。
「フラグ立てたり好感度貰ったりしてないし、まじそういうのどうでもいいから上がらせろよ。んでもってさっさと本を見せなさいよ」
「5分だ、5分で終わらせるからちょっと待ってろ」
と、言い残し新海は部屋の片付けをした。あの状況で家に女の子を上がらせるとかバカにも程がある。
「はい! 上がって、どうぞ」
「はーい、2分オーバー! あんたの家どれだけ汚いか見せてもらおうか」
(くっ! マジで計っていやがったこいつ! この人結構S属性あるな)
「ふーん、中はこうなってんのか……。ってかそこまであんたの家についてきょーみないし。とりあえずさ、あの本見せてよ」
「あ、あれは駄目だ! あれを使うといいことが無い! 悪魔の契約書なんだ!」
誰にも目をつけられないようなところに、あの本は隠した。
「うーん、そうでもないみたいよ?だってほら、本の中に入った時自分たちに能力がついたりメリットはあるし意外と面白いじゃん。」
そう言って右手に持っているのはあの本。東条はニヤニヤしながらその本を振る。既に見つけられていた。
「だってエロ本みたいにベッドの下に放り投げてちゃ見つかるわ」
「素で地の文を読むな。……んでも、この前国田さんが入った時はまるで自分が死ぬかのような体験をしたらしいよ。だからこれは危険だ」
「それはあの人の能力が弱いだけでしょ」
「……それもあるだろうけど。……ていうか、東条さんこの本について詳しすぎじゃない? なんか知ってるの?」
ぐっと真剣な表情をする。妙に彼女はこの本に熱心だ。
「いや、知ってる訳では無い。見たこともないし、聞いたこともない。だけど、ずっと何故か頭の片隅にあるの。この本のこと」
と言い、東条はこの本を頭にコツンと当てて唸る。そして本について知っていること覚えていることを話し始めた。よくわからないので要約すると、
・この本は「魔性ノ本」と言うらしい。
・この本の能力を使うと自分は力を得ることが出来る。
・その能力のことを「魔性力」と呼ぶ。
と、この三つくらいだ。
「とにかく、その本を使えば結構楽しいことが出来るってわけ」
「そうとは限らないでしょ」
「どうせ、死ぬわけじゃないしちょっと行ってみようよ」
「いや、だからそれ東条さんだけだからね?!」
「まぁ、あたしが危なくなったらあたしのこと守ってよ。新海くぅーん」
「…わかったよ。東条さん」(なぜここで納得したし)
「あたしの事は、『アリス』でいいよ」
「わかった、アリス。アリスも僕のこと好きなように呼んでよ」
「そのうちね」
アリスは背を向けて手を振った。