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そうぞうしたタンサイボウな異世界で  作者: 吉田玲
チャプター1 序章
6/22

第6話 本の恐怖

 気づくと新海清彦は、自分の部屋にいた。


(あれ? 謎の男とか異世界はどうなったんだ?)


 そして目の前には見覚えのある机と衣服掛け。自分たちが住んでいる世界に戻ってきたと認識するのには手間を要した。

 国田真希が俺の隣で倒れている。


「国田さん、生きてる?」


 しかし応答はない。まるで死んでいるかのように。いや、まだ死んだとは決まっていないはず、と願いながら懸命に呼びかけてみる。


「国田さん。国田さん!」


 暫く起こすように試みるも国田は起きず、無残にも時は過ぎ我が目を疑った。


「どうして…? 俺は生きているのに……どうして…。」


「……っくぅ…………ぅうぁ…………」


「国田さん!」


 国田はこの世の終でも見たかのように恐れ慄いていた。そして声も出さずにただただ泣いていた。恐らく泣くだけでも精一杯のようにも見える。見てるこっちが引くくらいに顔面崩壊してるのは触れないでおこう。失禁とか気絶されると俺の家だし後処理が大変だからまだ有り難いほうだ、とさえ思ってしまった自分の悪意が憎たらしかった。


 しばらく時間をおいて気持ちを落ち着かせ、国田さんに何があったのか聞いてみる。


「ねぇ、話せるなら話して欲しい。嫌なら話さなくていいけど、この本のことについても知りたいし、だから話してくれないかな?」


「…………ぼ、僕はっ、う薄暗い森にいたの。

 そしたら、急に、なにかに体を掴まれて、獣みたいな鼻息が聞こえてきて、怖くなったから、走って逃げようとしたら、すぐに捕まっちゃって、身動きが取れなくて、一瞬で太い紐見たいなので拘束されて、目隠しもされて、で、

 怖くなって気を失いかけて、そしたら、僕の足に口を当ててきて、ゆっくりゆっくり食べられていて、痛くて、気持ち悪くて、そのまま、食べられて、そ、それから、それからっ……!!」


「もういいよ! わかったよ、もう話さなくて大丈夫。とりあえず落ち着いて」


「……僕……あが…………死ぬ…………怖…………」


 新海の声は聞こえないようで、ずっと耳を塞ぎながらぼそぼそと喋っていた。相当精神がまいってるようで、目の焦点があってないし、体全体をを震わせながら滝のように汗を垂らしている。

 少し落ち着かせるために布団を敷いて国他さんを横に寝かせてあげた。


……



………………



………………………………



(この本……どれだけ恐ろしいかわかった。絶対捨てた方がいいよな……捨てなきゃ……、でももし捨てて、悪い人の手に渡ったらどうする? 結局は自分たちが恐ろしい目にあうのだろう。だったらそうさせないために俺がずっと守ってあげるべき……か? 俺じゃなくたっていいじゃん。なんで俺なんだよ。こんな役めんどくさい…)


 ふと頭によぎるのは、この本から逃れたいという思い。いっその事、この本さえなかったことにしてしまおうと、新海は一階のキッチンへと向かう。


(そうだ! 焼いたりなんなりして本自体を消してしまえばこんなことに悩まなくてすむ。よし、そうと決まれば、家のコンロで火をつけて…………)


 驚くことにこの本は燃えなかった。むしろ何をしてもこの本をこの世から消え去ることは不可能だとさえ思った。特殊な素材で作られているのか、破こうとしても傷一つ入らず、燃やそうとしても火が燃え移らない。


(くそ! なんだこれ! 燃えない! 不燃性の紙ってどんな素材使ってるんだよ! くそ! どうすればいい? 他に、他にこいつを消す方法は………… だめだ、パニックになっててなかなか思いつかない。とりあえず今日はこのへんにして押し入れの中とかに隠しておこう。あと、もう遅い時間だし国田さんに帰ってもらおうかな。今は5時24分か……)


 意外と時間がたってないことに気づく。しかし死に際の気分を味わったせいか、これくらいの違和感に感じ取ることは出来なかった。いや、それだけの余裕もゆとりも無かったという方が正しい。頭の中を整理するために一旦部屋に戻ることにした。階段の一段一段がやけに高く感じた。


 国田も少しは落ち着いたようで、自我を取り戻していた。


「ごめん。取り乱しちゃって」


「いや、いいんだよ。逆にあんな体験して取り乱さない方がおかしいよ。今日はもう帰ってゆっくり休も?」


「うん。そうする。またあしたね」


「はーい、気をつけてね。」


「…………あ、あのっ。」


「ん? どうしたの?」


「……いつも学校行く時って一人?」


「そ、そうだけど」


「…………一緒に行っていい? ひとりでいるのが怖くって……だめかな?」


(上目使いしながらお願いされると断れないっていうけど、本当だね。破壊力が半端ない)勿論OKした。


「……あ、ありがとう! じ、じゃあ40分でいいかな」


 そうして、約束を決めて国田とお別れした。

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